醸造家が出す結論の数

ずいぶんと昔だけれど、東京で試飲会にいったときのこと。男性が物知り顔で自信たっぷりに「このシャルドネの樽は、、、、、(詳しい会話は忘れた)、だからこんな風に造ればいいんだよ」的な会話をブースの前でエンエンと続けてた。今は、ワインセンスが磨かれた方たちが多くなっているから、こういう会話をブースの前でする方は多分少ないと思うけれど。そのとき私は(偉そうに御託木並べてるけど、ワイン造ったことあんの?)と内心毒づいてた。

シャルドネと一口に言っても、いろんなスタイルがある。特にここ30年ほどの間に変転を続けてきた。

栽培家が栽培し、醸造家はセラー内での仕事からという仕事分担は、プレミアムワインになると今はあまりない。畑から関わる醸造家も少なくない。シャルドネをどの地区でどんな土質の畑で栽培するのか。その土質に適した台木を選ばなければならない。台木は土質が違うと異なる反応をするからだ。そしてクローンの選択。当然、クローンによってアロマと香りが違う。ここで終わらない。さらに栽培技術が影響する。どんな風にブドウの葉を処理するのか、そしていつ摘むのか。

セラーではどのタイプの培養酵母を使うのか(培養酵母を使わないという選択もある)。発酵温度は?発酵中に発生する澱をかき混ぜるのか、混ぜないのか、混ぜるとしたら、何度ほどかき混ぜるのか、どんなオーク樽で熟成するのか、しないのか等等。

出来る限り手を加えないワイン造りをするというのもある。これは手を加えなくても問題が生じないように考慮を重ねた上で出した結論なのだ。

これ以外にも醸造家は実に多くの結論を下さなくてはならない。

UCデイヴィス校のアメリン教授は、醸造家はブドウ樹が開花して、摘み取り、醸造、瓶詰めまでに、ざっと数えても200の決断をしなくてはならないといったそうだ。某ライターが醸造家と一緒に近代のワイン生産に基づいて数えたら、アメリン教授は100以上出さなければならない結論を見過ごしていたとか。

この多くの結論を経て、ひとつのシャルドネが出来上がる。

ということで、出会ったワインの後ろに栽培した人、造った人の影を少しだけ感じてワインを楽しむと、ワインの世界が広がる気がするんだけれど、、、。