No. 46 Date:2010-7-18
ヨーロピアン・グレープヴァイン・モスEuropean grapevine moth(EGVM)
昨年の9月15日にナパ・ヴァレーの高級カベルネ・ソーヴィニヨンが生まれる地区として世界に知られるオークヴィルのブドウ畑からアメリカでは初めてのヨーロピアン・グレープヴァイン・モスが見つかった。モスと呼ぶからにはガの一種なのだろう。
この害虫はアジア、ヨーロッパ、北アフリカ、アナトリア(黒海と地中海との間の広大な高原), カフカス(コーカサス)山脈、南アメリカに生息。主にブドウに害を与えるが、他の植物にも害を与える。
どのようにブドウに害を与えるかというと、春先に幼虫がさなぎになる前にくもの巣状に身を包みブドウの芽、房、花に住み着く。たくさんの幼虫が開花時期に房に住み着いたら、結実が損なわれるため、収穫量が減る。昨年、初めてこの害虫が発見されたオークヴィルの畑の収穫はゼロだったという。この害虫が住み着いて3世代の幼虫になると、熟したブドウにも害を与える。
早期発見早期対処がキー。そのために農産省とカウンティの農産部が協力してカリフォルニア州全体でガを捕らえるわな?を設置してチェックしている。今春に数箇所で、この害虫が見つかった。その一例としてソノマカウンティでは今年の3月にケンウッドで見つかっている。5月末現在では、ナパでは3万匹がわなにひっかっかた。ソノマ・カウンティは18と少ない。
今年の3月以来ナパ、ソノマ、ソラノ・カウンティではガが発見された周辺を隔離している。隔離といっても、隔離された地区のブドウがワイン生産に使えないということではなくて、害虫を拡散させないために、作業を終えて畑を出る時点でトラクターやその他の器具を洗浄するという規則を守らなければならないということだ。またブドウはワイナリーで使用される前に点検されなければならない。
春先に卵と幼虫を殺すための殺虫罪を散布してけれど、絶滅は無理。モスの存在をコントロールし共存するということになるのだろう。殺虫剤は毒性が低く、オーガニック栽培にも使用許可が出ているものもある。
ベンジガー・ファミリー・ワイナリーの醸造責任者であるロドリゴはチリ出身。この害虫がチリのブドウ畑を襲ったのを見ている。「チリでは強い殺虫剤をたくさん散布した畑は失敗した。益虫も殺してしまったからだ。オーガニック栽培の畑は生き残った。この害虫は生き残るだろう。自然のバランスの中でコントロールするしかない」と話す。
ブドウ栽培管理事務所の友人は「官庁がわなを張ってチェックしているし、マスコミが騒ぐほど戦々恐々としているわけではない。でも大変なのは収穫期だ。摘み取ったブドウをいちいちチェックするわけだから」とため息。
人間の世界もエイズ、癌と、次々に出てくる病害の治療法を開発して病気と戦う。農業も同じこと。ピアス病の媒介である ガラス羽シャープシューター、そして今、ヨーロピアン・グレープヴァイン・モスの出現に対して対策を練って戦う。それは自然の掟なのだ。