シェーファー・ヒルサイド・セレクトを究める(2)

醸造責任者 イライアス・ファーナンデス(Elias Fernandez)インタビュー


Q.クローンはいくつくらいですか?

この敷地の畑では7つほどです。アイゼック・クローンはサンスポット(Sunspot)・ヴィンヤードに植えていますが,この辺りで長く植えられていたものです。ベラオークス・クローン、シー・クローン、337,341,15,ジャクソン・クローンです。それに台木は土壌のタイプと表土の深さによって選びますので、いろんな台木が使われています。毎年、母なる自然が、どのクローンがヒルサイド・セレクトになるかを決めます。

Q.ヒルサイド・セレクトに使われるロットは毎年、違うということですね。

そうです。ですから例えばヴェナド・イレガル(Venado Illegal)の葡萄が毎年ヒルサイド・セレクトに使われていると言うことはできません。ただアッパー・サンスポット(Upper Sunspot)かローアー・サンスポット( Lower Sunspot)は常にヒルサイド・セレクトに使われていることは確かです。斜面が南西向きで質が最も一貫している畑です。私は長い間、ここでワインを造っているので、8月になると、その年の成長期間中の気候、葡萄の成長状態、葡萄の味の進行状態、葡萄樹のバランス等から、どの畑がヒルサイド・セレクトになるかほぼ予測がつきます。昔は畑毎に全部分けて醸造発酵していましたが、今は葡萄を食べてみることで、2つの畑を一緒に摘んで発酵することもあります。畑を熟知していますし、長い経験があるからです。

異なるクローン、太陽の当たり具合が異なる斜面の畑の葡萄をブレンドすることによって、味わいに深みと複雑味を出すことが出来るのです。この敷地内にある畑のそれぞれのクローンが異なる特質をもっていますから。

Q.クローンによって、その特質が大きく違いますか?

はい、色の濃さ加減、色のタイプ、タンニンにも違いがあります。どのタンニンもソフトではあっても,その構成が違うのです。あるクローンはブラックベリー、他はチェリー、あるいはスパイシーというように、アロマにも違いがあります。この違いが私に選択の幅を与えてくれるので、その中からベストのものを選ぶことが出来ます。

Q.何を基準に選択するのですか?

葡萄樹と房のバランスを観察します。丘陵地なので土地が痩せていますから,房が付きすぎるということはほとんどありませんが、年によってはありえます。そうすると房を切り落とす作業をします。その一画全体の葡萄樹の房がきれいで均質かどうかを観察します。

Q.糖度はどのくらいまで上がるのを待つのですか?

私がワインを造り始めたころは、ブリックス、数字に基づいて葡萄を摘んでいました。でもそうして造ったワインが市場に出たとき、葡萄が未熟だったと感じたのです。80年代の数ヴィンテージです。それでブリックスを基に摘むのは間違いだと気が付きました。他の要素も見なければいけないと思いました。現在、私達はブリックスに基づいて摘むことはしていません。ブリックスは観察する事項の一つですが,最後に見るものです。最初に私が観察するのは、タンニンが熟したかどうか、葡萄が糖度だけではなく生理学的に熟したかどうか、色、タンニン,フルーツ。例えばよく熟した桃を摘むときは、口に入れて美味しい桃だけ摘みます。まだ硬い桃は摘みません。熟していない桃は美味しくないですよね。同じことなのですが,これを見極めるのには,経験が必要です。今は、味を見て収穫日を決めるようになりました。

Q.糖度はある程度の指針として使うということですね。

はい、糖度が上がりすぎるとポートのようなワインを造ってしまうことになりますから。また指針として葡萄樹の状態を観察します。葡萄樹がストレスを受けているかどうか、健康な状態かどうか。もし糖度が高くなっていて、葡萄樹の状態が不健康なら,ポートのような香りがするワインになってしまいます。ですから葡萄畑を歩いて味見をします。収穫時期は朝6時に仕事が始まります。6時30分には最初の葡萄畑を歩き回って味見を始めて午前10時までそれを繰り返します。サンプルに摘んだ葡萄をビニール袋に入れ、味等の情報をビニール袋に記入してワイナリーに持ち帰ってブリックス等の分析をします。

Q.どんな情報をビニール袋に書き込むのですか?

タンニンはまだグリーンだとか、種の味がグリーンだとか。種の状態も観察しています。これも指針になるからです。それで私が「イエス,摘み時だ」というと摘むことになります。全て手摘みです。

Q.タンニンが熟した時点で摘むということですが、ヒルサイド・セレクトのアルコール度はどのくらいになりますか?

14.5%前後になります。

Q.以前は,アルコール度数がもう少し低かったですよね。

13%から13.5%ほどだったと思います。私達が学んだことはワインの質を次のレベルまで上げるためには、ハーブや野菜を想わせるアロマから離れるためには、アルコール度が多少上がるのはやむをえないということです。

Q.この地区では、アルコール度が13-13.5%のワインを造ると、ハーブや青っぽい野菜を想わせるアロマが出やすいということですか?

そうです。私達はボルドーと反対の問題を抱えています。ボルドーは涼しいし、葡萄の成長期に雨が降るという問題に対処しなければなりません。ここでは太陽が当たりすぎるということです。ですから,その条件の中で最高のワインを造ることを学ばなければなりません。

Q.葡萄がワイナリーへ運ばれてきますね。醸造法は?

葡萄の味が良く手摘みされた葡萄が0.5トンの小箱に入れられてワイナリーへ運ばれてきます。ベルトコンベヤに乗せて選別作業をします。それから除梗破砕します。発酵タンクへ入れ培養酵母を入れて発酵させます。シャルドネは自然酵母ですが、赤は培養酵母を使っています。

Q.葡萄の糖度がかなり高いので、培養酵母を使ったほうが良い結果が出るということですか?

そうですね。発酵途中で発酵が停止してしまうのを避けることが出来ます。それに私は赤ワインに培養酵母を使ってもさして違いが出ないけれども、白ワインには違いが出ると信じています。発酵温度は28-32℃です。発酵温度は選択とコントロールが可能です。毎年,温度が違います。レシピーはありません。

Q.発酵温度はどのようにして決めるのですか?

葡萄の味に基づいてです。私がそのロットから引き出そうとしているもの、ロットによっては色が予想通りに出ていないと少し温度を上げる、発酵が速く進みすぎていると少し温度を下げる、というようにです。葡萄がワインになっていく過程でコントロールできる道具なのです。

Q.エクステンデドマゼレーション(長期醸し)はしますか?

いいえ、エクステンデドマゼレーションを行なう理由は、タンニンをソフトにするためです。スタグス・リープ地区では,私はする必要がないと感じています。発酵が終了すると樽に入れマロラクティック発酵を終了させます。ヒルサイド・セレクトのロットは新樽100%です。

Q.長い間、特にカベルネ・ソーヴィニヨンを造り続けていますが、造り方が変わっていますよね。特にどんなところが変わりましたか?

1980年代初めは、デイヴィス校を卒業したばかりで数字に頼っていました。私は数字に基づいてワインを造っていたと思います。レシピーに従って造っていました。PHが一定の数字でないと酸を足したりといった具合です。80年代後半になるといろんな実験を始めました。それから目の詰まったろ過機を使っていました。とてもクリーンなワインを造っていたということです。ヴィンテージや畑の個性といったことは考えていませんでした。90年代に入ると、余り強いろ過をしなくなりました。いろんな実験の結果、ろ過は余りしないほうがベターだという結果が出たからです。ワインはクリーンではないけれど,ワインの特質を取り去ってしまわない,ワインの個性が残るということです。頻繁に酸を加えることもなくなりました。新樽を使う率は高くなりました。私達の葡萄にはどのタイプの樽がベターかという実験もしました。90年にはどのタイプの樽が私達の葡萄にベストかということも突き止めました。どのフランスの樽生産者の樽がベストか。ヒルサイド・セレクトは32-34ヶ月間,熟成させるので、木目の詰まったものがいいのです。特定の森のオークであると同時にリングがタイトな樽であることも大切です。そうすると樽に入ってくる酸素の量が少ない、あるいはゆっくりと入ってくるからです。

Q,特定の樽製造者から購入するということですか。

それもあります。数社の樽製造者から自分が望んでいる樽を手に入れるために大きな努力をしました。オーク樽がフランスからワイナリーに届くと、同じ会社のオーク樽を他のワインにも使うので,届いた樽全部の香りを嗅いで,最も香りが豊かな樽をヒルサイド・セレクトに使用します。ヒルサイド・セレクトのために細部まで注意を払っています。

1990年代が終わったら、セラーでワインを造るのではなくて、畑でもワインを造っていることに気が付きました。片方だけではできないのです。二つが組み合わされて偉大なワインが出来るのだということです。世界でベストの葡萄を手に入れても,セラーでそれをどうすればいいのかを知らなければ、葡萄を台無しにしてしまいます。逆に質の良い葡萄が手に入らなければ奇跡を起こすことは出来ません。

Q.セラーと葡萄畑では、どちらがより重要ですか?重要度は50:50ですか?

多分70:30だと思います。70が葡萄畑ということです。20年間で多くのことを学びました。私の意見では今、ベストのワインを造っていると思います。コンセプトを理解出来るようになったからです。今、私の仕事は、より細かいことを極め続けて行くことです。例えばコルク。ポルトガルへ出かけてコルク生産プロセスを学びましたし,どういうことができるのか私のアイデアも述べました。ご承知のように欠陥コルクの問題が頻繁に起きています。でもシェーファーのワインには欠陥コルクによって劣化したワインの問題が少ないようで、これは私の努力が実ったものと誇りにしています。

Q.ワインを造るだけではなくて,コルクについても関わっていくということですね。

そうです。私は大工で電気技師で、配管工、フォークリフト運転手です。いろんなことを学ばなければなりません(笑い)

Q.今でもワインに酸を加えることをするのですか?

最近,いつ酸を加えたかは覚えていません。加えなくてもよかったからです。なぜかというと良い畑であることと葡萄栽培技術が向上したためです。例えばフルーツゾーンの摘葉をするとPHが低くなりますし、葡萄樹のバランスが取れていて健康だと、何も加える必要がありません。将来、加えることはないとは言いません。でも加えることは非常に稀だと思います。

Q.細部にまで注意を払ってヒルサイド・セレクトを造る過程を説明してもらいましたが、醸造家にとってのキーポイントは何ですか?

素晴らしい丘陵地の畑に恵まれたことだと思います。醸造家にとって畑がキーだと思います。私にとってヒルサイド・セレクトを造るキーポイントは葡萄畑において細部まで注意を払うこと、その後にセラーがきます。

Q.葡萄栽培に深く関わっているということですね。

決定事項には深く関わっています。とても重要ですから。

Q.醸造家が葡萄栽培にも深く関与するようになったのも比較的新しいことですよね。

80年代には葡萄栽培にはあんまり関わっていませんでした。

Q.葡萄畑の植替えが始まっていますね。ヒルサイド・セレクトはどうなるのでしょうか?

Upper Sunspotは1972年に植えたものです。ジンファンデル種だったのを、ジョン・シェーファーが75年にカベルネ・ソーヴィニヨン種を接木しました。品種を途中で変えるとその葡萄樹は余り長く持ちませんから、葡萄樹の老化が進んでいました。植替えをしなければならないことは知っていましたので、上に2つ新しい畑を開墾しました。パリセイド(Palisade)とヒッチング・ポスト( Hitching Post)です。アメリカでは”You get hitched. You get married”といいますが、ダグはHitching Postで結婚式をあげました。両方の畑から2001年に最初の葡萄を収穫しました。

Q.サンスポットの葡萄はヒルサイド・セレクトのどのくらいを占めていましたか?

20-30%ほどです。

Q.Palisadeと Hitching Postがサンスポットの代わりになるわけですね。

はい、2つともとても良い畑です。2001年がUpper Sunspotの最後の収穫となりました。このロットは別にキープしておきました。25周年記念として特別に瓶詰めすることになるかもしれません。Upper Sunspotの一部はヒルサイド・セレクトにブレンドしますが,もし,ジョンがそうすると言ったら一部を特別に瓶詰めするかもしれません。まだ最終決定はしていませんが、そういうアイデアも浮かんでいます。2002年からはUpper Sunspotはなくなります。でもLower Sunspotから良い葡萄が収穫できます。Upper SunspotのクローンをLower Sunspotに植えているので,それが来年収穫可能になりますから、Upper Sunspotの子孫が多少はヒルサイド・セレクトにブレンドされることになります。

Q.ワイナリーの敷地内にある葡萄畑のカベルネ・ソーヴィニヨンの出来によって、どの畑でもヒルサイド・セレクトにブレンドされるので,Upper Sunspotがなくなったことが、ヒルサイド・セレクトにとって大きな打撃であるということはないわけですね。

そうです。年によってはRattler、 La Vigna Lana、 Lookoutと、どの葡萄畑もヒルサイド・セレクトにブレンドされる可能性があるということです。

皆さんに理解していただきたいのは、ヒルサイド・セレクトは単一畑ではなくて、シェーファーの敷地にある畑を代表する,スタグス・リープ地区を代表する、ヴィンテージを代表する、このワイナリーがある土地を代表するワインということです。この土地から可能な限りのベストのワインを造るということです。

Q.ヒルサイド・セレクトはいわゆるニュースタイルのワインのひとつですよね。完熟葡萄を使い、フェノールの含有量はとても高い。アルコール度は高め、PHもやや高い、酸も十分だけれども多くはない。このタイプのワインは長く熟成しないのではないかという声も聞こえてきますが,どう思いますか?

1978年のシェーファーのカベルネ・ソーヴィニヨンは非常に糖度が高い状態で摘んでいます。そのワインは1970年代の最もクラシックなワインのひとつと言われています。最近,飲む機会がありましたが、まだ生き生きとしてリッチでした。イエス,色は少し褪せていましたが、古いワインなので当然です。まだ甘く,口の中で乾いてしまう感じは全くありません。それから1980年代のワインを飲みました。その当時、業界ではフッドワイン(食べ物に合うワイン)が話題になっていて,みんな糖度が低めの葡萄を収穫してアルコール度が低いワインを造りました。私の意見ではそのワインも長くもっていますが、あまり美味しくありません。今、私は長期熟成可能なワインというのは、バランスのとれたワインであると信じています。イエス、葡萄は完熟したのを使っています。でもバランスがいいと思っています。人によってはちょっとやりすぎて,アルコールが強すぎるワインも出ていますが。葡萄、樽、フルーツ、アルコールのバランスが大切です。この点について醸造家は熟知していなくてはなりません。ですから私はヒルサイド・セレクトは長期熟成が可能なワインだと信じます。

もし,私がボルドーのようにワインを造ろうとしたら,アルコール度が12.5%のワインだと,グリーンで痩せたワインになると思います。グリ―ン&リーン(痩せた)のワインがいいのか(笑い)、ビッグでジューシーなワインがいいのかは、消費者に選んでいただきたいと思います。

私の仕事は、この畑が与えてくれるものをどのように解釈して、それをどうやって最大限にワインに生かすか、表現するかです。畑が与えてくれたものを最大限に生かした結果,こういうタイプのワインが生まれました。

Q,長時間,本当にありがとうございました!