No.21 Date:2005-02-13

ユニークな2つのワイナリーのオープンハウスに行く機会があった。ワイン造りに情熱を賭ける醸造家が自分が信じるワインを造っているPaxと Scherrerという小さなワイナリーだ。
2つ のワイナリーの共通点はソノマ・カウンティの産業地区の倉庫の一角を借りて、内部をワイナリーに改造して品質の高いワインを生産しているということだ。 両方ともテイスティングルームがないので、1年に1‐2度、過去にワインをオーダーした人、ニュースレターを受け取っている人たちに招待状を送付して、 オープンハウスを開いている。

ワイナリーに即席の試飲テーブルを並べて試飲コーナーを設置、リリースしたワイン、(シェアーは古いヴィンテージを2,3加えていた)お客さんに試飲しても らうというもの。即席販売、予約してあったワインを受け取りに来るということも兼ねている。小さなワイナリーにとってはとてもいいプロモーションだと思う。

全く正反対なのが、この二つのワイナリーのスタイルが両極端な点だ。だからカリフォルニアワインは面白い。

PAX
シラースペシャリスト(ヴィオニエとローヌ系品種のブレンドも少し造っている)と銘打って涼しい地区のシラーを生産。ほとんどがブドウ畑名入りのワインで、 生産量も各畑ごとに250ケース、500ケースと少ない。それに同じブドウ畑でも葡萄を摘んだ畑の一画によって違う名前が付けられているから、ブドウ畑名を記憶してワインをオーダーしても、それだけではほしいワインが手に入らないこともある。例えばAlder Springs Vineyard, Alder Springs Vineyard “The terrace”, Alder Springs Vineyard “Emerald Pool“の3つのワインがある。PAXワインの熱狂的なファンは畑名+どの一角のワインと記憶しているのだろう。初めてテイスティングに行って混みあっている中でラベルを見てメモをとって、畑の一角の名前まで見分けるのは、大変だった。 ワインのスタイルは今流行のライプスタイルでアルコール度が16度なんてのがざら。熟した葡萄の味がたっぷりなのだが、酸味がきちんとあってだれていない。これは醸造家の腕とセンスなのだろう。テクニシャンとみた。
自社畑は所有していないか、所有していたとしてもごく小面積で、他は良い畑を見つけて葡萄を購買するか、栽培契約をしているのだと思う。

この日来ていたお客さんは、こういうスタイルのワインを楽しむことができるエネルギーと気力と体力のある人たち、30ー40代が多く、50代、60代はちょ ぼちょぼ。エイジングがどうのこうのという一見してワインスノブ風な金持ちの70代のコレクターという様子の人は見当たらない。今飲んでもフルーツがたっ ぷりだからとてもおいしい。ひょっとしたら、今飲んだほうが美味しいかも。ライプ、高アルコール度、元気一杯の濃いワインをワインの原点として味覚を発展させたワイン層が確実に存在するのだということを目の当たりにした。

セラーは混んでいて活気に満ちていた。スタイルのいい足腰にぴったりとフィットしたジーパンの若い女性が、ちょっと頭を揺らせながらカールした長いブルネットの髪を肩の後ろへ手で押しやって「今年のこのシラーは去年よりもいいわね」と連れにコメントしている。「オー、シラーが好きな若い女性!いじゃないの」 とちょっと感激したのもつかの間、強い香水の匂いが私の鼻をがーんと攻撃。「香水はカンベンしてよ」と口うるさくなったオバサン(私)は心の中でぶつぶつ。
それとすごいのはこのワインは1本が50ドリル、60ドルという高価格なことだった。でもみんな買ってたよ。まだ若いミスター・パックスはお金持ちのお友達が多そう。
パックスのシラーは確かに美味しいけれど、これをインターナショナルな観点から見たとき、たとえばローヌのスパイシーで野性っぽい、それでいてニュアンスのあ るシラーと比べて、値ごろ感はどうなのだろうか。コクがあって、パワーのあるライプタイプのカリフォルニアのカベルネがインターナショナルなワイン市場で 受け入れられたように、濃くて、パワフルでフルーティでライプなカリフォルニアのシラーも、オープンで体力とお金のあるシラー好きの消費者に受け入れるの かどうか、興味のあるところ。でもミスター・パックスはパーカーに絶賛されているから米国内で売り切れているだろうし、「だからなんなのさ」って言うかも しれないね。

2004年ソノマ・ヒルサイド
少しのシラー香。口当たりが滑らかで丸い感じ。酸がちょっと生っぽくてシャープ。まだタイト。涼しい地区のシラーなのだろう。もう少し時間が必要。

2004年アルダー・スプリング・ヴィンヤード、メンドシーノ・カウンティ
ひとつ前のより少し複雑味がある。まろやかでこくがある。タンニンが上口につく。フィニッシュは中位。 とここまで書いて、ふと気がついた。全部で10のシラーをテイスティングできたのだけれど、数ワインを除いてどのシラーも畑名入りで生産量が200‐500 ケース。これを手に入れる人は限られている。10のシラー全部について私の印象を書いても、別に何の役に立たないだろう。そこで私がいいと思ったシラーに ついてだけ書くことにした。

2004年Kobler Family Vineyard ロシアン・リヴァー・ヴァレー
クラシックなシラー香。香りの焦点が定まっている。なめらかで軽やか。涼しい感触。長いフィニッシュ。エレガント。風味の凝縮度は他のワインより少ないけれど、涼しい地区のシラーの味わいがある。バイオダイナミック栽培のブドウ。

2004 Griffin’s Lair ソノマ・コースト
ジャミーな香り。エキゾチック。密度の濃い黒フルーツ。甘味+ニッキ+スパイス。酸味と甘味の長いフィニッシュ。パワフルなのだけれど、重たくない。ユニークでエレガント。

2004年 Walker Vine Hill Vineyard ロシアン・リヴァー・ヴァレー
樹齢15年のブドウ樹。濃く深みのあるシラー香。とろみと甘味。タンニンが歯にくっつく。フィニッシュにココアの粉の味。1グラスだけ飲みたい。

2004 Lauterbach Hillロシアン・リヴァー・ヴァレー
香水のような香り。口当たりはシルキー。スケールはやや小さめだけれど、エレガントでチャーミングなシラー。長い酸味とタンニン。

Scherrer
ロシアン・リヴァー・ヴァレーにあるワイナリー、デリンジャーの醸造責任者だったフレッド・シェアーが独立して設立した。デリンジャー時代に、アレクサン ダー・ヴァレーにある父親のブドウ畑からジンファンデルとカベルネ・ソーヴィニヨンを造っていたのだが、独立してからシャルドネとピノ・ノワール、シラー の生産も始めた。自社畑と栽培契約している畑で自ら栽培したブドウを使っている。

デリンジャーで素晴らしいワインを造っていたことからも察せられるように、高い醸造技術を十分に駆使できる醸造家だが、それを超えて、意識的に自然なワイン造りに情熱を注いでいる。ビジネス第一の醸造家が多い中で、自分のワイン造りの信念を徹底的に貫いており、昔の律儀な醸造家を思わせる。今流行のスタイル (高アルコール、高ペーハー、ライプ)のワインには絶対反対、きりっと引き締まった酸味が豊かな、ブドウの個性を生かした、料理に合う、長く熟成させることが出来るワインを造っている。

数年前にこのワイナリーへ行ったときに比べると、ワイナリーの広さが2倍になっていた(それでも決して大きくはないけれど)。外にポータブルのトイレがあっ たのを覚えているけれど、今回は男女2つのトイレがきちんと取り付けられて、科学分析室も設置されていた。ラベルも醸造家としての彼も地味だけれど、彼のワインが認められてきているということなのだろう。価格は高くて40ドルと良心的だ。

ソノマのワインショップやレストランで「いいワインだヨ!」と情熱を込めて言うのを聞いた。我が家でピノ・ノワールが好きな友人を招いてディナをしたときに、さりげなくシェアーのピノ・ノワールを出した。「いいピノ・ノワールだね。誰が造ったんだい?」と友人もさりげなく聞いた。シェアーというワイナリー の名前は彼も知らなかった。 こういうワインはワイン・スペクテーター誌やパーカーのレーダーからはずれるから、こんなに信念を曲げないワイン造りでビジネスになるのかなと心配してたので、数年前よりセラーがちょっと改善されているのを見てほっとした。

2003年シャルドネ Helfer VIneyard ロシアン・リヴァー・ヴァレー
まだ閉じている。口当たりはクリーミーでありながら酸がパリッとしている。辛口。トロピカルフルーツ、樽香、フルボディといった多数派のカリフォルニアのシャルドネに比べると軽く感じるかもしれない。軽やかでエレガント。

2001年ピノ・ノワール Fort Ross Vineyard ソノマ・コースト
薔薇の花びらのかぐわしい香り。美味しい酸。空気に触れた後スパイシーさとデリケートさが加わった。長いフィニッシュ。華麗なワイン。 ヴァン・グリカベルネから造ったロゼワイン。ロゼというとぽってりと甘いワインを思い浮かべてしまうけれど、ここのロゼはとてもよく造られている。決して甘すぎず、酸味がきちんとあるので魚介類にはぴったりのワイン。18ドルと価格もフレンドリー。