オー・ボン・クリマ (1) 

ジム・グレンデネン インタビュー

午前10時にインタビューをする約束になっていた。前に行ったことがあるので、場所を見つけるのには自信があった。それなのに、その日は隣り合っている道路の右のほうへ入ってしまった。そうするとジムのワイナリーが見えてくるのだけど、ワイナリーと道路の間の溝がだんだんに広くなって、小川になってしまい、私たちが走っている道路は山へと向かって、葡萄畑の門に突き当たって行き止まり。「どうやってあそこへたどり着けばいいの?」といえば、「車を降りてこの川を渡って行けば」なんて、半分本気で相棒に言われて、「うむ」とうなってしまう。「おーい、ジム!うちらはここにいるんだぜ、ターザン用のロープを投げてくれない?」なんて叫ぼうかとぶつくさ。そんなこんなで30分遅れて、ふうふう言いながらワイナリーに駆け込んだ。ジムはなんでそんなにあせってるのか、という顔で、「ハーイ!」と言ってせっせと料理をしている。今日はインタビューの後にランチをご馳走してくれるという。といってもキッチンが別室にあるわけではなくて、セラーの一部にキッチンが備え付けられているだけなので、熟成中の樽がキッチンの反対側に高く積み上げられているのが見える。

あわただしいままに、さて、インタビューはどこでと聞くと、な、な、に!料理をしながらでいいだろうということなのだ。おまけにセラーだから作業中のフォークリフトのパシーンという音がしたり、ジムが包丁を研ぐのをじっと見つめたり、ジムにくっついて歩いてのインタビューとなった。ジムにお会いした方はご存知と思うけれど、機関銃のような速さでしゃべりまくる。もたもた質問していると質問をさえぎって答えてくれる。きっと頭の回転が速いので、質問の内容はあっという間に把握して先のことを考えているのだろう。質問した私は、問が何だったか忘れて、だひたすらメモを取るという、なにもかもが初体験となったインタビューでした。

ジムの答えは私の質問を飛び越えてもっと先まで話が行ったり、また戻ったりで、お読みになっていて、話がすっとんであれっと思う個所があるかもしれませんが、ご了承ください。

Q なぜボルドー系品種のワインではなくて、ブルゴーニュのワイン造りを選んだのですか?

大きな理由は、サンタ・バーバラは偉大なブルゴーニュの品種が栽培できるけれどボルドー品種はあまりよく栽培できないということです。今は良くなりましたが、私がワイン造りを始めたころはボルドー品種は良くありませんでした。それから私にとって重要なことは、1974年にボルドーへ行って住んだのですが、ボルドーにあるようなワイナリーを始めることは想像ができませんでした。広大な土、巨大なシャトー、私にとってあんまり意味がなかったのです。1977年にブルゴーニュへ行きました。ブルゴーニュでは小さな家の地下に35から40の樽があって、本当に小さなワイナリーから始めなければならない人にとっても、ワインビジネスを始められると思いました。ワイナリーの規模、私が造りたいと思っていた品種、私にとって理にかなっていたのです。

Qなぜこの地区を選んだのですか?

この地区に住んでいて、この地域の大学に行こうとしていました。そのころ、この地区はあまりラッキーではなかったようですが、ワイナリーを始めていた人たちと出会いました。新しいワイン産地で、あんまり質のいいワインは生産されていませんでしたが、可能性があると思いました。私にとって最も可能性があると思ったのが、ピノ・ノワールです。

Q。ジムが造るピノ・ノワールとシャルドネはバーガンディアン・スタイル(ブルゴーニュ・スタイル)といわれていますが。

私はカリフォルニアワインをモデルにワイン造りを始めました。ザカ・メサ・ワイナリーでワイン造りを始めたのですが、ワインの味はシャトー・セント・ジーンのワインをイメージして造っていました。当時、シャトー・セント・ジーンやシャトー・モンテレーナがポピュラーでした。ザカ・メサのワインが良い状態にある期間に飲んでみました。美味しいとは思ったのですが、この地区の究極的な個性を表現しているとは思いませんでした。ブルゴーニュへ行って来た後に私が悟ったのは、この地区の葡萄のスペシャルな点は高酸、エレガントな味わい、複雑な味わいです。それでブルゴーニュス・タイルのワインを造って、マロラクティック発酵をして酸を柔らかくして、複雑な味わいを強調するようにしたら、完全なワインとなってブルゴーニュのワインのように興味のあるワインになると思ったのです。私が知っていたカリフォルニアのワイン醸造方法ではなくて、ブルゴーニュで学んだ醸造方法が、1981年でした、カリフォルニアで遂げたいと思っていた夢を完成させてくれました。

Q.ジムにとってのブルゴーニュ・スタイルとはどんなワインか説明してくれますか?

ブルゴーニュス・タイルのピノ・ノワールとは複雑味、スパイシー、テロワールが表れているということ。ひとつの村と隣の村ではワインの香りと個性が違いますから、葡萄が育った土地の香りがします。私にとってはリッチでハーモニーがよく、角がなく、まろやかで全てのエレメントのバランスがとれていて、香りが個性的で育った土地のユニークさを持っているワイン。そんなワインを造りたい。

Q.そういうワインを造るために、どんな醸造法をしていますか?

私の醸造方法は段段とよりシンプルになっています。ワイン生産の経験を経ると、そうなるべきだと思います。今はオープントップの発酵タンクだけを備えています。発酵時間が短くなりました。

Q.短いというのはどのくらいの日数でしょうか?

私が造り始めたころ、長い発酵期間というのは25-30日でした。ボルドータイプのワインを造るには、まだそのくらいかけていますが、私のところでは10-14日ほどです。色、複雑味を抽出しますが、苦味は抽出したくない。それからワインは酸化させたくないと思っています。プロアセスがよりジェントル、優しくなっています。葡萄はバランスよく熟してほしい。バランスよく熟した葡萄は、ポンプオーヴァあるいはパンチダウン(発酵中に浮いてきた果帽を発酵タンクに沈める作業)を1日に3-4回する必要はないと思っています。今、私は1日に2回しかしません。(包丁を磨ぐキューッ、キュッという音が会話をさえぎる)圧搾もジェントルにします。

Q.葡萄は全房で発酵させるのですか?

除梗はするけど破砕はしません。以前のように梗を頻繁に使うことはしなくなりました。時々実験的に梗を使ってみています。その例として2001年はよく熟した梗を使いました。古い伝統的な、以前に造っていたようなキュヴェを造りました。

Q.その結果はいかがでしたか?

ファンタスティック!2001年は今まででベストのヴィンテージだったので、ワイン造りにいろんな試みをすることができたのです。

Q.これからもヴィンテージによっては梗が十分に熟したら使うということですね?

イエス、またそういうチャンスがあったら、梗を入れて発酵します。でもそのチャンスは10年に1回です。2001年のように梗が熟する気候がやってくるのは、本当に稀なのです。

Q.発酵が終わると樽に入れて、手を加えることなく熟成させるのですね?

その通りです。マロラクティック発酵はシャルドネもピノ・ノワールも樽の中で終わらせます。

Q.発酵は自然酵母ですか?

ヴィンテージによります。2001年はほとんどが自然酵母です。システム化したルールはありません。酵母がワイン醸造過程で最も重要なものだとは信じていません。最も重要なのは葡萄です。酵母は効率的であればいいと思っています。

Q.ヴィンテージによって培養酵母、あるいは自然酵母と使い分けているということですか?

私にとっては複雑なことなのです。私にとって最悪の状態というのは、葡萄がすごく熟した年に自然酵母を使うということです。というのは自然酵母はすごくよく熟した葡萄の糖分を完全にドライにするのには効果的ではありません。カリフォルニアで自然酵母の使用を試みている人達は、葡萄をかなり熟した時点で摘んでいます。それは全く逆だと思うのです。私は熟しすぎていない葡萄を摘んで自然酵母を使うのを好みますが、かなりよく熟した葡萄なら培養酵母を使いたい。そうでなければワインにいろいろ手を加えなければなりません。スピニングコーンを使ってアルコールを除いて発酵を続けさせるなど、器具を使って人工的な方法でワインを造ることになります。それは私のやり方ではありません。