No.2シェーファー・ヒルサイド・セレクトを究める(1)

シェーファー・ヒルサイド・セレクトを究める

醸造責任者 イライアス・ファーナンデス(Elias Fernandez)インタビュー

Q,生立ちと醸造家になった経過を聞かせてください。

カリフォルニアのストックトンで生まれて、生後2週間でナパ・ヴァレーへ越してきたので,ナパッ子と思っています。私の両親はメキシコからの移民で農家で働いていました。両親がナパへ来た頃はくるみとプルーンの栽培、牧畜,乳牛の放牧といった農業が主でした。現在のワイン産業のようでは全くありませんでした。父親はウッド氏の下でくるみとプルーンの栽培を手伝っていました。1970年代にウッド氏が胡桃やプルーンの畑を葡萄畑に変える葡萄畑管理会社を設立したので、その会社で働くようになりました。1960年代にモンダヴィがワイナリーを設立してから、多くの人が葡萄栽培に関心を持ち出したのです。くるみやプルーンの果樹園が葡萄畑にどんどん変わって行きました。その時期に父はその作業に関わったのです。私は1961年に生まれました。父は私をトラクターに乗せてくれたりしたので、農業を身近に感じながら育ちました。それに子供のときに小遣い稼ぎにくるみやプルーンを摘んだりもしました。

1979年にセントヘレナ・ハイスクールを卒業したのですが、そのときは将来,何をしたいのかよくわかりませんでした。でも音楽、ジャズトランペットのフルブライト・スカラーシップ(奨学金)をもらえることになったので、リノのネヴァダ大学へ入学してジャズを学びました。1年間,大学で音楽を学んでいたのですが、頻繁に休暇で家へ帰って来るたびに、私はなんと美しい土地で育ったのだろうと気が付いたのです。外での仕事や農業が懐かしくなりました。それで音楽家になろうという志を捨ててU.C.デイヴィス校へ移ってエノロジー(醸造学)を学びました。葡萄栽培学は取りませんでした。葡萄栽培は身近に見ながら育ったので、栽培についてはある程度理解していましたから。

1984年にU.C.デイヴィス校を卒業しました。大学生だったころに、夏休みになると醸造の知識を得るためにワイナリーで働きました。ルイ・マーティニ、それから1982年にシュラムズバーグではインターンシップとして働きました。音楽を断念したのでスカラーシップも少しはもらえましたが、フルではなかったので,ワイナリーで働いて学費を得ていました。1984年,卒業が近づいてきたので仕事を探し始めました。シェーファー・ヴィンヤードでアシスタントのワインメーカー(醸造家)を求むという広告を見つけたので、応募してダグとジョンの面接を受けたら、第二次面接に呼ばれて採用になりました。卒業の2週間前に就職が決まったのです。それ以来、ずうっとシェーファーでワインを造っています。

Q,いつから醸造責任者になったのですか?

1984年から1990年までアシスタント・ワインメーカーでした。ダグが醸造責任者でした。そして94年までタイトルはコ・ワインメーカー、94年から醸造責任者というタイトルになりました。そしてダグが社長になりました。

Q.タイトルはさておいて、全面的にあなたが造ったワインといえるのは、何年からですか?

多分1992年からだと思います。

Q.今は会長になられたジョンが78年に初めてのワイン、カベルネ・ソーヴィニヨンを1000ケース生産、それから83年に初ヒルサイドセレクトを200ケース生産したのですね?

はい。

Q.なぜヒルサイ・ドセレクトを造ることにしたのですか?

78年のカベルネ・ソーヴィニヨンはヒルサイド・セレクトの祖父と位置付けています。使った葡萄が,今,ヒルサイド・セレクトの中核となっている畑から来ているからです。でも、ナパ・ヴァレー,カベルネ・ソーヴィニヨンとして出しました。80,81年は瓶詰めせずに他社へ売りました。質が良くないと判断したからです。82年はナパ・ヴァレー・カベルネとリザーブを造りました。そのころ、店頭に安価なワインがリザーブとしてたくさん並んでいたので、83年から他の名前を付けることにしたのです。ワインの品質を強調した名前にしたかったのです。

Q.そのころ、ファイティング・ヴァラエタルとしてグレン・エレンのリザーブ・シャルドネが売られていて人気がありましたよね。

はい、1本が$2.99で売られていました。リザーブにはさして意味がなかったのです。83年にヒルサイド・セレクトという名前が浮かんだのです。それから毎年、ヒルサイドの畑からベストのぶどうを選んで造っています。そしてヒルサイド・セレクトはシェーファーを代表するワインというメッセージが消費者に伝わるようになったと思います。

Q.なぜカベルネ・ソーヴィニヨンが100%なのですか?

マイクロ・クライメットのせいでフルーツがとてもソフトなのです。メルローをブレンドするのは良くないと思ったのです。ブレンドするとソフトになりすぎてしまう。カベルネをソフトにするためにメルローをブレンドするわけですが、ワインはすでにもう十分ソフトでしたから。

Q.そのマイクロ・クライメットの特色は?

温暖な日中と涼しい夕方、風がサンパブロ湾から吹いてくるので夕方は涼しくなるのです。朝は霧がかかります。火山性の土壌で表土は浅く12-24インチ(30-61cm)ほど。水はけがとても良い。シェファーの畑には丘陵地が多いのも特色です。スタグス・リープ地区でもちょっと南へ行くと表土が深めの土壌があります。川底だったために砂の混じったローム質土壌が多くなるのです。この地区の共通点で他の地区と比べてユニークなのは夕方に吹く風です。

Q.そのマイクロクライメットがスタグス・リープ地区のカベルネ・ソーヴィニヨンのタンニンをソフトにしているのですね?

はい、そうだとしか思えません。というのは、この地区のカベルネ・ソーヴィニヨンをテイスティングすると、ほとんどのカベルネのタンニンがソフトです。タンニンの構成がハウエル・マウンテンのようにビッグではありません。でもそれはこの地区のカベルネがパワフルではないということではありません。口当たりがソフトに感じられるということです。

Q.タンニンの含有量が低いということではないのですね。

そうです。科学的に分析するとタンニンの含有量は他の栽培地区と同じです。タンニンの構成が少し違います。チェーンがより長いのです。

Q.シェーファーの葡萄栽培はオーガニックですよね。いつからですか?

1989年からです。でもサステイナブル・アグルカルチャー(環境保護を優先した農業)であって、オーガニックとして認定を受けているわけではありません。オーガニックとして認定されるためには、どんなタイプの殺虫剤も使用できないし、そのほかにもいろんな制限があります。

Q.オーガニックあるいはサステイナブルで栽培すると、葡萄の質を高めることができるのですか?

はい、出来ます。たとえば葡萄の樹勢がとても強くなる土地だったとしたら、下草を植えて競わせることによって樹勢をコントロールすることが出来ます。水分も取り合うので,葡萄樹の成長速度がゆっくりになり、葡萄の粒が小さくなります。そうするとワインの質も高くなります。サステイナブル・アグリカルチャーはいろんな理由で使うことが出来ます。ひとつは殺虫剤の使用を極力避けるので、環境を保護しエコシステム(生態系、ある地域に住む全ての生物と無機的な環境をまとめた系)を作り上げます。そうすると微生物は草の中でお互いに競争し合うので葡萄樹に寄ってきません。水分がありすぎたり、表土が深く肥沃なために葡萄が育ちすぎてコントロールが大変な畑の場合、下草を植えることによってコントロールすることが出来ます。例えば肥沃過ぎる土地だと,栄養分を吸収するタイプの下草を植えます。そうすると葡萄樹に吸収される栄養分が減ります。

Q.下草を植えることによって、例えば土壌中の窒素の量を増やすというのはよく聞きますが,土壌中の栄養分を取ってしまうために下草を植えることもあるのですね。

全くその通りです。畑によってどのタイプの下草を植えるか違ってきます。クローバー、カラスノエンドウ等のマメ科ソラマメ属の草、豆科植物、それぞれ土に対して異なる働きをします。カリウムや窒素を取ってしまう,水分吸収を競う、あるいはその反対もあります。ヒルサイドの場合は表土が浅く痩せていますから,水分の取合いはしてもらいたくない。また下草には窒素を土に加えてもらいたいのです。それから下草を植えることによって土砂崩れを防ぎたいのです。

Q.葡萄栽培には痩せた土地が良いといいながらなぜ下草を植えて窒素を加えるのかと聞かれたことがありますが、加えることもあれば,取り上げることもある。要するに一概には言えないということですね。

そうです。畑の状況によって異なります。

Q.シェファー・ヒルサイド・セレクトは、紫色、フルーツはクロフサスグリ、ピュアーなフルーツ、樽からは甘いオーク、スモーキー、ミネラル、リッチ、ソフトなタンニン、高い凝縮度、しかし重さを感じさせない、ベルベットのような口当たり、シームレス(滑らかで縫い目を感じさせない)というように表現されていますが?

正確だと思います(微笑む)スタグス・リリープ・ワイン・セラーのワレン・ウイニアスキがこの地区のカベルネは「ベルベットの手袋をはめた鉄の拳」と表現しましたが,適切な表現だと思います。ワインはとてもパワフルなのだけれども,ベルベットのようなタンニン、シームレスな口当たりであるというクラシックなカベルネを表現しています。また「カシミアのセーターを着ている感じ」というように表現する人もいます。高価でデリケートでソフトということだと思います。

Q.そんなヒルサイド・セレクトはどのようにして生まれるのでしょうか?

ワイナリーの敷地内に54エーカー(22 ha)の畑があります。そのうちの52エーカー(21 ha)にカベルネ・ソーヴィニヨン種が植えられています。ヒルサイド・セレクトを造るためにその年のベストの畑の葡萄を使うということです。ですから52エーカーの全てのカベルネがヒルサイド・セレクトに使われるということではありません。私は異なるロット(畑)を選択できるということです。ここの敷地の畑は太陽の当たる角度が場所によって違います。斜面がいろんな方向に向いています。それに合わせて異なるクローンのカベルネを植えています