No. 43 Date:2009-12-24
町のオーガニック専門スーパーのフルーツコーナーで青年とすれ違った。フレンドリーで優しい笑顔。どこかで会ったことがある。そうだレイ ヴンズウッドのジョール・ピーターソンの息子だと気がついた。またすれ違ったので声をかけた。「レイヴンズウッドは父のワイナリーです」
「あなたがまだ小さかったころ、フランスのポイヤックのランシュ・バージュで偶然に会ったのを覚えている?」
「イエス、それから僕たちがレントしていた家に来て泊まったのも覚えています」
娘の名前も覚えていて元気かと聞く。青年の名前はモーガン。娘と相棒と3人でキャンピングカーで2ヶ月間,ヨーロッパのワインカントリーを巡っていたとき のこと。モーガンがそのワイナリーの駐車場で一人でボールを蹴って遊んでいた。「モーガンじゃない?」と声をかけたら、父親のジョールがワイナリーの訪問 を終えて出てきた。夏にソノマからボルドーを訪れて、ランシュ・バージュで偶然に鉢合わせしたのだった。
その7歳か8歳だった男の子が、現在28歳、自分のワイナリーを持ってワインを造っているという。長い年月が過ぎた(年をとった)ものだ。ため息。
今度ワイナリーを訪れてインタビューするということになった。
ワイナリーの名前はベッドロック。小さなワイナリー(本当に小さい)を借りて作業は一人でこなす。2007年から初めて今年で3年目を迎えた。2007年 に900ケース、2008年には1700ケース、2009年は2500ケースと順調に生産量を増やしている。目標は5000ケース。13の畑からブドウを 購入。父親と152エーカーのブドウ畑を共有。少量を自分のワインにその他は他のワイナリーにブドウを売っている。
「不況の時期にワイナリーを始めてよかったと思っている。小さな規模で従業員もいなくて僕一人。ワインを売らなくちゃ従業員に支払えないというプレッ シャーもない。生産量が少ないし幸運にも売れているのでワインの在庫を心配しなくてもいいのが嬉しい。景気が良くなったころに生産量を拡張することが出来 ればいいと思う」
ワイン造りは手造り。発酵はアメリカ杉のオープンタンクを使い、発酵温度は34℃前後。
「なぜアメリカ杉の発酵タンクを使うことにしたの?」
「父が1999年まで使っていたし、出来たワインもいいと思ったから」
自然酵母、マロラクティック発酵も自然に起こさせる。フレンチオークのみを使っている。手動のバスケット式の圧搾機を使用。澱引きは瓶詰め前に1度するだけ。
このワイナリーを持つまでに2005年にレイヴンズウッドで1年だけ働いた。もちろん父親がワイナリーを所有していたころはいつも手伝っていたし見てきた。オーストラリアでも修業、2006年にボルドーのシャトー・ランシュ・バージュでも修行した。
幼いときからワインに馴染んできたモーガンの味覚は、この世代の多くの若者がフルーティ(時には過熟気味)でパワフルなワインを好む味覚とは一線を画して いる。彼が造ったワインは、どのワインも酸味が程よくしなやかだ。マスターオブワインの勉強もしている。第一次試験はパス。後は60ページの論文を書かな ければならない。
「なぜ醸造家になったの?」
「仕事が多様だから。ブドウ畑、セラーでは一人、そしてセールスに行くといろんな人に会える。何よりもいいのはスケジュールを自分で決められること。父親が醸造家だったということの影響は受けていない」
現在12のワインを生産。多くのワインを造る理由は、畑やヴィンテージ、品種について多く学ぶことが出来るから。価格は20-40ドルほどに抑えている。
モーガンのユニークなアイデアは樹齢が高いブドウ樹を選んで使っている。樹齢100年以上というのが多い。
「少量ずつ生産している畑別の12のワインの全部を消費者は覚えられないと思うよ」
「アイ・ノー(わかってる)」
12のワインから以下のワインをテイスティング。
2008年 Cuvee Caritas
樹齢100年のセミヨン(55%)とソーヴィニヨン・ブラン(45%)のブレンド。樽発酵。ソーヴィニヨン・ブランはムスケクローンなので白い花の華やか な香りがする。ソーヴィニヨン・ブランはマロラクティック発酵をさせず、セミヨンはさせてある。ボルドーのグラーヴをイメージ。ミネラルが感じられる辛 口。
2008年 ピノ・ノワール Rebecca Vineyard
畑はロシアン・リヴァーヴァレーのジョセフ・スワンの隣にある。色が濃く、ダークチェリーとアーリーグレー(紅茶)、ミニトマト、なめし皮の味と香りがする。ふくよかでバランスがよく優しい。
◎2008年The Bedrock Heirloom
Heirloom(ヘアルーム)は家宝という意味。1888年にブドウが植えられている。ソノマヴァレーに父親と二人で所有している畑の名前。樹齢119 年のジンファンデル(40%)をはじめ、キャリナン(35%)、シラー、バルベーラ等の18種類のブドウがミックスして植えられている。フランスのシャ トーヌフ・デュ・パープのカリフォルニア版。こういうセパージュはカリフォルニアにしか存在しない。
スモーキー、土の香り、ほのかなエレガントさを備えている。ライプ。でも酸味が十分なので食べ物にもマッチするだろう。思ったよりジャミーなフルーツの味 わいがするといったら、2008年は急激に気温が上がってブドウが理想的に熟する前に糖度が上がった年のためと説明。2007年と比べてみてと言って、 2007年も急遽オープンしてくれた。
◎2007年The Bedrock Heirloom
スモーキーで土ぼこりの香り。程よいフルーツ。2008年に比べると引き締まっている。エレガント、長いフィニッシュ。
2008年Lorenzos Heirloom
ドライクリーク・ヴァレーにあるLorenzo’sという畑のブドウから造っている。樹齢が110年という古いブドウ畑で潅水をしていない畑。ジンファン デル(50%)カリニャン(20%)プティ・シラー(20%)その他、サンソー等のブレンド。ブルーベリー。ドライクリーク・ヴァレーらしい優しくふくよ かでフルーティ。
2007年シラー Kick Ranch
涼しい地区のシラー。スパイス。白コショウ。しなやか。ブルーベリー。エレガントで長いフィニッシュ。オープンして3日後に飲んでみたら、まだ美味しかった。ヴィオニエ(5%)を一緒に発酵している。
2007年 シラー Old Lake Ville Vineyard
ダークフルーツの果肉の味わい。しなやかで口当たりがまろやか。タンニンがまだこなれていない。このブドウ畑は冷涼なソノマコースト地区にある。ヴィオニエ(1%)と共に発酵。スパイスと構成をよくするために33%の全房で発酵。
2007年 カベルネ・ソーヴィニヨンBedrock Vineyard
涼しい地区のカベルネ。墨の香り。タンニンがまだ硬い。何か足りないような不思議なワイン。昔使われていたという丸ぽちゃのボトルが使われている。女性がかわいいと言って買っていくとか。メルロー、プティシラーをブレンドして香りと構成を加えた。
ここはシラーとジンファンデルがいい。モーガンはワイン業界の名門の2代目としての教育をしっかりと受けて育っている。ジャーナリスト (私)のコメントを尊重しながら、自然に滑らかに自分の意見を付け加えていく。醸造家としてのパッションと若いエネルギーを感じさせる。どういう醸造家に 成長して、どういうワインを造っていくのだろうか。カリフォルニアを越えて世界へ羽ばたくモーガンを見守りたい。