No41 二つの小さなワイナリー

No. 41 Date:2009-08-08

Mi Sueno


ミ・スエニョ
カベルネ・ソサイエティの試飲会でミ・スエニョというワイナリーのワインが印象に残ったので、早速行ってみた。ナパの外れにエンタープライズウエイという 道がある。この辺りは産業地区で倉庫がたくさん立っている。いろんなワイナリーがワイン保管用の倉庫を持っていたり、小型ワイナリーが入っている。ここに このワイナリーがある。スペイン語で「私の夢」というワイナリー。ワイナリーの名前からメキシコ系の人が設立したワイナリーだと推測。倉庫地帯だけれどオ フィスらしい構えで、ドアを開けると受付の女性がカジュアルだけれどきちんと応対してくれた。
受付でしばらく待つ。セールス&マーケティング担当のトム・ブラカモンテスがやってきた。セラーへ案内してくれる途中、ホールの壁にたくさんの野 球選手のユニフォームが飾られているのが目に付いた。SFジャイアンツ、ボストンのレッド・ソックス、ドジャーズ等。サンフランシスコに限っていないとこ ろが、SFジャイアンツファンの私には、ちょっとひっかかるけれど。まあそれはさておき、リッチ・オレリア、マット・ケインなんかのユニフォームが飾られ ている。この二人はミ・スエニョのワインが好きで、ここへやってきたそうだ。リッチ・オレリアはこのワイナリーで自分のブランドのワインを造る予定だと か。
年間生産量が約6000ケースと小さなワイナリーだけれど、口コミでファンが増え続けている。数年前まではワイン・スペクテーター誌やロバート・パーカー にワインを送っていた。でもそれをやめた。生産量が少ないのだからポイントで売るのではなく、消費者が求めるワインを造ることに集中。そして今、人々がこ のワインを見つけてくれるようになって、口コミで名前が知られ、ビジネスは繁盛。
メキシコの大統領がアメリカを訪問した2001年に、ここのワインがホワイトハウスで供された。2008年にはホワイトハウスで行われたシンコ・デ・マヨ (5月5日のメキシコ独立記念日の祝い)にも使われた。政府のワイン担当者は良く調べてるよね。メキシコ系の人が造った質の良いワインを見つけて出したの だ。
オーナーのロランド・エレラは15歳のときに不法移民としてカリフォルニアへやってきた。1985年にレーガン大統領が不法移民の恩赦をしたときに市民権を取得。
オーベジュ・デ・ソレイルで皿洗いとして働き始めた。高校3年生のときスタグス・リープ・ワイン・セラーで石の塀を積み上げる作業に雇われていたときのこ と。一生懸命働くエネルギーに満ちたこの若者を当時のオーナーだった、ビル・ウイナルスキ-氏が認め、ハーベストをワインセラーで働かないかといってくれ た。それがワインにかかわるきっかけとなった。昼は学校へ夜はセラーで働いた。その働きが認められてセラーで10年間働いた。最後の7年間はセラー・マス ターに任命されている。その後、シャトー・ポテレ、ヴァン・クリフで醸造責任者として働く。2001年にポール・ホブに認められてディレクター・オブ・ワ インメーキングというポジションで働いた。
「普通のセラーで働く人とどこが違っていたのかしら?」
「ギターは誰でも習えばある程度弾ける。醸造学もUCデイヴィス校へ行けば誰でも学ぶことが出来ます。でもギターリストでも醸造家でも、誰もがベストにな れるわけではありません。ロランドはワインのセンスがあったのです。ウイナルスキー氏から多くのことを学びました。それに彼はとてもクリエイティヴです」
1997年に実験的に自分のワイン、シャルドネを200ケース造った。ラベルも貼らずに、ボトルに詰めたものを家族と友達で楽しんでいた。それが好評だったので自分のラベルでワインを出すことにした。1997年が初ラベル。
ここで生産しているワインはすべて長期リースをして自分で栽培しているブドウ畑のものを使っている。現在、ブドウ畑管理会社も経営。カスタム・クラッ シュ(注文を受けてお客のためにワインを生産)もしている。すごいハードワーカーだ。他の施設を借りてワインを造るのではなく、倉庫内でも自分のワイナ リーを持って、全てをコントロール。
「ビジネスが成功してもしなくても、それは自分の責任。アメリカンドリームはまだこの国では生きている」というように、この職につく前はミュージシャンだったというトムは、話がとってもうまい。ロランドの話を実に効果的に聞かせてくれる。
ロランドは資本協力を得ているパートナーはいない。いずれ、このワイナリーがある建物も買うつもりだという。従業員は全部で4人。何から何まで4人でするので、とても忙しい。
「今があるのはハードワーク、すごいコストだけれど、そのリスクを受け入れる勇気。それから、ストーリーが興味深くてもいいワインを造っていないとストーリーは関係ない」とトム。
「いま、メキシコ人の労働なくしてカリフォルニアのワイン産業は存在しないと、思うのですが」
「ソノマに住んでいるとカウンティが大きいからよく見えないと思いますが、ナオア・ヴァレーではメキシコ系の人たちがレストランのシェフ、ブドウ栽培、セ ラーと大きな部分を占めています。今後、優秀なメキシコ系の醸造家が登場して、資本を持つ人たちがお金を出すからパートナーとしてワインを造らないかとい うオファーがくるようになると思います」とトムは言う。

「ビジネスが自分たちを支配するのではなく自分たちでビジネスとコントロールしていくということから、価格は公正にしたいと心がけている」
「ビジネスが順調に上向きで進んでいる勢いを感じるワイナリーで、その自信とエネルギーがロランドからもトムからも感じられた。

試飲させていただいたワイン:
2006年シャルドネ Los Carneros $38
リッチでよく熟した今風の良くできたワイン。トロピカル・フルーツ、杉、ミネラル。ふくよかでリッチ、酸味も程よく優しいワイン。フルーツの甘さが豊かなので、このまま飲むのが楽しいかも。
2006年ピノ・ノワールRussian River Valley $48
ホワイトハウスでシンコ・デ・マヨに使われたワイン。ポール・ホブと同じ畑のブドウを使っている。香水風の香り。ロシアン・リヴァー・ヴァレーのピノ・ノ ワールの特色(と私は思う)なめし皮の香り。よく熟したブドウから造っているので、繊細なピノというより、フルボディ。トムいわく「ステーキワイン」だ。 口の中は過熟ブドウから来るしつこい甘さがなく涼しい感触。このタイプのワインがもつアルコール度で14.5%。でも造りが上手だと思わせるのは、アル コールを感じないところだ。フルーツと酸のバランスをうまくとっている。
2006年El Llano $40
このヴィンテージは70%のカベルネと30%のシラーのブレンド。セパージュは年によって多少変わる。新フレンチオーク樽の使用率は50%。200ケース 生産。スパイシー。香りも味わいもライプ。でもしつこくない。食べ物によくマッチしてくれるワイン。レストランでよく売れているというのが納得できる。
2006年カベルネ・ソーヴィニヨン$65
100%カベルネ・ソーヴィニヨン。ライプ、カシス、ブラックベリー、赤肉、甘味のあるコクのあるフルーツ、深み、こなれたタンニン。程よい酸。決して安いカベルネではないけれど、ナパ・ヴァレーのカベルネとして60ドルは高くないとトム。

John Anthony
ジョン・アンソニー
久しぶりに気温が上がり夏らしくなった6月中旬、カーネロスにあるジョン・アンソニー・ワイナリーを訪ねた。といっても新築の私宅に招かれてのテイスティングだ。石造りの天井の高い、丘の上に立つ見晴らしが素晴らしい家だった。
カーネロス地区はよく手入れされたブドウ畑が覆うなだらかな丘陵地が美しい。カーネロス地区の東部にあるジョン・アンソニーの自宅へ向かって車を走らせる。美しいブドウ畑のパノラマがさらに続く。
まだ若い美しいカップル、ジョンとミシェルは幼いころから抱いていた夢を着々と実現している。
高校時代からの幼馴染の二人はUSデイヴィス校でマスターを取得中に再会。1998年に結婚。1999年に今新宅を建てた土地30エーカーを購買。いつかこの土地に家を建てる計画だった。
夫のジョン・アンソニーは400エーカーというブドウ畑を所有する大手のブドウ栽培農家であり、ツルチャードというワイナリーも所有するツルチャード家の一人だ。
ジョンはUCデイヴィス校の学生だったときに、ブドウ畑管理会社を設立して、仕事と学生をこなしていた。1992年のことだ。いつか自分のラベルでワイン を出したいという夢を抱いていた。友人が最初の彼のクライアントになってくれて、その畑の栽培を管理した。奥様のミシェルの父親もワイン好きでジョンに栽 培を依頼。父親はクレーン・ブラザーズというラベルで1000ケースほどのワインを出している。
ミシェルはイベント・ディレクターとしてワイナリーで働いた。今、彼女は生後5ヶ月の女の子と4歳になる男の子を育てながら、ジョンと一緒にジョン・アン ソニー・ワイナリーを経営。夫はブドウ畑の管理会社を経営している。いつか自分たちのワイナリーを建てたいという夢を持つ。
このワイナリーのスタイルはふくよかでフルーティ、飲み心地が良く自然な感じでいて、ライプ。飲んでいて、味覚にひっかかるマイナス面がない。親しみのあるワインというところだろうか。
夫のジョンが造っているのかと思ったけれどそうではなく、アリソン・グリーン・ディランという女性が醸造を担当。ナパ・ヴァレーのソヴィニヨン・ブランは ロバート・ロイドという醸造家が生産とユニーク。自分でワインを造るというのではなく自分のブランド(ラベル)を持つという夢を実現させた。ハードワーク で賢く、ワインビジネスを知っている若いカップルは、将来成功するに違いない。
年間生産量は4000-5000ケース。2つのソーヴィニヨン・ブラン、シラー、カベルネ・ソーヴィニヨンを生産。

2008年ソーヴィニヨン・ブラン Church Vineyard $21
お二人の家に行く途中に教会がある。ニューイングランド出身の人物がニューイングランドから教会を分解してここ運び再築した。そしたらお金がなくなってし まった。その人にジョンがブドウを植えて生活費を得たらどうかと提案。支払うお金がないというので、それでじゃあこの土地をリースしてくれないかと持ちか けたらオーケーが出た。2003年にソーヴィニヨン・ブランを植え、2005年にもう収穫できた。ムスケクローンが4分の3、UCデイヴィスクローン4分 の1。
100%ステンレスタンクで発酵。パイナップル、ハニーサクルといったトロピカル風の香りと味わいい。華やかな香り、美味しい酸味とフルーツの甘味の長いフィニッシュ。きらびやかなナパらしい良く熟したブドウから造られたソーヴィニヨン・ブラン。
2008年ソーヴィニヨン・ブラン ナパ・ヴァレー$19
2008年の春先に霜害のため、カーネロス地区のソーヴィニヨン・ブランの生産量が極端に減った。それを補うために生産。ふくよかで飲みやすいフルーティ なタイプのソーヴィニヨン・ブラン。お買い得。酸味がきりっと利いた引き締まったタイプとは反対側に位置するスタイルで、飲み心地がいい。楽しく飲めるワ イン。
2006年シラー $45
オークノル地区のブドウを使っている。ジョンがブドウ畑管理会社を設立したときに初クライアントになってくれた畑。2%ヴィオニエをブレンド、発酵は別々 にし、後でブレンドしている。香りは控えめ。スパイシーで口当たりはマイルド。55-60%新樽フレンチオーク。飲みやすいスタイルのワイン。でも少し オークが利きすぎているかも。フルーティ、ふくよかで飲みやすく引っかかるものがないのがこのワイナリーのスタイル。
2006年カベルネ・ソーヴィニヨン$55
これもオークノール地区の畑のブドウを使っている。オークノール地区はカーネロス地区より暖かく、ナパ・ヴァレー真ん中辺りにあるヨントヴィルより涼し い。朝に霧がかかる。ライプ、ジャミー。カシス。程よい酸。50%新フレンチオーク樽。空気に触れた後おいしさが増した。