ドゥルー(Drew) ワイナリーのピノ・ノワールを飲んだのは、10年ほど前かなと思います。

程よい華やかさを備えた構成のいい美味しいピノだったので印象に残ってました。その後, IPOBのテイスティングで再び飲む機会がありました。バランスが良く、十分に複雑味がある綺麗なピノを造ってることを確認して、嬉しくなりました。

ジェイソン・ドゥルー(オーナー)がワイン造りに興味を持ったのは高校生の時にナパのおじさんが持っていた2haのブドウ畑の栽培を手伝ったのがきっかけとのこと。カリフォルニア大学サンタクルーズ校で農業生態学(生態系との関連を捉えた農学)とブドウ栽培を学びました。私事ですが、娘も同じ大学を卒業してます。彼が持っている自然体の雰囲気は同校独特です。その後オーストラリアのアデライダ大学で醸造学を学んでいます。学生時代にセント・スプレーでインターン、卒業後、ジョセフ・ヘルプス、ルナ(ジョン・コングスガードが醸造責任者だったころ)等、8ワイナリーで働きました。

見た目の若さからは信じられないけれど、ジェイソンの醸造栽培経験は28年と決して短くありません。

2000年に涼しい地区のブドウを使って、畑の個性と品種の特色を表現した少量のワインを造るというゴールをもってワイナリーを設立しました。奥様と二人三脚です。

彼が意図するピノ・ノワールが造ることができるブドウ畑をアンダーソン・ヴァレーで選んで、自ら栽培を手がける畑も含めて、単一ブドウ畑名をラベルに表示したピノ・ノワールを造り続けています。

2004年にメンドシーノ・リッジ(*Mendocino Ridge AVA)栽培地区にある10.5haの果樹園に出会います。標高381m、霧の上に位置していること、南向き斜面、太平洋から5.3kmという沿岸性気候です。「ここだ!」と決めて買い取りました。息子二人の家族4人でトレーラー(大型キャンピングカー?)に住んで、ブドウ畑への切り替え作業に励みます。2005年にワイナリーの建築を完了。2011年に2.8haにピノ・ノワール種と実験的に少しだけシャルドネ種を植えました。

現在、自社畑からEstate Field Selection とEstate Mid-Slopeの2つのピノ・ノワールを造っています。

そして今も、

Morning Dew Ranch

Wendling Vineyard

Joshua’s Vineyard

Valenti Ranch (ピノ・ノワールとシラー)

と4つの畑のピノ・ノワールを造っています。

哲学は「オーガニック栽培、テロワール尊重、畑の個性表現、自然酵母、ブドウは優しく扱うこと」と明確です。

契約ブドウ畑の選択基準は、水はけが良い土地、ベンチか丘陵地、土壌はサンディローム(Sandy Loam)、海に近い土地。地区はメンドシーノ・リッジとアンダーソン・ヴァレーのブドウからだけワインを造っています。

年間生産量は3000ケース。ピノ・ノワール、シラー、最近シャルドネも加わりました。栽培と醸造を一人でしています

今のスタイルに到達した経過

ワイン造りを始めた時は1980年代の例えばシャローンなどが、低アルコールのワインを造ってました。そういうワインを飲んで、このタイプのワインが彼のワイン感覚にぴったりだったとのこと。

「ヨーロッパのワインもたくさん飲みました。アルコール度は13から12%ですよね。でも最初の3ヴィンテージはアルコール度が14−14.5%のワインを造ってたんですよ。パーカーはこのワインが好きでした」と言ってあははと笑いました。

でも高アルコール度のワインがトレンドになっていったころには、洗練されてデリケートな軽やかなスタイルに変えました。

「サンタバーバラで大きなワインイベントがありました。50人の醸造家が自分のワインの説明をしたのですが、僕のワインは一番軽いタイプだったので、みんなが『彼はクレージーだ』と思うかもしれないと神経がピリピリしました。それでも自分のこれだと思うスタイルでワインを造り続けました」

「トレンドに逆流したのですね」

「イエス)

「抑制の効いた、アルコール度が高くない、綺麗な酸を捉えていて、品種の個性を表現したワイン造りはエキサイティングです」

「ピノ・ノワールに加えてシラーを造ってますが、なぜシラーを加えたのですか?」

「オーストラリアでシラーの醸造を学びました。1997年、98年は小家族がエレガントなシラーを造っていました」

それとコルナスを飲んで「これだ!」と思ったそうです。

そういうシラーを造ることができる土地がなければなりません。ピノ・ノワール種とシャルドネは標高366m-488mの畑に植えてます。シラーはもっと高地で549m-610mにある契約畑から造っています。高地の方がやや気温が高いからとのこと。暖かい空気が上昇するということなんでしょう。

温暖な気候のセントラル・ヴァレーではジャミーでプラムとかベリーの豊かなシラーを造ることができるけれど、ジェイソンが意図するスタイルのシラーはできません。

「サンディロームで、小石を含むやせた土壌、急勾配の涼しい地区で栽培された、小粒で皮が厚いブドウから造りたいと思ったのです」

ちなみ砂が半分以上(52%)、それにシルト(28-50%)と粘土(7-20%)が含まれた土壌をローム、砂が含まれる割合が高いとサンディロームと呼ばれるということです。

そういった栽培条件の中で育ったシラー種のブドウを糖度があまり高くならないうちに摘んで深い味わいを持つフルーツ味の抑制が効いたシラーを造っています。

「最近シャルドネを加えましたね?」

「10年間、ピノ・ノワールとシラーだけを造っていました。このワインの醸造について十分に学んだので、白を造りたいと思いました。海に近くて涼しい、水はけの良い土地で育ったブドウから、ミネラルと土の香りと味があるシャルドネを造ろうと思ったのです。フルーツは2番目です。ニューワールドのシャルドネはフルーツが一番目で、次にミネラルですが」

オーガニック栽培の話で、彼は畝と畝の間を耕さないと言いました。耕す派と耕さない派があるのでなぜ耕さないのかと聞いてみました。にっこり笑って生き生きとして菌類の話をしてくれました。農業生態学専攻ですものね。 詳しいことはよく理解できませんでしたが(涙)、要するに、畑を耕すことによって下草や土の中に住んでいる微生物を破壊してしまうからだそうです。微生物は色々と大切な役割(たくさん例をあげてくれました)を果たしてくれてるとのことです。それと二酸化炭素の排出を少なくするためにも耕作機は使わないということでした。

「ワイナリーとブドウ畑が同じ敷地にあって、そこに住んで栽培とワイン造りするという伝統的なワイナリーが好きです。その土地とより近い関係が持てるからです」

「僕のワインは食べ物によくマッチします。日本料理にも合うと思います」と最後に付け加えました。

試してみてください。

Mendocino Ridge AVA

このブドウ栽培地区の名前を聞いたことがある人は、とても少ないと思います。実は私もジェイソンとドゥルー・ワイナリーの話をするまで知りませんでした。

でもAVA として1997年に認められています。ほとんどの人が知らなかった理由にワイナリーがほとんどなかったことが挙げられると思います。

でも現在は、ピノ・ノワールとシャルドネ栽培に適した地区として徐々に注目を集め始めています。

場所はメンドシーノ・カウンティの、アンダーソン・ヴァレー(ピノ・ノワールとシャルドネの栽培に適した冷涼な栽培地区)の西側、海に近い高地にあります。

ジェイソンは、この地区の果樹園と出会ったときに、この地区のフロンティアになろうと思ったそうです。今までほとんどの人が触れていなかった栽培地区に栽培家として、そして醸造家としてチャレンジすることがエキサイティングだったからです。

AVA として申請したのはMariah Vineyards(ジンファンデルとシラーを生産)の Dan Dooling とPerli Vineyard のSteve Alden(ブドウ栽培だけでワインは造っていない)の二人で、キャッチフレーズが “Island in the sky 空にある島”。文字通り霧の上に位置しているので、空にある島みたいに見えます。

AVAとしてユニークなのは、106189haと広大なのですが、この範囲の中で標高が366m以上であること、太平洋からの距離が499km内であることが条件であることです。そのため、広範囲の中でAVAとして認められている土地は続いてなくて離れ離れになっています。カリフォルニアでは(多分アメリカでも)唯一のAVAだろうとのことです。広大な土地の中でAVAとして認められているのは35396ha。急勾配の土地なので、ブドウ畑に適した土地は2%ほどで、残りはほとんど木(森)です。

申請した理由はアンダーソン・ヴァレーとは土壌も気候も違うからとのこと。

この地区は、霧がかかる上にあるので、朝日をたっぷりと浴びます。午後からは海からの風が吹いてきます。気温はAnderson Valleyよりもっと涼しいのは想像がつきますね。ブドウの生育はゆっくりで、皮が比較的厚くて小粒のブドウが育ちます。

6つのブドウ畑、この地区に土地を購入したワイナリーが少し、ワイナリーはこの地区にあるけれどブドウは違う地区から買っているワイナリーが少々。ナパのワイナリーFaillaがこの地区のブドウを買っています。

アンダーソン・ヴァレーの西側で、もっと太平洋に近くて高地にある地区にたどり着くのに、曲がりくねった道を延々と運転していかなければならず、初めてだとひどく人里離 れた土地だと感じました。

「人里離れていて、ここへ来るのは大変だからテイスティングルームはできないと思う」

「そりゃそうだよね」と私。

「テントを持ってくるか、キャンピングカーで来なくちゃならない」とジェイソンのジョーク。

近い将来、新生ブドウ栽培地区(AVA認定は古いけれど)として話題になる日が来るでしょう。

Princeofpinot.com, Beausbarrelroom.com, pinterest.com の写真を使わせていただきました。