気さくなワイン、マルベック

マルベックは、日本ではあまり飲まれていないワインかと思います。日本でのマルベックの印象は、安くて泥臭い、濃ゆいか甘みがあるワインと思っていらっしゃる方も少なくないのでは?と想像してます。間違っていたらごめんなさい。

アメリカでは特にアルゼンチンのマルベックが愛されています。アルゼンチンのワインは僅か20年の間に醸造技術が進んで、国際的に評判を得るいろんなスタイルの品質の良いワインが生産されるようになりました。しかも安い!もちろん高いのもありますが。

アルゼンチンのマルベックが国際的に注目されるようになったのは2000年代の初めです。アルゼンチンの経済状態が安定してワイナリーが投資し始めたからです。

私にとってマルベックは、いろんな食べ物にマッチするし、構えないで飲めるワインです。とは言っても、夫のレイが造っているマルベックが、私にとってのマルベックなので、そのスタイルからのイメージです。

2005年のヴィンテージから数ワイナリーがトップのスコアーを得るワインを造るようになったので、気軽に楽しめるマルベックに加えて、100ドル以上もするマルベックが登場しています。

マルベックというとボルドーのセパージュである5品種の一つで、ブレンドに使われている品種と思うのが一般的かもしれません。ボルドーではマルベック種は害虫,真菌に弱いため、栽培面積が減ってブレンドにだけ使われるようになりました。

でも南西部地区のカオールという産地ではマルベック種が栽培されています。カオール地区は大西洋と地中海に挟まれていて、暑くて乾燥した夏が病害を予防するので、マルベック種栽培に適した気候となっています。

南西フランスのカオール地区のマルベックはタンニンが豊かで中位からフルボディ、土の香りがするタイプが多いとされています。

カオールのマルベックはメロー種かタナ種がブレンドされていることが多く、マルベック種が70%使われていなければなりません。

マルベック種は、アルゼンチン、カオール、チリ、トスカーナ、ボルドー(栽培面積は少ないです)、ソノマ(栽培面積は少ないです)等で栽培されていますが、注目されているのはアルゼンチンのマルベックです。他にも少栽培面積で栽培している地区があるかと思います。

アルゼンチンでマルベック種が栽培されたのは、1800年代です。乾燥した空気と高地に良く反応して、今やアルゼンチンの最も重要な品種となっています。「アルゼンチンの赤ワン」といえばマルベックとして知られています。特にアルゼンチンのメンドーサ地区の、ほどよく熟してジューシーでレッドとパープルの果実味豊かなマルベックは、アルゼンチンを代表するワインとなっています。

アルゼンチンの栽培地区はMendoza, San Juan, La Rioja,  Salta, Tucumán, Catamarca, La Pampa , Rio Negroと8地区ありますが、サン・フアン(San Juan)、ラ・リオハ( La Rioja),メンドーサ( Mendoza)がポピュラーなワイン生産地区で、中でも最も重要な地区がメンドーサ( Mendoza)です。

メンドーサ( Mendoza)

メンドーサはアルゼンチンのワイン産業の心臓部でもあり生産量の70%はを占めています。 

広大な地区でブドウの栽培面積はボルドーより広いとされています。

Wine Follyの2020年12月ワイン情報から得た情報です。

メンドーサはMaipu, Lujan de Cuyo, San Raphael, Uco Valley, East Mendoza (San Martin)

とサブリージョンがあります。

アンデス山脈の裾野に位置するブドウ畑は標高800m-1200m( Wine Sercher) にあります。春先の雹がブドウに大きな被害を与えることも稀ではありません。

サブリージョンの中では、ウコ・ヴァレー(Uco Valley)とルハン・デ・クーヨ(Lujan de Cuyo)がトップクラスのマルベックを生産しています。サン・ラファエル(San Raphael)は将来の可能性があり、素晴らしくグッドヴァリューのワインを生産するでしょう。

今回試飲したマルベックはウコ・ヴァレー(Uco Valley)とルハン・デ・クーヨ(Lujan de Cuyo)の物なので、2つのサブリージョンについて、少しだけ説明します。

ウコ・ヴァレー(Uco Valley)

メンドーサで最も高地にあるブドウ畑がこのヴァレーにあります。エレガントで素晴らしい熟成の可能性を持つワインが生産されていることで知られています。世界中のワイン生産者がこのヴァレーに惹かれて、Los de la Siete(a Michel Rolland brand), O.Fournier, Domain Bousquet, Bodega Lurton, Altos Los Hormigas (by Alberto Antonini)といったワイナリーが設立されています。

密度が濃い、何層にも重なった黒系フルーツ(ブラック・プラム、ラズベリー、ブラックベリー、オリーブ)に土ほこり、ココアパウダーのようなフィニッシュが特色のワインが生産されています。18ドル以上のワインから典型的なウコ・ヴァレーの特色が表現されたマルベックが見つかると思います。

ウコ・ヴァレーのワインのラベルにTupungato, Vista Flores, Tunuyan Campos de Los Andes, Los Sauces, San Carlos, La Consulta, Villa Secaといった近くの町(栽培地区でもある)の名前がラベルに記載されていることがあります。

ルハン・デ・クーヨ(Lujan de Cuyo)

この地区のマルベックは黒フルーツ(ブラックベリー、ボイズンベリー、プラム・ソース、ブラックチェリー)にアジアのスパイスが少し、フィニッシュは土誇りあるいは石墨ようなニュアンスのフィニッシュが特色とされています。

この地区にはCatena Zapata, Achaval-Ferrer, Bodega Norton, Vina Cobos, Bodega Vistalba, Durigutti といった多くのモダンなワイナリーがあります。

この地区も近くの町(栽培地区)名、Agrelo, Vistalba, Compuertas, Perdrielをラベルに記載していることが多いです。地区ごとに微妙にテロワールの違いがあることが認識されています。

メンドーサの気候と栽培

メンドーサはトスカーナの丘陵地とは違って、アンデス山脈の裾野の高地の平野に位置しています。年間降雨量は22mmと少なくて、砂漠といってもいいかと思います。でもアンデス山脈の雪が解けてメンドーサまで流れてきます。この水を栽培農家はインカが作った灌漑システム(水路)を使って、各畑がスケジュールに従って潅水しています。平地で空気が乾燥していて太陽がたっぷりと当たる栽培環境なので、害虫の被害はとても少ないです。

暑い気候だとブドウが短期間に熟して酸が少なくなってしまい、平坦なワインになりますが、メンドーサのブドウ畑は高地に位置しているので、夜の気温が劇的に低下します。そのためブドウが熟する期間がながく、酸が保たれます。

メンドーサのテロワールというと標高と記憶してください。

マルベックはカリフォルニア(多分アメリカ)のスーパー、ワインショップ、レストランのメニューなどで広く販売されています。小売価格は1本、12ドルから200ドルと幅広いので、自分のお財布に見合ったマルベックを見つけることができます。多く売られている価格帯は15ドルから40ドル前後ですが、品質の良いマルベックが20-25ドルで見つかります。

メンドーサのマルベックを垣間見たいと思って、価格が20ドル前後のマルベックを試飲してみました。

⁂2018 Riccitelli Malbec “The Party”, Uco Valley ($23)

小型のコンクリート槽とコンクリート・エッグで発酵。ピュアでデリケート、生き生きとしたワイン造りを目指している。

酸味のあるチェリー、フレッシュなブルーベリー、スパイス、ピュアでフレッシュ。他のマルベックと少しスタイルが違う。

⁂2017 Catena Malbec La Consulta, Uco Valley($19)

アルゼンチンではよく知られている大手のワイナリー。多くの種類のワインを生産している。

黒系フルーツ、ふくよかでソフトな口当たり、滑らかなタンニンを伴う良いフィニッシュ。

⁂2017 Finca Mangato“Las Estelas-Alto des Piedras” Malbec Tupundgato Mendoza ($17)

標高1219mにある岩が多い畑、樹齢25年。

熟したジューシーなベリー、優しいスパイス、こなれたタンニン、フレッシュなフィニッシュ。

⁂2018 Mendel Malbec Lujan de Cuyo, Mendoza ($20)

1928年に植えられた、標高1000mにある畑。フレンチオーク樽で12カ月熟成。

ダークチョコレート、クルミ、ヘイズルナッツ、湿った土地、クラッシュしたベリー、バニラと黒のフルーツのフィニッシュ。

⁂2018 Chateau la Caminade, Cahors ($16)

マルベック(70%)、メルロー(25%)、タナ(5%)、3品種は別々に発酵。18ヶ月セメントとステンレスタンクで熟成。

チェリー、軽やかで滑らかな口当たり、きれいな酸味のフィニッシュ。時間が経ったら、コクが出た。

⁂2019 Adelante La Consulta, Ucon Valley,Mendoza  ($17)

標高914mにある自社畑、Don Eugenio Vineyard (ドン・ヘニオ・ヴィンヤード)の樹齢70年のマルベック種から生産。自然酵母で発酵。フレッシュな味わいと料理と楽しむことができるように程よい酸味があるワイン造りを目指している。そのため、例年、この地区で最初にブドウを収穫している。自社畑の個性を生かすために新樽の使用率は20%のみ。

赤と黒のフルーツ、スパイス、土埃、しなやかなでエレガント、バランスの良いワイン。こなれたタンニンと程よい酸味の長いフィニッシュ。

アメリカのフード&ワインの雑誌のオンラインで、ニューヨークにあるレストラン、Per Se(フレンチランドリーのオーナー、トマス・ケリーがオープンしたレストラン)の元ソムリエ、Andre Hueston Mackが20ドル以下の10社の赤ワインの試飲をしてました。カベルネ・ソーヴィニヨン、レッド・ブレンド、そして価格からしても、アルゼンチンのマルベックが入っています。3つのマルベックの一つとしてADELANTEが入っていました。

ソムリエはマルベックについて、一定の味わいのイメージを持っていたのだと思います。

レイが造るアデランテを試飲して、少し驚いたようで「なんといっていいか、言葉が出ない。しなやかでしかもパワーもあってフィニッシュが長い、なかなかのワインだ」とコメントしてました。それまでフィニッシュの話はしてなかったのですが、アデランテをもう一度飲んでカベルネのようにはフィニッシュは長くないけれど、フィニッシュがしっかりしていると付け加えてました。

全体的な印象と感想

ワインの香りと風味を総括すると、ボディは中程度からフルボディ、ダークフルーツ、ブラックベリー、赤プラム、ジューシーでバニラ、タバコ、ダークチョコレート、オーク、程よい酸味と中程度のタンニン、食べ物とよくマッチするワインたちでした。

赤と黒フルーツの香りと味わいが共通していて、各ワインにそれぞれの個性があって(似たようなワインではなくて)、質が高いのに驚きました。レイがメンドーサでよく耳にする(話題になっている)ワイナリーのものを集めてくれたからとも思います。

カベルネやピノとは、まったく異なっているのも新鮮。今回のマルベックはどれも美味しかったです。質と値段を考えると、お買い得であることは確か。「この料理じゃなくちゃ!」と気を入れずに気さくにリラックスして楽しめるワインです。

ブドウ畑の写真はAdelante (アデランテ)の自社畑です。