No.23 ウィーンのワイン・フェスティバル

No. 23 Date:2006-06-29

4月末に1週間、ウイーンで開かれたワイン・フェスティバルに行ってきた。どんよりと曇った雨天続きのカリフォルニアとは逆に、公園の木々は瑞々しい新緑、色鮮やかなチューリップやモクレンの花が咲き乱れ、北国の春爛漫。 長い伝統を刻む美しい建物と近代が見事に調和している町並みにまず感動。そしてタバコの吸殻ひとつ落ちていない清潔な歩道が印象に残った。でもこんなに清潔 なのは市の清掃作業が徹底していることに加えて、規制がかなり厳しいのだろうな。いくらきれい好きな市民だったとしても、市民全員がこんなに清潔なことな どありえない。庭や草花が一切植えられていない整然と立ち並ぶ堂々とした建物が、ふとシンドラーのリストという映画に出てくるナチスがユダヤ人を逮捕して いくシーンと重なる。モーツアルトが生まれた町、何世紀もの歴史を通過してきたウイーンの高い文化と暗い時代の両方が頭を横切る。でもまた行きたい町。

ワインのイベントが開かれたホテル、パレス・コバーグの外観はモーツアルトが生きていた時代を髣髴とさせる荘厳で華麗な建物なのだが、内部はモダンに改装されていた。改装中に掘り起こしたら出てきた要塞をホテルのレストランに使っていたりと、伝統をきちんと保持しながら、近代化を進めてきたヨーロッパらしさ が漂っている。フィナーレの大パーティのレセプションはホテルのテラスで開かれた。シャンパングラスを片手に心地よい春の夕風を感じながら、優雅な彫刻が 施された真っ白な柱が並んでいる2階のポーチから聞こえくる主催者のドイツ語のスピーチ(音?)を聞きながら見上げると、まるで18世紀の華やかな時代に 戻ったようでいい気分だった。でも鼻をくすぐるタバコの煙で現実に引き戻された。 このホテルのセラーには世界最大数の古いヴィンテージのワインがキープされているという。実際に、ホテルのワインバーで1908年のシャトー・オ・ブリオン を飲んでいる日本男性、清水さんにお会いした。お言葉に甘えてワインを飲ませていただいた。まだ多少の若々しさが残っていて、とってもエレガントだったの はいうまでもない。1980年にリコルクをしたので、そのときに減っていた分を少し足したのが、若さとなっているのかもしれないという。清水さんはオペラ のはしごをして、古いヴィンテージのワインを味わうのが趣味だという。翌日はシャンパーニュ地方を訪れて、主なシャンパンハウスを訪問するという。

このイベントには世界中のワイナリーがやってくるので、日ごろ、主にカリフォルニアワインを飲んでいる私にとって、世界のワインを飲む良い機会なので、わくわくしながら、ほとんどのワインをテイスティングした。昨年のスイスでのワインフェスティバルに参加していたワイナリーやお客さんとも再会。私にとって ヨーロッパのワインがぐんと近くなった。でもヨーロッパ人にとってカリフォルニアワインは遠いのだということを実感した。ドイツ語、フランス語、英語が飛 び交う3日間のテイスティングで、毎日、出勤?してざっと見回すと、まずフランスワインの会場が一番混んでいる。その次がドイツ、それからイタリア、続いてスペインかカリフォルニア、そしてオーストラリア、ニュージーランド、ハンガリーという順番なのだ。オーストリアのワイナリーも参加していたが、あんまり混んでいない。「自国のワインはいつでも飲むことができるし、レストランでも飲めるから」とウイーンの友人が言っていた。

オーストリアのデザートワインは世界的に良く知られている。ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼを越えているのもある。そしてシャトー・イケムを超えるの もでてきたというのを聞いたので(品種は別として品質という意味)、それを清水さんに言ったら「それはイッケマせんな」というジョークが返ってきた。
白ワインでは樽を使っていない酸味がすっきりした食べ物によく合うグリューナー・フェルトリナーがオーストリアのワインと認識していたのだが、今は世界に認 められる赤ワイン造りに情熱を傾けている。特にブラウフレンキッシュという品種から造る赤ワインがオーストリア人たちにとって関心の的で、「まだ世界でどういう評価を受けるかわからない。品種としての個性がカベルネのように品があって華やかではない。でもなかなかいいと思うんですよ」と土地っ子たちが誇りに満ちた表情でご馳走してくれた。品質は中から上級。特にETというラベルのものは、風味が凝縮していて、骨格がはっきりしていて、十分に熟していて、でも決して過熟ではない質の高いワインだった。近代的栽培技術を駆使して、ブドウ樹1本に2房しか付けないという。ご馳走してくれた紳士が「あと10年もす れば世界に認められるかもしれないと期待しているんですよ」と言うので、私は「いや、5年以内に世界で注目をあびるんじゃないでしょうか?」と言ったら、嬉しそうに微笑んだ。ウイーンの友人にETというラベルのワインのことを言ったら、「あれはオーストリアのムトンみたいなワインだよ」といった。どこのワイン産地にも美味しくて品質の高いワインを造ろうと情熱を注ぐ醸造家が存在する。
スイスのフェスティバルよりブルゴーニューとボルドーが多く参加していた。美味しいと思ったワインは多分、みんな高いワインだろうな。


印象に残ったワイナリーとワイン

*各ワイナリーの全部のワインを書くのは省略して、主なワインだけを書きます。

ドイツ
ドクトル・ローセンDr.Loosen
2005 Erdener Pralat リースリング、アウスレーゼ
花びらがちょっと厚みのある白い花、ミネラル、とろみ。酸味と甘味のバランスがいい。美味しいフィニッシュ。

グンダーロッチ(Gunderloch)

2005 Estate Qualitaswein troken
ハニー、酒かすの香り。清々しい味わい。上品なリースリング。
*このワイナリーのどのワインもフィニッシュが素晴らしいところが印象に残った。

Heymann-Lowenstein
2004 Lage Stolzenberg
スミレの花、石油。味の凝縮感は少ないのだけど、辛口の清々しいワイン。新しいスタイルのリースリング。
*スイスでお会いしたのを覚えていて、こちらが「えーっと」と考える暇もないすばやさで、「ハーイ!」とお二人の力強いハグ。2005年に「フレンチワイン・ オスカー」でベスト外国ワイン賞を受けたという。スイスで試飲したときには、透き通るような酸味と甘味のバランスと緊張感のある従来のドイツのリースリングが教科書として頭にあったし、辛口がちょっと苦味に感じるものもあって、よく理解できなかった。でも今回、再テイスティングしてみて、新スタイルの魅力 のある辛口ワインであると納得。

フランス
ドメーヌ・エティエンヌ・ソゼ(Domaine Etienne Sauzet)
2004 Batard Montrachet Grand Cru
焦点の定まった香り。ミネラル。きれいで美味しい酸味。熟するちょっと前のスモモの酸に力強さが加わった長いフィニッシュ。

Puligny Montrachet 2004 Le Perreres 1er Cru
酒かすと少しのミネラルの香り。凛とした引き締まった酸。上品で素敵なワイン。
*最近、樽香の利いたトロピカルフルーツ味が一杯のカリフォルニアのシャルドネに疲れ気味で、シャルドネを避けていたのだけれど、とても良く出来たモンラッシェはほっとさせてくれた。

Domaine Jacques Prieur

2003 Musigny Grand Cru
花の香り。口当たりがとても優しい。エレガントなワイン。
*カリフォルニアの気候では造ることができないスタイルのピノ・ノワール。パワーを目指すブルゴーニュもあったけれど、せっかくブルゴーニュを飲むなら,こういうエレガントなのを楽しみたい。

Domaine Albert Morot
2001 1er Cru Bressandes
華やかな香り。味わいもフィニッシュもフルーティでエレガント。フェミニンで素敵なワイン。

Chateau Figeac
2001La Grange Neuve de Figeac
アニス、赤系フルーツの焦点の定まった香り。少しの揮発酸。口の中に優しいライプフルーツの甘味が広がる。上品に静かにフィニッシュが広がって消えていく。それにしてもカリフォルニアワイン以上にフルーツの甘味が感じられたのには、驚いた。
*イベントに招待されたワイナリーの人たちが宿泊したホテルのエレベーターは部屋のキー(カード)を差し込まないと動かない。フランス語しか話さない老夫婦と エレベータで一緒になった。夫のほうがカードを差し込もうとしてもなかなか思うように行かずに四苦八苦していたので、レイがカードを差し込んだら、メルシーと言って奥様がにっこりと微笑んだ。この老夫婦がシャトー・フィジャックのオーナーだと試飲に彼らのブースに行って知った次第。

イタリア
Luciano Sandrone
2004 Barbera d'Alba
ジャミーでフルーツの甘味、凝縮した味に程よい酸味が加わる。長いフィニッシュ、1年ほど待って飲みたい。新しいスタイルのバルベラ。多分、パーカーワイン?

オーストリア
アーロイス・クラッハー(Alois Kracher) デザートワイン
2000 Nouvelle Vague TBA
ネクタリン、マーマレード、石油。究極のとろみ?甘味とこなれた酸のバランスがよく、長いフィニッシュ。大胆に究極を追求したワインなのだが、この日、試飲させてもらった他の3つに比べると、このワインには品が加わっている。フレンチオークの新樽で熟成。シャルドネとヴェルシュリースリングのブレンド
*カリフォルニアからマンフレッド・クランクのデザートワインも試飲に出ていたので、クラッハーと比べみようと2002年のStraw Manをテイスティングした。こちらも究極のとろみ。でも酸味が少なく、徹底的に甘い!! バニラアイスクリームにかけて食べると美味しいだろうな。パー カーが絶賛しているデザートワインなのだが、ここまで来るとコカコーラで育ったアメリカ人の甘さ好きに、私は「もう、ついていけない!」というのが、正直な感想。

スペイン
Vinos Telmo Rodriguez
2003 Altos lanzaga DOC Rioja
カシス、程よいフルーツ。ソフトな口当たり。上品なワイン。バイオダイナミクス栽培。