No. 43 Date:2009-12-24
しなやかな感性
もう何年も前のこと。将来を期待される美しい若い女性ソムリエがカリフォルニアへやってきた。そしてセインツベリーの若々しいフルーティなピノ・ノワールを試飲した。
「これがピノ・ノワール?ブルゴーニュの赤と同じブドウ?」
そのときの彼女の驚愕した表情が今でもくっきりと記憶に残っている。最近は醸造と栽培技術の革新が世界的に進んで、共通した味を持つワインがブルゴーニュ の世界でも多くなってきているけれど、その当時、きっと彼女は湿った森の香りと味(時にはバクテリアが原因)がたっぷりのブルゴーニュを、これがブルゴー ニュの香りと味と記憶したのだと思う。セインツベリーのピノはそれに比べるとあまりにもフルーティで、どうとらえたらいいのかわからなかったのだろう。
ふと考えた。良いのも悪いのも含めてブルゴーニュの赤しか飲んだことがない人がカリフォルニアのピノを初めて飲んだら、どういう評価をするのだろうか。逆 にカリフォルニアのピノしか飲んだことがない人がブルゴーニュの赤を初めて飲んだら(願わくはバクテリアのせいで森の湿った香りがしないもの)どう評価す るのかしら?
日本に住んでいたときに初めてヨーロッパへ行った。公園で田舎から出てきたらしいグループが私を指差して何か言っている。私を凝視して目をはずさないか ら、私も相手に向かって指をさしてみたけれど、瞬きひとつせず動じる様子を見せない。「なんて醜い女だ」って言ってたのかもしれない。美人の標準は国に よって違う。国の特色がある。世界中の美人が同じ顔になったらつまらない。
ワインも同じ。カリフォルニアのチェリーキャンディを想わせるピノが消えて、全部のピノが森の湿った香りになったら哀しい。
若いときの読書は頭を堅くするために、大人になってからの読書は頭を柔らかくするためにと高校の先生が言っていた。
いろんなワインを飲み続けてこれが一番と固まっていくのではなくて、ワインを飲み続けて、いろんなタイプのワインを楽しむことができるしなやかな感性を維持したい。