No. 22-6 Date:2006-05-17

樽のセールスマンが得意先のワイナリーのスタッフを招いて1991年と1992年のヴィンテージのテイスティングをするというのを耳にして、頼み込んで入れてもらった。全部で10人ほど。このあたりではよく知られているワインライターも来ていた。
ここで興味深い体験をした。ライター氏が現れた時点から、みんながなんとなく緊張している風だった。ワインライターとして生活しようと決意したときに、最初 にテイスティングしたのが69年(だと思った)のボルドーだそうで、「そのワインはほとんど飲める状態ではなかったよ。とんでもない仕事についてしまった と一瞬後悔したものさ。10年後に同じワインを飲んだとき、ようやく飲めるようになっていた。よく熟成していたという意味じゃないよ。文字通りの飲める状態になっていたというだけのことさ」と話していた。
91年のブラインドのテイスティングが終わって、それぞれがコメントして、好きなワインから順位をつけて報告。一番点数の少なかったワインが1位となる。次に 92年が注がれた。あるワインについて、彼が「これはほんの少しブショネだね」と言った。私は全然感じなかった。でも樽のセールスマンは「あ、そうです か」とさっと席を立って、違うボトルからワインを注いだ。新しく注がれたワインは、前と全然違っていて、私は唖然としたけれど、おとなしくしていようと黙っていた。誰も何も言わない。
92 年の試飲が終わった時点でライター氏は「ワイフがディナーを作って待っているのでお先に失礼します」と帰っていった。私がブショネと指摘されたワインから ブショネが感じ取れなかったことと、その後に注いだワインは、同じワイナリーのものとは思えないと言ったらみんながうなづいた。ライター氏がほんの少しブ ショネだといったから、誰も反対意見を言わなかったわけだ。それほどワインライターってみんなを敏感にしているんだなあと不思議なところで感心した。
そしたら樽のセールスマンが「申し訳ない、誤らなければなりません。僕が間違って違うワインを注いでしまいました」と言うではないか。みんな、あんぐりと口 をあけたまま、彼を見つめた。がっくりした表情だったけれど、何も言わなかった。それにしても間違って違うワインを注ぐっていうのも、ちょっと信じられないよね。でもこういうことが本当に起こったのだ。

テイスティングしたワインは:
1991年
ヘスコレクション
カラメル、ニッキ、ヨード香。まだフルーツが残っていて程よい酸味もあり、$17だと、グッドヴァリュー。
モンテベーロ
ちょっと焦げっぽい香りと、湿った枯葉の香り。口当たりは滑らかでフィニッシュはなかなかいい。でも高額を出して、私は買わない。
ジョセフ・ヘルプス(バッカス・ヴィンヤード)
少しの熟成香。ダークビッターチョコレート。香りの焦点が定まっている。口当たりが軽やかで美味しい酸味の長いフィニッシュ。香りの印象と味わいが違っているのがユニークだった。ちょっと乾いたタンニン。グループ評価で1位。
ベリンジャー、プライベート・リザーブ
ダンボールの香りが少し。きれいな熟成香は上がってこない。甘さと少しの苦味がミックスした味わい。タンニンが健在。好きと嫌いがグループの中ではっきり分かれた。
スタグス・リープ、カスク23
まだフルーツが残っていて、ポテトの皮、それに熟成香が加わり、複雑味のある香り。口当たりがマイルド。しなやかでエレガントなワイン。他のワインに比べると繊細なので、インパクトは薄かったけれど、美味しいワイン。私はこれを1位にした。

1992年:
ラファネリ
熟成香が少しにハーブがアクセント。フルーツの甘味と心地よい酸味、こなれたタンニン、しっかりしたワイン。グループ評価で1位。
ヘス・コレクション
ニッキ、赤と黒系フルーツ、煮た野菜香。甘味と酸味と少しの苦味。フィニッシュはいい。 レイヴンスウッド 香りは控えめ。甘味と苦味がミックス。シンプルなワイン。 スタグス・リープ、カスク23 ヨード香。エレガントでバランスが良く、フィニッシュも長い。91年と同じスタイルを保っている。
モンダヴィ、リザーブ
ヨード香。パワーと深みを感じさせる香り。味わいは香りと違って無表情、ちょっと硬い。タンニンが口の中の上と下にくっつく。

1991年:15年たっているのに、どのワインも老衰したワインはなくて、ワインの味はどれも良かった。健全なワイン。
*91年は比較的涼しい年でブドウの生長期間が長く、非常に良い年。

1992年:1年若いだけなのに、よりフレッシュでジューシーだった。
*92年はやや温暖でリッチでフルーツ味豊かなカベルネが収穫できた、非常に良い年。