ワインを飲む時に、あなたは何を期待して飲みますか?
まず頭に浮かぶのは、
美味しい!と思うワインを探して飲む。
ブドウが育った風土に思いを馳せて、風土を感じながら飲む。例えばタンニンたっぷりで土の香りがするワインだったとしたら、こういうワインがこの土地からできるんだなあとその特質を敬意を(大げさ!)を払いながら飲むといったところでしょうか。
今回はカリフォルニアワインの歴史を感じながら飲んでみることにしました。
ここ5年ほど、無視されてきたブド品種を復活させるようという醸造家登場しています。
その一つの品種がミッション種です。ミッションワインのルネッサンス?ってところでしょうか?
歴史をざっとみてみました。
ミッション種は1620年代にスペインからメキシコを通過してテキサス、ニューメキシコへ運ばれてきました。カリフォル二へやってきたのは1769年です。フランシスカン派のユニペロ・セラ神父がカリフォルニアに紹介したとされています。温暖で乾燥しているカリフルニアで太陽をたっぷり浴びてミッション品種はよく成長しました。アメリカで初めて植えられたヴィティス ヴィニフェラとされています。
スペインではリスタン・プリエト(Listan Prieto)として知られている品種ですが、フィロキセラの被害を受けてほぼ撲滅しています。唯一、カナリーアイランド(今でもフィロキセラが存在しないそうです)に数エーカー残っているとのことです。
またチリではパイス(Pais)、アルゼンチンではクリオヤ・チカ(Criolla Chica)として知られています。
アメリカではフランシスカン派の修道士、セラ神父がミッション種を植えて聖餐のワイン(テーブルワイン)とアンジェリカと呼ばれるブドウ果汁にブランデーを加えた酒精強化ワインを造っていたことからミッションと呼ばれるようになりました。
南カリフォルニアからスタート。
ミッション派伝道師が栽培している畑からミッション種の穂木を貰って栽培を始めたところから始まって、カリフォルニアワイン時代初期にカリフォルニアワインの基礎品種になりました。
でもやがて消滅していきます。
南カリフォルニアでミッション種から生産されていたのはアンジェリカと呼ばれたミッション種にブランディを加えたひどく甘いワインだったので、他のヴィニフェラ種がカリフォルニアへ登場して、甘いワインは衰退していったのです。
20世紀に入って、ヨーロッパのノーブル品種と言われるリースリングやカベルネ・ソーヴィニヨンが生産されるようになって、ひどく甘いワインは流行らなくなりました。
ミッション種から偉大なワインはできないという認識に落ち着いたのでした。
今でも残っているアンジェリカを飲んだ人によると、甘さが抜けてみずみずしいフォーティファイドワインになっているそうで、1世紀を超えて保存されてきたアンジェリカは貴重なワインとして高額な価格がつけられているとのことです。
現在、ミッション種は主にフットヒルズ地区とサンタ・バーバラ・カウンティとロサンゼルスに162ヘクタールほどしか残っていません。1850年代には南カリフォルニアのサンタ・アナ地区だけでも4047ヘクタールの栽培面積を誇っていたそうです。
1850年にはロサンゼルス・カウンティに100ほどのワイナリーとヴィンヤードがありました。
品種の特色
ミッション種は丈夫な品種で南カリフォルニアとか南米のように熱くて乾燥した気候に適しています。色が薄くて、酸が低く、糖度が高く、収穫量は多く、味わいは凝縮度に欠けています。
ナチュラルワインムーブに乗って、現在、ミッション種はナチュラルワインに使われていて、クールな品種とされています。
ナチュラルワインに触れると長〜い記事になってしまうので、またの機会にしますが、ミッション種から造られたナチュラルワインは、ミステリアスさが増してよりナチュラルワインファンを惹きつけているともいわれています。
ワインラバーはストーリー性のあるワインに大きな関心を見せます。長い歴史を持つミッションワインはそのポイントにぴったりと合います。
ミッション種から造ったワインを復活させているカリフォルニアの醸造家は、あまり多くなくて、少量生産なので売り切れていたりして、ミッションワインを手にれるのに、すこし手間がかかりましたが、2つのワインをゲットして飲んでみました。
Miraflores 2018 Mision, Lodi
Pax 2019 Mission Somer’s Vineyard, Lodi
ミッションワインは典型的な赤ワインとはちょっと違いました。
Miraflores, 2018 Mision 1853, Lodi
グリルしたポークにトマティアソースをかけた料理に(料理したのはレイです)にミステリーワインとしてMirafloresをオープンしました。
レイは「不思議なワインだなあ」と、しばらくクンクンとゴクリ。あまり美味しそうな表情は見せません。
「ミッションだな」と当たり!
「どうしてわかったの?」
「obscurity(不明瞭、世に知られてないこと)なワインという記事を読んだので、その説明にぴったりだったからさ」
「もう飲まなくてもいい」とすげない。
「もう一本あるんだけど、次のディナーに出してもいい?」
「オーケー、でもバックアップのワインも用意しおいて」と警戒態勢(笑)
「苦いところがアメリカインディアンの怒りだ!って感じる」と娘。
「何よそれ」と私。
「歴史を飲むって言ったでしょう」とのたまる。
「なるほど、確かにフィニッシュに苦味があるわね」
セラ神父がアメリカインディアンにキリスト教に改宗することを強要して迫害を加えたというのは事実です。
ローダイ地区にある畑で1853年に植えられています。
色が濃い(やや黒みを帯びている)、チェリーとシェリーの香り。ボディは中位。甘いタイプのシロップ状の風邪薬。フィニッシュに苦み。
Pax 2019 Mission Somer’s Vineyard, Lodi
明るいルビー系の色。軽いボディ。フルーティ、クランベリー、ザクロ、イチゴ。しっかりしたタンニン。フィニッシュはチェリーリキュール。
フライドチキンと一緒に飲みました。
ローダイ地区にあるソマーズ・ヴィンヤードに1900年代に植えられています。非常に大柄なブドウ樹で幹は太くがっしりとしていて丈2メートルと背の高いブドウ樹です。オーガニック栽培。
味わいの凝縮度は低いけれど、造り方がきちんとしていて、ミッションワインとしては納得がいく味わいでした。一部はカーボニックマゼレーション。全房発酵。
よく冷やして飲むようにとテイスティングルームの男性が強調していたので、しっかり冷やして飲みました。
セラ神父が南から北(ソノマが最北地)へ伝道所を建ててミッション種を植えてワインを造り、宣教を続けていた姿に思いをはせながら、歴史を飲みました。
ロサンゼルスのワイン歴史家は市の周辺の公共ナ場所にミッション種を植える計画を立てています。時代、文化、国境を越えて生き延びてきたミッション種に永久に存在できる場所を作ってあげたいという望みからです。
歴史家の言葉です。
「ワインの背景にある物語は、時には、ワインより重要です」
機会があったらもう少しミッションワインを飲んでみたいです。
*ミッション種の写真はLodi Wineのページから使わせていただきました。