日本ではカリフォルニアのシラーはあまり飲まれてないと思うのですが、飲んだことがある方でも、カリフォルニアのシラーというと、ヘビーでアルコール度が高くて濃くてフルーツ爆弾、料理に合わないという意見が多いのでは?
それは誤解です。
新しいスタイルのシラーを目指す新世代の醸造家たちが生産するシラーが注目されています。今までのイメージとは違うシラーです。
シラーに情熱を注ぐ造り手たちは、涼しい地区のシラー種から決して過熟ではないアルコール度が12−13・5%のエネルギーに満ちた、テロワールを追求した、個性豊かなシラーを造っています。ブルー系のフルーツ、リコリス、スミレ、きれいな酸、味わい豊かなシラーです。
造り方も涼しい地区のシラー種から、なるべく手をかけない醸造法でワイナリーによっては全房で発酵するといった造りをしています。
誤解はどこから生まれたのでしょうか?
19世紀にシラー種が植えられていたそうですが、カリフォルニアでシラー種に目を向けるようになったのは1970年代でした。1980年代にボニー・ドゥーンのランドル・グラムやジョセフ・ヘルプスやキューペのボブ・リンクイストといった人物がシラーの生産を始めてシラーが注目されるきっかけをつくりました。
そしてジョン・アルバン(Alban Vineyard )やスティーブ・エドムンズ(Edmunds St.John)といった醸造家がシラー生産を続けてきました。
1990年代から2000年初めにかけてシラーブームがやってきそうな状況でした。私もシラー時代がやってくると予測しました。ブドウ栽培農家もシラーの時代が来たと思ったのでしょう。シラー種をどんどん植えたのです。どの土地が品質の高いシラーを生み出すのかということを深く考慮せずに、多くの人が温暖な気候の土地にシラー種を植えました。
1990年から2004年にかけて、シラー種の栽培面積が200エーカーから17000エーカーに急増。その結果、収穫量が多めのシラー種からモノトーンのシラー(小売価格一本が$40というのも多かった)が市場に出回りました。折からの過熟ブドウから造られたアルコール度が高い濃厚なスタイルのワインが高評価を受ける中で、過熟でジャミーな個性に欠けるシラーが多く生産されました。
シラーブームはやってきませんでした。残ったのは、カリフォルニアのシラーはジャミーで個性に欠けるワインという一般的な印象でした。
そのイメージがなかなか抜けませんでした。
今、それを越えるシラーーが造られ始めています。
冷涼地区のシラー種から新しいスタイルのシラーを生産している代表的なワイナリーをざっとあげてみます。
Pax, Failla, Jolie Laide, Enfield, Stolpman, Drew, Arnot-Robert, Radio-Coteau, Donelan, Piedrasassi, Peay, Copain, Bedrock。
まだまだ新しいスタイルの個性豊かなシラーを造っている小さなワイナリーがあると思います。
この中からいくつかのワインを飲んでみました。
2015 Failla Syrah Hudson Vineyard ($56)
ブラックチェリー、オレンジピール、少しのハーブ、パワフルなのだけれどしなやかで重さが感じられない。
2014 Donelan Syrah Cuvee Christine ($48)
リッチでパワフル。でも重さが感じられない。ダークフルーツ、スパイシーで華やか。味わいに深みがある。パックスの元パートナー。パックスが抜けた後、ドネランのブランドでシラーを生産している。
2014 Arnot-Robert Syrah Sonoma Coast ($40)
ラベンダー、セージ、ブルー系のフルーツ。酸がしっかりとした引き締まったシラー。
2016 Drew Syrah Valenti Vineyard ($48)
黒胡椒、セージ、リコリス、ブルー系のフルーツ。冷涼地区のシラーの特色が反映された個性的なシラー。しばらく空気に触れさせておくと、バラの花びら、レッド・チェリーの香りと味わいが加わる。
2014 Piedrasassi Syrah Bien Nacido Vineyard ($55)
シルキーでしなやか。スパイス、ラベンダー、ミントの香りと味わいがフィニッシュまで続く。
2016 Halcon Alturas (Syrah) ($32)
ブルーベリー、ミント、ラベンダー、少しの黒胡椒。軽やか、深みは中くらい。グッドヴァリュー。
値段は決して安くはありませんが、この質のレベルのカベルネ・ソーヴィニヨンに比べるとバカ高ではありません。どのシラーもそれぞれ個性的で、綺麗に酸がのっていて、フィニッシュはだれていません。料理によく合ってくれると思います。
余談:
よく出来たカベルネ・ソーヴィニヨンはとっても美味しいです。先日、ナパ・ヴァレーの高級カベルネの幾つかを試飲する機会がありました。どのカベルネもナパらしい華やかさを備えたバランスのとれた素晴らしいカベルネで、値段も素晴らしかったです(涙)造り手のパッション(情熱を注いでワインを造っているのは当然ですが)とか畑の個性の強い主張というより「僕たちは(なぜ僕で、私じゃないのか?)誰もが疑わない優等生です」というメッセージ?なのでした。
「優等生ワインのどこが悪いの?」
「どこも悪くありません。」
で、新しいスタイルのシラーに話を戻すと、どのシラーもそれぞれの個性を明確に主張してるのです。こんなシラーを造りたいという造り手のパッションが伝わってきます。優等生ワインじゃないので、一緒に飲んだ仲間から、いくつかのシラーは、もう少し熟してから摘んでみても面白いんじゃないかなという意見も聞かれました。
「カリフォルニアのシラーはどうも、、、」と思っていらっしゃる方も、一度飲んでみられるといいかと思います。
レファレンスとしてこんなワインも飲んでみました。