ナパ・ヴァレーのソーヴィニヨン・ブランというと、(私にとって)フルーツ味が豊かでフランスのものに比べるとリッチ、それにトロピカルフルーツやオーク樽の味がアクセントになってるというスタイル(タイプ)がぱっと頭に浮かんできます。
そんなある日、ウイークリー・カリストガンにナパ・ヴァレーのソーヴィニヨン・ブランについて書かれた記事が目に入りました。
セント・ヘレナの醸造家有志が集まって試飲した時の記事です。スタイルが変わったこと、驚くほどにスタイルが多様化していること、この日に試飲した中で好評だった生産ワイナリーがリストアップされている内容でした。
早速、スタイルが変わったことを確認したいと思い立って、この試飲でベストに選ばれたワイナリーを訪問してみました。
ナパ・ヴァレーのソーヴィニヨン・ブランのスタイルの基本はロバート・モンダヴィのフュメ・ブラン(1968年)にあるといいます。ボルドーの白を模倣してフレンチオーク樽で熟成させたものですが、名前はロワール・ヴァレーのPouilly-Fumeの最後の部分を借りてネーミングされました。
ソーヴィニヨン・ブラン種の特色はご存知のようにペラジン(Pyrazine) という科学物質が含まれていて、独特の香りがあります。ブドウの粒が未熟だとピラジンがピーマン、ヘラピーニョ、若い草の香りと味を生み出します。ブドウの粒がよく熟するとピラジンも熟してトロピカルフルーツ、グレープフルーツ、レモングラスといった香りと味わいを持つワインになります。この味わいと香りの特色をどの程度のところへもっていくか(ブドウを熟させるか)は畑の栽培条件と、どの時点で摘むかという醸造家の判断になるわけです。
モンダヴィのコンセプトを受け継いだスタイルに加えて、栽培の経験を十分に積んだこと、畑の個性を出すための栽培技術の向上、クローンの選択といったことも加えられて、ワイナリー独自の素晴らしいスタイルが生み出されているという結論に達していました。
28のソーヴィニヨンの試飲に参加した醸造家はその多様なスタイルに驚いたそうです。
まとめると以下のコメントが載せられてました。
- 綺麗でフレッシュなスタイル。
- 輝くようなフルーツ味と決して強すぎないオーク樽の香りと味を持つリッチなタイプ。
- 控えめに熟したブドウから造ったものはアロマの構成よりむしろ酸の構成を示している。
- 熟したタイプの美しいソーヴィニヨン・ブランはストーン・フルーツと熟したレモンが特色。
トップに5つのワイナリーが挙げられていました。その中の一社はワイナリーでしか販売されていないので、スキップしました。
Charles Krug 2016 Sauvignon Blanc ($18)
わずかな草の香り、軽やかでフレッシュ。グレープフルーツ、すっきりした酸味が特色。
2016 Limited Release ($36)
少量生産。樽の香りと味わい、ボディが加わっていて、味の要素も上のより複雑。フィニッシュはすっきりしていて、過熟ブドウの甘さはない。
Girard Winery 2016 Sauvignon Blanc ($18)
モンダヴィのフュメブランの系統を引くタイプ。シトラス、少しだけ草の香り。ふくよかで程よいフルーツの甘み(でも決して過熟ブドウから生まれる甘みではありません)と酸の長いフィニッシュ。オーク樽は使ってなくて、100%ステンレスの発酵タンクを使用。
White Hall Lane 2016 Sauvignon Blanc ($22)
ルサフォード地区にある自社畑のブドウを使用。セミヨンが14%ブレンドされている。
青リンゴの皮、涼しげなハニードュー(薄緑色のメロン)の香り。レモングラスがヒントとして感じられる、きりっとしていてフィニッシュが長い。
テイスティングルームの女性がこのワイナリーはソーヴィニヨン・ブランを含めてワインのスタイルを変えたことから「new era(新しい時代)」と表現していました。
Herb Lamb Vineyards 2016 Two old dogs Sauvignon Blanc ($30)
草の香り、ピンク・グレープフルーツ、メロンの香り。ワインのフレームがきちんとある。ボエィも十分。熟したフルーツの酸味。メロンとほおずきの味を伴う長いフィニッシュ。バランスがよくてリッチなカリフォルニアスタイルのソーヴィニヨン・ブラン。
アルコール度は14%。2つのクローン(376と530)とソーヴィニヨン・ムスケクローン。
ステンレスとコンクリートの発酵タンクを使用。
ナパ・ヴァレーのソーヴィニヨン・ブランとして外せないワイナリーとして、個性的でエレガントなスポッツウッドのソーヴィニヨン・ブランとモンダヴィのフュメ・ブランを加えました。
Spottswoode 2016 Sauvignon Blanc ($38)
華やかな香りと味の要素が何層にも重なった複雑味のある本格的な(といってもオーク樽の香りや味わいを強調したフルボディタイプではありません)ソーヴィニヨン・ブラン。
シトラス、ストーン・フルーツ、洋梨、白桃、レモンメレンゲといった味わいに美味しい酸味の長いフィニッシュが続く。
小型の樽の形をしたステンレスタンク(60%)、フレンチオーク樽(35%、そのうち新樽が15%)コンクリートタンク、セラミックタンクで発酵。クローン1、クローン2、ソーヴィニヨン・ムスケ クローン。
Mondavi Fume Blanc
モンダヴィのフュメ・ブランはどうなっているのかしらと思って、テイスティングルームの立ち寄りました。
モンダヴィのフュメ・ブランは健在でした。フュメ・ブランの名前で、4種類生産。
フュメ・ブラン、ナパ・ヴァレー
フュメ・ブラン、オーク・ヴィル
フュメ・ブラン、リザーブ、トカロン・ヴィンヤード
ブロック1、ト・カロン ヴィンヤード
Robert Modavi 2015 Fume Blanc, Napa Valley ($20)
香りは控えめ。レモンの皮、グレープフルーツの味わい。酸味がしっかりしたタイプ。
買いぶどうを使用。ト・カロンのセミヨン(4%)をブレンド。
Robert Mondavi 2013 Fume Blanc, Oakville ($40)
レモン、ミネラル、控えめのフルーツ、豊かな酸。長いフィニッシュ。バランスがいい。
自社畑のブドウを使用。ソーヴィニヨン・ブラン(89%)にセミヨン(19%)をブレンド。新オーク樽(32%)と3−4年使用した樽で発酵。シュールリーを100%。600ケース生産。
2012 1block To Kalon Vineyard, Fume Blanc ($100)
火打ち石、ハニー・ドゥ、シトラス、ストーンフルーツの香り。フルボディ。
アルコール度が14.5%からくるヒントとしての甘みにマジパンと酸の長いフィニッシュ。ワインクラブ用。
ト・カロンのブロック1から収穫したソーヴィニヨン・ブランを使用。北カリフォルニアで最も樹齢のいったソーヴィニヨン・ブラン樹とされている。フレンチオーク樽(新樽25%)で発酵。低温でゆっくりと発酵させて酸をキープ。シュールリーを9ヶ月。
私が試飲したソーヴィニヨン・ブランは、酸の構成を中心とした気軽に楽しむタイプから、高い質をもつ本格的な白ワイン(ソーヴィニヨン・ブラン)まで、過熟ブドウからくる甘みは一切なくて、フィニッシュにきちんと酸が決まっていました。ホワイト・ホール・レーンのワインのスタイルが新しい時代を迎えたということに加えて、ナパ・ヴァレーは確実に新しいスタイルのソーヴィニヨン・ブランを造る新時代に入ったようです。
残暑が残る日々、爽やかで綺麗な酸を持つソーヴィニヨン・ブランを楽しむのも、良いかも。
参考:ソーヴィニヨン・ブラン種のクローン
カリフォルニアで栽培されているメジャー品種の中ではクローンの数が少ない品種です。UCディヴィス校のFoundation Plant Services (FPS)に登録されたクローンは、例えばFPS01と登録されていますが、通常クローン1というように呼ばれています。
スポッツウッドで使われているソーヴィニヨン・ブランのクローンは1と6です。
FPS01は1958年にウエンテ・ヴィンヤードからUCデイヴィス校へやってきたことからWente cloneともいわれています。1800年代にフランスのシャトー・イケムから輸入されたものされています。カリフォルニアで最も植えられているソーヴィニウオン・ブランのクローンです。
ソーヴィニヨン・ブランFPS06はイタリアから来たクローンです。
ハーブ・ラムでは376と530という珍しいクローンが使われています。
ソーヴィニヨン・ブランENTAV-INRA ® 376 はカリフォルニアで認定を受けて在庫ありのクローン。ENTAV-INRA はフランス政府が保証したクローンのトレードマークです。
ENTAV-INRA ® 530はトレードマーク プログラムを通じて購入できるクローン。
他にもこの系統のクローンが何個かありますが、最近カリフォルニアで手に入るようになったクローンなので、どういった特色が出るのか情報がないとのこと。
ちなみにスポッツウッドとハーブ・ラムではソーヴィニヨン・ムスケ クローンも使っています。
カリフォルニアではマスカットの味が特色のソーヴィニヨン・ブランはソーヴィニヨン・ムスケと呼ばれています。ボルドーからやってきたムスケクローンはソーヴィニヨン・ブランのクローンのひとつで、FPS27として登録されています。
フィールド・セレクションのソーヴィニヨン・ムスケはウイルスにやられていないか等のテストを経て、UC デイヴィス校の登録システムを終えたクローンが登場してきています。