No. 38 メルヴィル

No. 38 Date:

メルヴィル

新しいブドウ栽培地として注目を浴びるサンタ・バーバラ・カウンティ。なかでも品質の高いピノ・ノワールとシャルドネを生産する地区のひとつとして関心を 集めているのが、サンタ・リタ・ヒルズ。1970年代からブドウの栽培を始めた若い栽培地区だ。ソノマとナパが80年代に醸造技術を研究、90年代に栽培 の研究と実験をし、良い結果と誤りを学んだ。サンタ・リタ・ヒルズはその結果を参考に、この地区に適用できるテクノロジー、例えばスペーシング、台木、ク ローン、下草等々を駆使しての栽培、ワイン生産に入ることが出来た。その恩恵を受けて、短期間で質の高いワインを世に出すことができたのだ。
その代表的なワイナリーのひとつがメルヴィル。
ワイナリー経営のヴィジョンを持つオーナーのロン・メルヴィル、そしてワイン造りに高い感性をもつ醸造家のグレッグ・ブリューワー、地区についての知識が 豊かで、誠実にそして情熱を持ってこの地区、そしてメルヴィルのワインをプロモートするスティファンが貫目となって躍進中のエネルギーに満ちた若いワイナ リーだ。
パシフィック・ストック・エクスチェンジのメンバーとして活躍していたロン・メルヴィルは1989年にソノマ・カウンティのナイツ・ヴァレーにブドウ畑を 所有し、シャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンを栽培し、ソノマ・カウンティの著名なワイナリーにブドウを売っていた。サンタ・リタ・ヒルズの ピノ・ノワール栽培の開拓者であるサンフォードのピノ・ノワールを試飲して、ベストのピノ・ノワールだと感激。
1996年にサンタ・イネズ・ヴァレーの西側(サンタ・リタ・ヒルズ)の可能性を感じ、ナイツヴァレーの畑を売ってこの地区に土地を買い、ピノ・ノワー ル、シャルドネ、シラー、ヴィオニエの栽培を始めた。品質の高いブドウはこの地区のトップ醸造家たちをはじめ、多くのワイナリーから買いたいというオ ファーが来た。
1998年にワイナリーを建てた。現在、ワイナリーのある地区とロス・アラモスに合わせて約58ヘクタールのブドウ畑を所有。
醸造責任者のグレッグは日本の文化に信奉している。ワインを語るとき、板前さんを例に、いかに素材が重要かを話す。「ワイン造りについて話すとき、樽のタ イプ、熟成期間、酵母、マロラクティック発酵等が出てくる。しかしテクニックは味の良いワインを造るために使われるもの。自社畑でいかに良質のブドウを育 てるかがとても重要。料理についても同じことが言える。どういう包丁を使うか、調味料は、温度はというのは重要な役割を果たしているけれど、要するにどう いう一皿が出来上がったかということが重要」なのだという。
ヴァーナス・ヴィンヤード
昨年の10月、ロス・アラモスにあるメルヴィルのヴァーナス・ヴィンヤードを訪れた。ユニークな地区なのだけれど、ブドウ畑はあってもワイナリーはないこ とから、まだAVAとはなっていない。約10年前に、ロス・アラモスの北にあるキャット・キャニヨンに40ヘクタールの土地を買い、ヴァーナス・ヴィン ヤード(ロンの母親の名前)と名づける。主にピノ・ノワールとシャルドネ、シラーを栽培している。
サンタ・マリアの町を出て州道101号線を南に走る。ロス・アラモスという村の標識が見えたら、左手のキャット・キャニヨンという道のサインに従って左 折。待ち合わせは10時30分。インディアンサマーということでカリフォルニア州全地区で気温があがっていた。10時30分だというのに真夏の暑さだ。左 折するとすぐに後ろにSUVがついて来て追い越した。こんな田舎道を走る車はまれだ。運転手の顔がチラッと見えた。ブドウ畑を案内してくれることになって いるステフェンだった。彼は私だと気づかずに追い越して、しばらくしてから気がついたらしくスピードを落とした。
ロス・アラモスはちょうどサンタ・マリア・ヴァレーとサンタ・リタ・ヒルズの真ん中に位置している。多分気候も真ん中当たりだろう。
101号線からは想像もつかない、広大なブドウ畑が砂丘を覆っている。畑のひとつはナパのサターホムの畑だ。主にシャルドネを栽培。朝早くに摘んで、ト ラックでナパまで運ぶのだとか。もうひとつはホワイト・ホーク・ヴィンヤードというブドウ園だ。ここの畑のブドウは大手の例えばメリディアンなどのワイン にブレンドされている。
まだ収穫中で、明日摘む予定だというシラーのブドウ粒を噛んでみた。ナパのブドウと比べると甘さが感じられない。糖度は24度ブリックスというから十分に 上がっている。甘さが感じられない理由は酸が多く含まれているからだ。低地が沖積土である以外は、この辺り一帯が砂地なので驚いた。海底の断層が隆起して 出来上がった土地なので火山性の土壌はないのだ。ビーチみたいですねと思わず言ってしまった。やせた土がブドウ栽培には適しているとはいっても、これだと あまりにも水はけが良すぎて栄養分も足りないだろうと心配してしまった。
主にシラー(65%)そしてシャルドネ、ピノ・ノワール、少しのヴィオニエを植えていたけれど、おりからのピノ・ノワールブームで、ピノ・ノワールに変えている。今はピノ・ノワールとシャルドネがほぼ同じ率で、シラーは20%、ヴィオニエが15%だという。
この土地を買ったときには砂丘で地にへばりつくような草が生えているだけだった。この地はドリップイリゲーションがなければ、何も栽培できない。ドリップ イリゲーションはイスラエルの砂漠での農産物栽培のために発明されたもので、1959年にキブツで使用し成功したもの。農業界にとってはノーベル賞ものだ と、サンタ・バーバラ・カウンティへ来てつくづく思う。

サンタリタ・ヒルズはとても涼しいとステフェンが説明してくれる。サンタ・ヒルの生育期間は30-40日。涼しくて 長い生長期間。発芽は早く2月。ロシアン・リヴァーやアンダーソン・ヴァレーは3月か4月に発芽。オレゴンは5月。11月までワイン造りが続く。シラーは サンタ・リタ・ヒルズの場合、11月に摘む。12月にはいるときもある。サンタ・マリア・ヴァレーよりも涼しい。外に出て道路を越えた向こう側にある山を ステフェンが指差した。木々が左に傾いている。東に傾いているということで、西にある海から吹く風の影響で傾いているのだ。海風を妨げてくれる山がな く、(山の隙間を通過して)直接海風が入ってくる。風がブドウの生長をゆっくりにする。涼しいけれど、太陽は南カリフォルニアの日差しなのだ。ブドウはよ く熟するけれど、酸がキープされる。南カリフォルニアの暑い日ざしを受けながら、海からの涼しい風を直接的に受ける。ユニークな栽培条件。沿岸沿いの小高 い山が北カリフォルニアのワイン産地のように南北に走らず、東西に横たわっているので、西側から吹く太平洋の風が直接吹き込む。その風の強さは日中の気温 が高ければ高いほど強くなる。ワイナリーへ来てくださるといっていたロンがなかなかやってこない。隣のワイナリー、フォリーのブドウ樹が昨夜、霜にやられ たので、その被害を見に寄ってきたので遅くなったとのことだった。
「霜は春先に降るものではないのですか?」聞き違ったと思った。
「春に霜が降ります。秋に霜が降ることはめったにないのですが、土曜日に降りたのです」
その理由は、インディアンサマーで日中の気温が38℃まで上がった。科学で習ったけれど暖かい空気は上昇する。空気が上昇すると真空状態になるので、そこ へ海から冷たい空気が吸い込まれるように入ってくる。その空気を遮る山がないから、途中で暖まることなく。この地区へ入ってくるから気温がマイナス3℃ま で下がって霜が降りたのだった。まだピノ・ノワールの房が付いている状態で収穫が終わってないのだから、気の毒なことだ。
地球温暖化現象がサンタ・リタ・ヒルズに与える影響について、ロンが面白い見解を話してくれた。この地区の東(内陸)はベーカーズフィールドは、夏の日中 の気温が38℃を超えるようなるかもしれない。海の温度も11℃から14℃に上昇することが考えられる。でもこの程度の海水の温度の上昇ではサンタ・リ タ・ヒルズは影響を受けない。ただ考えられるのは、内陸の気温が上昇すると、暖かい空気が上昇して、冷たい空気が吸い込まれてくるから、より強い風となっ てサンタ・リタ・ヒルズに吹き込み、逆に気温が下がるのではないかというもの。

ワイナリーがあるサンタ・リタ・ヒルズのブドウ畑(エステート)には、ピノ・ノワールが70%、シャルドネが25%、シラーが5%の割合で植えてある。

ピノ・ノワールのスタイルにからむ酸の話:
ナパ・ヴァレーのカリストーガで例えば糖度23.5度ブリックスでブドウを摘むとPHは3.8、メルヴィルだと23.5度ブリックスのブドウのPHは 3.05.この数字で摘んだピノ・ノワールは例えば軽いタイプのリヴァー・ベンチのピノ・ノワールのスタイル。メルヴィルはもう少しコクのあるタイプを目 指しているので、PHが3.30,3.32,3.35になるまで待ってから、理想的なバランスだと思ったときに摘んでいるとのことだった。

比較試飲。
2つの畑の個性が明確に出ている。畑の個性を生かしたワイン造りをモットーとしていることが比較試飲をするととてもよく理解できる。

★2007年Estate Chardonnay Virna’s(エステート・シャルドネ、ヴアーナス) $24
ロス・アラモスにある自社畑のブドウを100%使用。クローン76,95,96.マロラクティック発酵は約10%。
フルーティ(黄色のスモモ)と花崗岩。穏やかな酸味。

★2007年 Estate Chardonnay Santa Rita Hills (エステート・シャルドネ・サンタ・リタ・ヒルズ)$30
4,76,95、ウエンテ・クローン。全房を圧搾。樽発酵(4%新フレンチオーク樽)、マロラクティック発酵は約15%。
凛としたシトラス系(特にレモン、ライム、ゆず、)の香りと酸味が個性的。

★2007年 Estate Pinot Noir Verna’s(エステート・ピノ・ノワール、ヴァーナス)$26
クローンは2A,667,777,メリー・エドワード。67%のブドウは除梗、33%は全房。開放発酵タンクで発酵。サンタ・リタ・ヒルズと同じ醸造法。フレンチオーク(新樽18%)
アジアのスパイス。紅茶、土の香り。ソフトな口当たりの優しいワイン。

★2007 Estate Pinot Noir Santa Rita Hills (エステート・ピノ・ノワール サンタ・リタ・ヒルズ)$32
14のピノ・ノワール・クローン選択、67%のブドウは除梗、33%は全房で開放発酵タンクで発酵。スキンと梗のコンタクトは平均30日(7日間のコール ドソーク、2週間の発酵、1週間エクステンデッド・マゼレーション)圧搾しフレンチオーク樽(16%新樽)で亜硫酸ガスは注入せずに4月まで熟成。7月に 瓶詰め
赤系フルーツ、ラズベリー、ルバーブ、酸味のあるすもも、フィニッシュはフルーツの甘味が長く美味しい。

★2006 Estate Syrah? Verna (エステート・シラー、ヴァーナ)$24
ロス・アラモスにある自社畑のブドウ使用。85%のブドウは除梗、15%のブドウは全房のまま、小型の開放発酵タンクで発酵。スキンと梗のコンタクトは平 均30日(7日間のコールドソーク、2週間の発酵、1週間エクステンデッド・マゼレーション)圧搾後、使用10年の樽で亜硫酸ガスは注入せずに5月まで熟 成。8月に瓶詰め。
スモーキー。口当たりがベルベットのように滑らか。白コショウとスパイス。