サンフランシスコのワインバー

Date:2007-09-04

サンフランシスコのワインバー
サンフランシスコのワインバー ワインバーというと、ワインの知識が豊かだと自負しているワイン愛飲家とかワインギーク(お宅?)が、高い点を取ったワインや、有名ワインをあれこれと御託を述べながら飲むというイメージが強かった。だからある程度、懐に余裕がある年齢層が集まる場所という感じだ。
若者はビールやウイスキー、ウオッカやジンベースのカクテルを飲んで、ワンワンとボリュームを上げたミュージックを聴きながら、うまくいけば異性と知り合えるチャンスということでバーへ繰りだしているというのが一般的なパターンだと考えていた。
ところがサンフランシスコではそういう傾向に変化が出てきている。若者が繰り出すワインバー、気軽に友人と待ち合わせてひと時を楽しめるワインバーが、あちこちに出てきているのだ。ワインは難しい飲み物、厄介な飲み物という意識がなくなって気軽に楽しく飲むものという感覚が若い人たちの間に広まっている。  サンフランシスコはこじんまりとした都市だけど、特色が違ういろんな地区がある。その地区によって、住人たちのニーズに合わせてそれぞれが特色を持ったワインバーをオープンしている。 
バイオダイナミクスやオーガニックを主に出している小さなワインバー、本格的な料理と高級ワインを出すバーとして知られていてワインギークが出入りするバー、出入りしていることを人に見られることでワインシーンのトップを行っているというプライドを持たせてくれる高級ワインバーとか、多様だ。
サンフランシスコという町のワイン消費者のワインセンスが成熟したということが、こういう様々なポリシーを持つワインバーが登場した要素になっているのだろう。
若者と一緒に3つのワインバーを回ることにした。さしあたり私が好きなストリート、チェスナッツ通り近辺にある二つのワインバーと、マーケット通りと交差する小さなストリートにひっそりとオープンしているワインバーを選んで行ってみた

ネクター・ワイン・ラウンジ(Nectar Wine Lounge)
真っ白な壁にモダンな絵が飾られている現代風のワインバー。カウンターに加えて座り心地がよさそうな椅子とテーブルがあって、ラウンジというだけにきちんと座って落ち着いてワインを楽しめる。ワインカフェっていう感じかな。スタイリッシュでおしゃれな女性同士や若いカップルが多い。デザイナージーンズにハイヒール、きれいに手入れをした長い髪を肩まで垂らしているというタイプの女性が目立つ。
土曜日の6時、外はまだ明るい時刻に、もう満員。ここはマリーナ地区なので高給取りのちょっとスノブな女性が多いのだとか。ワインメニューにクラシックにフライトが4種類載っている。興味を引く例えばBad- assed red flightとか Anything but chard flightというようなネーミングをしているところも典型的なモダンなワインバーだ。
フライトは3種類のワインがセットで13-15ドルと手ごろ。テイスト用、グラス、ボトル、小売価格(買って帰る人用)の価格がグラスワインのメニューに載っている。店でボトルを飲むと小売価格のほぼ倍の値段。グラスワインもそれほど高くない。ボトルで買っても高くて30ドル40ドルくらいでそれ以上の高いワインはグラス売りのメニューには載っていなかった。
フライトに選ばれているワインはきれいに造られていて飲みやすかった。軽い食事にもなる食べ物がメニューに載っている。グラスワインリストに載っているワインの数は多いのに、カリフォルニアワインがほとんど載っていない。そのわけを訊ねたら「世界のいろんなワインを知ってもらいたいから」という返事。カリフォルニアワインはボトルで買うリストに高いものも含めてたくさん載っていた。

カリフォルニア・ワイン・マーチャント(California Wine Merchant)
すごく混んでいて、ワインバーの入り口やカウンターとワインが展示されている壁の間にお客さんが立っているのを見て、まず驚いた「えっ、ここってホントにワインバー?」
人を掻き分けて中へ入ると、壁にディスプレイされているワインのなかに、セバスチャーニとかキャッスルロックという手ごろな価格で品質がいいという評価を受けているワインがずらりと並んでいる。ワインギークが集まるワインバーしか、このときはまだ頭になかったから、思わず気持ちが引けてしまった。
ラッキーにもカウンターの椅子が空いたのでまず座って、辺りを落ち着いて見回す。室内の奥のほうに本格的なワインがきちんと並んでいて、ここではギーク風の30ー40代の客がワインを買うために真剣な表情でラベルとメモを見比べている。おなじみの光景だ。
ワインバーのネーミングどおりカリフォルニアワインだけを扱っている店が、若者でびっしり。その熱気に感激してしまった。ヒップなロックが大きなボリュームでがんがん流れている。連れの若者いわく20代の若者が集まるバーで流されるハイビートのロック&ヒップホップのミュージックだとのこと。こういう感じのミュージックが好きな私は、「ワインを飲みながらこういう感じの曲が聴けるわけ!」ってんで、すっかり嬉しくなってしまった。「ハードリカーやビールを出している若者が集まるカジュアルなバー風のワインバーだね」というのが若者の感想。バーだから食べ物はオリーブとパンとチーズの盛り合わせ程度。でもチーズはなかなか美味しかった。
隣の椅子に座っていた30代のカップルはフィラデルフィアから来たそうで、楽しそうなので入ってみたと嬉しそう。40代初めのご夫妻は久しぶりに二人だけで出かける機会なんで、まずここでワインを飲んでからディナーに行くという。「ここのスタッフはワインの知識が豊富でとても親切。それにここのエネルギッシュな雰囲気が好きだから」と奥様のほうが説明してくれた。二人でディナーの前によく来るとのこと。おめかしをした女性二人はこの近所に住んでいるとのこと。この日はフリッツのワインがスペシャルと書いてあって、二人でボトルをオーダーして、チーズをつまみに飲んでいた。「カリフォルニアワインのいいのが置いてあるから」と常連の二人の弁。
朝の10時から翌朝の2時までオープン。日中はワインショップ、夜になるとワインバーになるのだ。オーナーは21歳からこの店を持っていて、3年前からワインバーをオープンしたという。カウンターにいるバーテンダー(ソムリエ?)のザックに「すごく混んでいるわね」といったら、「今日はスローだよ」と言う。「メモをいとっているのが気に入った。一緒に写真を取ろうよ」というので、オーケー。近所からやってきている常連女性二人の表情がちょっと険しくなった。二人のテリトリーを荒らしたらしい。一緒に行った若者も、結構、にらみつけられたって後から言っていた(笑)。
ワイングラスは中途半端な小さなグラスではなく、品種にあわせてきちんとしたグラスで出しているところが、カジュアルなワインバーではあっても、ワインサービスではプロフェッショナルな店だ。
ラスト・コールという項があって、白6種類、赤5種類が載っていて、「これらのボトルは1本だけオープンします」とある。こういったプロモーションも常連にとっては楽しいのだろう。どのワインも1グラスの価格とテイスト用の価格が載っている。コペインの2006年ピノ・ノワール、ロタンヌ、アンダーソンヴァレー(L'automne by Copain)が美味しかった。ドゥモール(Dumol)のピノ・ノワールも(グラスで$25、テイスティング用で$12)で載っていた。1本買うのはちょっと高いしねというときに、テイスティングするのにも使えるワインバーだ。
お客さんは男女半々ぐらいの割合。ワインについて語りながら静かに語ろうとか、ワインの評価分析をしようという人には賑やか過ぎるかもしれない。でももう少し早い時間なら空いているかも。ウイスキーやビールを飲むのと、あまり変わらない感覚でワインを飲んで、がんがんとかかっているミュージックを心地よいと感じながら、混み合った室内の熱気をいい感じと楽しんで過ごす人たちのワインバーだ。これといった特別のインテリアもない小さなワインショップをワインバーにしただけという感じの内装。それでいてこれだけの客が集まるのだから、時期が熟していたのだ。グッドアイデア!グッドタイミング!

*熱気と若々しいエネルギーにさよならして外に出る。もうひとつレストラン&ワインバーISAというのがすぐ近くにあった。ここも満員。暗い室内に席を待つ長い列。ここもマリーナ地区らしい美しいちょっと取り澄ました若い女性が多かった。マリーナ地区はスノブでトレンディと若者の一人のコメント。なるほどね。

ホテル・バイロン(Hotel Biron)
マーケットストリートと交差する小路にひっそりとたっている。細長い室内は暗く、スペインの地下のバーという雰囲気。これをセクシーな雰囲気と表現する人もいるかもしれない。エキゾチックなムード。ワインバーにしては小さい5,6人しか座れないカウンターはびっしり。
カウンター内に黒いシャツを着た小柄な女性がワインのサービスをしている。壁には筋肉がきれいに描かれた裸体の男性がかがんだり寝そべったりしている絵が何枚も飾ってある。「この絵って、すごくゲイっぽいよね」といったら、連れの若者二人は「言うまでもないでしょ」という感じで笑った。
ワインと食べ物はカウンターへ行ってオーダーするシステム。アメリカ、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガルのワインが、ほぼ同じ数ずつリストアップしてある。その他、ドイツ、オーストリア、ハンガリー、アルゼンチン、チリ、ニュージーランド、南アフリカが数種類ずつメニューに載っている。
夜も更けてくると、ここでもモダンロックががんがんと流された。客層はカジュアルでインテリが多い。気取ったスタイリッシュな女性は少なくて、都会的でありながら地に足が着いているという感じの高給取りの30代、40代の男女が集まってきた。ワインを愛する人たちが気軽に集まって団欒している感じが伝わってくる。食事の前、食事の後にもぴったりのワインバーだ。ここなら一人で来てカウンターに座ってひっそりとワインを楽しめるかもしれない。

今回はたったの3つのワインバーしか訪れていない。でも3つとも、それぞれ個性が違っていて、その時々の気分と仲間によって使い分けして楽しめる。どんなワインがリストされているかだけで選ぶのではなく、どんな風にワインを楽しみたいかで選ぶことが出来るのだ。
ワインを楽しむということに対する感覚が、また一つ増えて嬉しい。ワインバーとワインを見る私の目が少し変わったかもしれない。夜も更けて、程よく酔って、ベトナムで食べたフォー(ベトナムの麺類)を食べようということになった。乗ったタクシーの運転手さんがたまたまベトナム人だったらしく、コロンビア通りとどこかが交錯している箇所に降ろしてくれた。「小さな店が美味しいよ」というのでそこへ行った、真夜中にこういうものが食べられるなんて、サンフランシスコ(都会)はいいよね。ソノマにはないもんね。