No.44 ドナム エステート

No. 44 Date:

Donum Estate

ある日、行きつけのカフェでドナムのオーナーであるお二人が親子でランチをしていた。美しいお二人のことを書いてみたいのですが、と言ったら、「家にい らっしゃいよ、ランチをしましょう」と誘ってくださった。お言葉に甘えて、雨天続きなのに、珍しく快晴になったバレンタインデーの翌日、ご自宅へ伺わせて いただいた。ニソワサラダをアンナが自ら作ってご馳走してくださったので、恐縮。新鮮なツナをたたき風に焼いたのを添えた美味しいランチをいただきなが ら、話が尽きない。ワインの話をするのに来たのだけれど、外国人として同じころにこの土地へやってきた者同士、それからカリフォルニア人でもなくドイツ人 でもない文化がミックスした環境で育った娘のこと。アンナも私もどの国にも属さない孤独感、根無し草の気持ちを持って暮らしているという共感等々、話が尽 きない。
ドイツのワイン社ラッケがブエナビスタとヘイウッド・ワイナリーを買収。アンナが社長婦人としてソノマにやってきたのは1981年9月。素敵な若いカップ ルだった。マーカス・モレー・ラッケ氏とアンナの一人娘であるドロシーは1歳半。そのころ初めて取材でお会いした。カジュアルでフレンドリー、小柄で美し い女性だった。社長婦人でありながら、ブドウ栽培を担当すると話していた。その言葉通り、現在では優秀なブドウ栽培家として名を知られている。その後、 ラッケはブエナビスとヘイウッドを手放した。カップルは離婚。ご主人はドイツへ、彼女はソノマに残り、最近までブエナビスタのブドウ栽培管理者として栽培 にかかわってきた。
ドロシーいわく、離婚はしても両親はとても良い友人なのだと言う。元夫が小さなワイナリーを持ちたい、その管理経営をアンナに依頼してきた。それがドナ ム・エステート。その後にロバート・ステムラー(Robert Stemmler)も加えた。ドナムは生産量が5000ケースほどの小さなワイナリーでカーネロスを拠点にピノ・ノワールとシャルドネを生産。建築関係の インテリアデザインを学び、アーティストを目指していたドロシーをパートナーにした。ドロシーはまだドイツ人としてカリフォルニアにグリーンカードで住ん でいる。ドイツに祖父母や従兄弟がいるからその家族から離れたくないと言う。ドイツとカリフォルニアを行ったり来たりしながら育ったドロシーはヨーロッパ 流のエレガントさと、屈託のないカリフォルニアの若い女性とを併せ持つチャーミングな女性だ。もっと若いときはドイツ人としてドイツに住むことを考えたけ れど、今は暮らしの質、仕事のチャンスという点からカリフォルニアに住むことに決めた。
最近、ブルーファーム(Blue Farm)というラベルを加えた。これは母親と娘のプロジェクトだ。ブルーファームのブドウ畑は1880年代に建てられた古い大きなブルー色のアンナの家 の裏にある。ディジョン115、667,777、スワンクローンを選んで植えた。自分の畑の土壌、栽培条件をよく把握してこのクローンを選んでいる。畑の 畝はクローンごとに分けているけれど、同じ畑に3つのクローンを植えて、それをブレンドしたワインを造るのが理想的だと話す。
カリフォルニアのブドウ栽培は次のステップを踏み出したと話す。別々の畑で栽培された4つのクローンのブドウをブレンドしてワインにするのではなくて、ひ とつの畑に畝別に植えて、それをブレンドするほうがいい。時には一緒に収穫して一緒に発酵することもある。スワンクローンと667はほぼ同じころに熟す る。777は一番遅くに熟する。115はデリケートで一番早くに熟すると言う。将来はこういう一種のフィールドブレンドがメジャーになるだろうと彼女は予 告する。カリフォルニアの栽培家たちは畑の特質、栽培条件を十分に知るだけの経験を積んだからだ。彼女もその一人だと話す。その畑の個性、歴史、ストー リーを理解する。その知識と経験に基づいて、どういうワインになるかイメージが浮かぶ。そのイメージを元に、アンナはこのクローンを植えている。
ワインはブドウ畑で造られると醸造家がいう。それは栽培家がその畑の栽培条件、その年に与えられた天候の下で、ベストのブドウを育てるということだ。さら に剪定、摘葉、キャナピーマネージメント、潅水(カリフォルニアは潅水の量をコントロールできる)と栽培家の影響が強い。それを醸造家がワインにしてい く。
アンナは栽培家には向いているけれど、セールスはあまり向いていないと思っている。娘のドロシーにその才能があるので、いいチームだわと嬉しそう。ドロ シーはいろんな人に会えるし、毎日、違うスケジュールでエキサイティングとにっこり。アンナはドロシーにこの仕事をするべきと、押し付けたことはない。4 年間、ドロシーはドナム・エステートのマーケティング・マネージャーの部下として働いた。今も、ミーティングは3人でビジネスとして話す。そう言った後、 二人でにっこり。
2007年シャルドネ、ウエンテ・クローン
マロラクティック発酵していないから残っているパリッとした酸がいい。フルーティで重たさがないタイプのシャルドネ。
2006年ピノ・ノワール、カーネロス
カーネロス地区のピノ・ノワールの特色である黒チェリーの香りと味。くっきりとした酸が感じられる。
2007年ピノ・ノワール カーネロス
来年の夏にリリース。まだ若くて閉じている。カーネロスのピノのチェリーの特色もまだ出ていない。まろやかな口当たり。
◎2007年ピノ・ノワール West Slope
カーネロスの自社畑の一画のピノのみを使ってある。ブルゴーニュを思わせる少しの臭み。質の良い酸。まだ若いけれど、可能性を感じるピノ・ノワール。
2007年ピノ・ノワール、ロシアン・リヴァー・ヴァレー
まだ若く、とじている。しっかりしたタイプのピノ・ノワール。
◎2008年ピノ・ノワール、Thomas樽からのサンプル
単一畑。上記のどのピノとも違う個性を持っている。畑はカーネロスにある。ブラックチェリーではなくて、ラズベリー、クランベリーの香りが特色。エレガントなタイプのピノになりそうで、期待したい。
◎2004年ロバート・ステムァー、シャルドネ
程よく熟成していて食べ物にもマッチ。オーク香も味も強くないので驚いた。
◎2007年ブルーファーム、ピノ・ノワール
250ケースを生産。アロマにも味わいにも過熟味がなく、力んだところがない。エレガント。飽きずに食べ物と一緒に楽しめる。サンフランシスコの「マイケル・ミーナ」や「ゲリー・ダンコ」などの有名レストランが、このワインをリストに載せている。
2009年は生産量を900ケースに増加。自宅の裏にある畑、アンナ・カタリナ・ヴィンヤードに加えて、他の畑のブドウを使って、将来的にはシャルドネも 生産する。5年後には2000ケースくらいの生産量にするのがゴール。「いつか、テイスティングルームも持ちたいわ」とドロシー。
「いつになるかしらね」母親らしい笑顔でアンナが答える。
「夢を持たないとその夢を追いかけて可能にすることが出来ないのだから、夢を持つのは良いことよ」と私。アンナが「そうね」とにっこり。
庭に植えられたたくさんのバラがきれいに剪定されている。
「花が咲いたらとってもきれいでしょうね」
「とってもきれいだから、この次は母の日に娘さんと一緒にいらっしゃいよ」と美しい笑顔で送ってくれた。