No.28 カーネロス地区再訪

No. 28 Date:2007-05-07

カーネロス地区再訪
3月中旬、まるで初夏のような天気が3日ほど続いていた。霧の街、サンフランシスコから遊びに来ていた娘は、この天気に感激している。それを見て、家で過ごすより、春真っ盛りの美しいワインカントリーを彼女と一緒に楽しむのがいいかも。それに絶好のピクニック日和だ。カーネロス地区をピクニックがてらに訪れてみようと提案したら、娘は即、大賛成。ワインカントリーはどこも美しい。柔らかな緑色のブドウ畑に覆われたなだらかな丘陵地が続くこの地区の春の景色は息を呑むほどに美しかった。
茶色の枝に10cmほどに伸びたシャルドネの芽が点々と続き、手入れの行き届いたブドウ畑に何十、何百というまっすぐな線となって丘のうねりに沿って伸びている。丘の上にあるブドウ畑からはるかかなたに薄い水色の湾が光っている。「あまりにきれいでなんだか本物って信じられないほどね!」と娘がつぶやく。「ピクニックに来て正解!」と私が叫ぶ。

1980年代に、ブドウ栽培には霧がかかって涼しすぎるし、土質も痩せすぎていると敬遠されていたこの地区に若手の醸造家たちが進出して、シャルドネとピノ・ノワールを栽培、当時としては斬新な今までに存在しなかったピノ・ノワールとシャルドネが造られて、一躍脚光を浴びた。 クローン選択の実験が行なわれたりと醸造家と栽培農家たちの活躍が見られたのもこの地区だった。1986年に行った調査で、この地区のピノ・ノワールにはフレッシュベリー、チェリー、ベリージャム、スパイスが共通して見られるという結果が出ている。さらにシャルドネの調査も行われ、この地区のシャルドネはかんきつ類、マスカット、リンゴと梨の香りと味わいを特色としている。 この地区の可能性と将来性を見た大手のワイナリーが、ブドウ畑の開発を活発に行った。その例の一つがロバート・モンダヴィで今はコンステレーションに買収されてしまったけれど、広大なブドウ畑を開発し最新栽培技術を駆使してピノ・ノワールを栽培し、生産していた。他にもクロ・ドゥ・ヴァル、ボーリュー、キュヴェソン、パイン・リッジ、ヘイヴンズ、クロ・ペガス、シェイファー等、この地区にワイナリーはないけれど、ブドウ畑は所有しているというワイナリーが多い。 この地区はシャルドネ、ピノ・ノワールの生産と栽培で知られたのだが、その後、メルロー(比較的温暖な一画)、そして涼しい地区のシラーが栽培され、良質なシラーが生まれている。

* 20年前に新しいホットな地区として注目を浴びたのだが、その後、サンタ・バーバラ、ロシアン・リヴァー、ヴァレー、ソノマ・コーストと新しい地区のピノ・ノワールが関心を集め、カーネロス地区の名前は定着しているものの、あまり耳にしなくなった。その理由の一つにパーカー好みのワインがあまり生産されていなかったこともあるのかもしれない。パーカーが好むピノ・ノワールはアルコール度が高く、やや過熟気味のブドウの味がする、凝縮度抜群の濃厚なタイプのピノ・ノワールで、どちらかというと、シラーに近いタイプのピノ・ノワールが高得点を取っている(と、私には思える)。そういう風にみると、この地区のピノ・ノワールは凝縮度に欠けているということになるのだろう。しかし全てのピノ・ノワールが高い凝縮度を持っていなければ高級ではないということにはならない。

今回、ピクニックがてらにこの地区を訪れてみて、どのブドウ畑の手入れも行き届いていること、ワイナリーの方針に変化が見られることに気が付いた。それからオーキー、バタリーなシャルドネ造りから、この地区のフルーツの特色とそのブドウが持つエレガントさを強調したワイン造りに方向を変えているワイナリーに出会えたことも収穫だった。
今までのカーネロス地区全体を強調したワイン造り、カーネロス地区の様々なブドウ栽培農家が栽培したブドウを使ったワイン造りから単一畑、エステート(自社畑のブドウを使う)ワイン造りへと方針を変えていっているワイナリーが出てきているということも新しい動きの一つとみた。もっとも、地区のブドウをブレンドしたワイン生産から優秀な個性的なブドウが生まれるブドウ畑、ワイナリーが栽培をコントロールできる自社畑のブドウを使ったワインを造るという方針への転換は、地区を熟知することによる自然な展開でもある。 どの季節に訪れてもとにかく美しい地区だ。

ブシェイン(Bouchaine)
1981年からシャトー・ブシェインとしてエレガントなシャルドネとピノ・ノワールを造っていたのを記憶している。その後、名前をあまり聞かなくなった。ワインの個性と質が時流にワンステップほど遅れたのかもしれない。1993年に共同所有者だったコプランド夫妻が買い取り、シャトーを取り除いてブシェインとし、資本を投入してモダンなワイナリーに改築、ブドウ畑も買い足していった。2002年に現醸造責任者兼マネージャーのマイケル・リッチモンド氏(1979年、アケイシア・ワイナリー設立者の一人)を採用、新チームがエネルギッシュにワイナリーのイメージ、スタイル、品質改良を進めている。この地区の特色を生かしたワイン造り、エレガントなワインを目指していることがワインを飲んでみると明らか。
さらに自社畑のブドウを使ったワイン造りに方向を転換している。マーケティングとしてユニークだと思ったのは、多くの限定生産のワインが造られていて、ワインクラブのメンバーだけが入手可能というマーケティングだ。生産量の15%*を占めているという。

2005年ピノ・グリ
きれいなフルーツと酒かすの香り。バタリー。口当たりから一瞬シャルドネかと思ったが、バニラやオークの味と香りがない。フィニッシュは心地よい酸味が長く続く。こういうタイプのピノ・グリは初めて飲んだ。全房を軽く圧搾して取った果汁を使い込んだオークの樽で発酵し、マロラクティック発酵が100%という造り方がユニーク。イタリア生ハムにぴったり。メンバーとテイスティングルーム訪問者だけが入手可能。$25

○2005年シャルドネ Chene d'Argent
オークは使われていない。きれいで上品なシャルドネ。フィニッシュが少し甘い。クラブのメンバーとテイスティングルームでのみ入手可能。 グッド バリュー。$19

2004年シャルドネ Bouchaine Estate
エレガントできれいなフルーツの香り。樽発酵。新オークが25%。凝縮味に少し欠けるけれど、軽やかで料理に合わせやすいタイプのシャルドネ。$30

2005年ピノ・ムニエ
ルビー色。赤い花の香り。エレガントで軽やか美味しい酸味の長いフィニッシュ。とても面白いワイン。これも残念ながらメンバーとテイスティングルームだけで入手可能。$25

2005年ピノ・ノワール Mariafeld
Mariafeld というスイスのクローンから造ったピノ・ノワール。スパイス。ピノ・ノワールにしては香りからパワーと深みが感じられる。口に含むとふわふわと膨らみ、ふくよかでライプ。酸も十分。フィニッシュも美味しいふわふわが続く。もちろんこのワインもクラブメンバーとテイスティングルームでのみ入手可能。$28

2005年ピノ・ノワール
チェリーキャンディ、クランベリーの香り。口当たりが滑らかで軽やか。自社畑とカーネロス地区のブドウをブレンド。$30

2005年ピノ・ノワール Estate
色は程よく濃い。チェリーキャンディとラズベリーのきれいな香り。程よい凝縮度、フルーツがワインの核になっている。酸も十分。上品。若いのでまだフィニッシュは十分に出来上がっていないけれど、美味しくてとてもよく出来た、先が楽しみなピノ・ノワール。シラーに近いタイプではなく、エレガントタイプのピノ・ノワールを目指しているのだろう。醸造家はその真ん中を目指してると答えてくれた。$40

アーティサ(Artesa)
コードニュ・ナパ(親会社はスペインのコードニュ)が1991年にスパークリングワイン生産用にモダンなワイナリーを建てた。丘の上立つ建物は地下に埋もれて、外観は道路からは見えない。曲がりくねった道を頂上に向かって車を走らせる。駐車場から一段上にある階段をさらに上へと上って行く。この階段の両側は水がさらさら流れ落ちている溝?がある。階段を登りきると静かで物音一つしない前庭に出る。またしてもワイナリーのガラスのドアしか見えず、そのドアに続く道の両側に平たい四角い池があって、噴水が心地の良い音を立てている。四角い池の中にモダンアート的な彫刻が立っている。ここから下を眺めると雄大なブドウ畑が幾重にも上下して丘陵地を蔽っている。ドアを押して中へ入ると、現代美術館を彷彿とさせる。テイスティングルームの大きなガラスのドアを押してテラスに出でると、ここからもはるかかなたまで続く丘を蔽うブドウ畑が下方に広がる。このテラスから見る夕焼けは素晴らしい。ここでスパークリングワインが生産されていたのが、1999年からピノ・ノワールの生産に切り替わっている。
27号に報告した小規模、中規模の2007年のホットなブランドトップ10に選ばれていたように、現在はスパークリングワインのほかにピノ・ノワール、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーと多種のワインを生産するワイナリーに方向転換している。アレクサンダー・ヴァレーに450エーカーという広大なブドウ畑を購入、年間生産量が10万から15万ケースのワイナリーに方向転換し成功している。 今回は、カーネロス地区のブドウを使ったワインだけをテイスティングさせていただいた。(今考えると、なぜ、そうしたのだろうかと、自分にクエスチョン!)

2005年アルバリニョ(カーネロス)
私が好きなスペインの白ワインの品種なので、カーネロス地区のだと、どんな味になるのかなと楽しみにテイスティングをした。オーク樽は使っていない。酒かすの香りがする。ライムとかキーウイー、桃といったフルーツの味わいがあり、この土地らしい白ワイン。$18

2005年ピノ・ブラン(カーネロス)
リンゴの花の香り。ハニーの香りと味。フルーティな甘味と酸味のフィニッシュ。カリフォルニアタイプのフルーティでよく出来た白ワイン。テイスティングルームでしか売っていない。$18

2005年シャルドネ(カーネロス)
カーネロス地区のシャルドネの特色である、青リンゴの香りがいい。マロラクティック発酵は50%、フレンチオークの新樽は使わず、樽による熟成も8ヶ月とやや短くしている。そのせいでカリフォルニアのシャルドネの一般的な特色とされているオークの味と香りが控えめで、美味しい酸の味が印象的な楽しく飲めるシャルドネ。$20

2005年リザーヴ・エステート、シャルドネ(カーネロス)
レモン、桃、リンゴにハニーと火打石の香りと味わい。口当たりがオイリーでとろみを感じる。酸味と甘みの長いフィニッシュ。$26 2005年リミテッド・リリース、シャルドネ(カーネロス) リンゴ、メロン、バニラの香りと味ワインに、一般的なカリフォルニアスタイルとされるシャルドネが持つオークの香りと味に少しの苦味が加わる。100%のマロラクティック発酵、12ヶ月の樽熟成。$35

2005年ピノ・ノワール(カーネロス)
色は薄め。チェリーキャンディ、なめし皮、ラズベリーの香りと味わい。フルーティで程よい甘味。軽やかなピノ・ノワール。$25 2005年リザーヴ・エステーと、ピノ・ノワール(カーネロス) ラズベリー、チェリー、スパイス。しなやかで数層になった香りと味わいが続く。前者のピノ・ノワールよりは凝縮度があるけれど、この価格帯のピノ・ノワールだと、ちょっと軽やかすぎかな?$40

マホーニー(Mahoney Vineyards)
マホーニー氏はカーネロス地区に適したクローン当の研究実験を行った先駆者だが、仕事量を減らすことにしたということで、テイスティングに立ち寄った週が、マホーニーのワインだけをテイスティングできる最後になるということだった。 確実に世代交代が始まっていることをここでも再認識。今後はマイケル・モンダヴィが造る6つのラベルのワインが試飲できるテイスティングルームになる。

2006年ヴェルメンティーノ Vermentino
青いリンゴの香り。口に含むと青いリンゴと凛とした酸味が心地よい。イタリアのブドウ品種。$14 グッドバリュー。

2005年シャルドネ Gavin Vineyard
火打石の香り。滑らかな口当たり。十分な酸味。今風なシャルドネとは少し違っている。使いこなした樽で熟成せてある。マロラクティック発酵はしていない。カリフォルニアのシャルドネのスタイルの振り子が戻り始めているのだろう。オークの樽の香りと味が利いたバタリーでトロピカルフルーツの香りと味わいがするスタイルから、樽を抑制した酸味がきちんとあるスタイルに変り始めている。$20

2004年ピノ・ノワール Mahoney Ranch
ダークチェリー。塩っぽいのが面白い。ピノ・ノワールとしてはボディが十分でパワーさえ感じられる。酸味もきちんとしている。$36