Trefethen Family Vineyards
数十年ぶりにトレフェセンを訪れた。知人のワインライターがリースリングの対談を企画していたときに、醸造責任者のズィーク(Zeke)が出席していた。対談後のディナーでご一緒したときに、
「トレフェセンには昔よく行ったのよ」とズィークに言ったら、「どこが変わったか来てみれば?」と誘われて出かけた。
トレフェセンは南北に走るナパ・ヴァレーのちょうど真ん中辺り、2004年4月に認定されたAVA、オークノル(Oak Knoll)にある。 カーネロス地区の北に位置しているので、例えば、オークヴィルとかルサフォードに比べると涼しい。様々な品種が栽培されているのが特色で、ピノとかリースリングも栽培されている。主な栽培品種はメルロー、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン。
門を通過。懐かしい!手入れの行き届いた広大なブドウ畑がワイナリーを囲んでいる。ワイナリーに続くスズカケの並木道が美しい。しっとりとした緑に心が癒される。
落ち着いた雰囲気のがっしりとしたワイナリーの正面に着く。この建物は1886年にワイナリーとして建てられたもので、電気がなかった当時は馬がウインチを引いて摘んだブドウを3階まであげて、破砕し、果汁は重力で2階まで移動させて発酵。1階で熟成させた。2階にその当時の器具の一部が展示されているので、歴史が好きな方は興味があるかも。
この建物をきちんと維持していて、変えたのは土のままだった1階の床をコンクリートにしただけという。 2階の木の床はがっしりとしていて、歩いても揺れたりしない。細部に工夫が行き届いていて、洗浄した水が端に流れていくように部屋の両端が心持低く傾斜している。
1988年にナパで唯一の19世紀の木造建て、重力を使ったワイン生産ワイナリーとして内務省によって歴史的な建物として登録された。豪華なシャトー風のワイナリーが建てられていくナパで、オリジナルの建物を保持しているワイナリーの所有者に敬意を表したい。
広大なブドウ畑にはシャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、リースリング、ピノ・ノワール、カベルネ・フラン、マルベック、プティ・ヴェルド、ヴィオニエと多様な品種が植えられている。畑の位置がナパの中では比較的涼しい土地だから、シャルドネやリースリングなんかも栽培可能。
総収穫量の40%は他のワイナリーに売っている。
これだけの自社畑があるのだからここで造るワインはすべて自社畑のブドウを使っている。年間生産量は4万から6万ケース。
ズィークは2008年からこのワイナリーへやってきた。
「ラッキーだったのは、このワイナリーのスタイルが好きだったこと。だからそのスタイルをキープしてる。でも醸造法といつブドウを摘むかっていうことについては、実験をしてるけどね。」とにっこり。
「どのワインを造るのが一番楽しい?」
「リースリング!」即、答えが返ってきた。
「ピノは扱いにくいよ」と苦笑。
その彼が好きなリースリングから。
2013年Dry Riesling
昔からこのワイナリーでは素晴らしいリースリングを造っていた。その当時(今でも?)リースリングというと甘い白ワインと思う方が多いかった。それでわざ辛口リースリングとラベルにある。
リーチの香りと味、それにきれいな酸味がついてくる。「まだ若いと僕は思う。後5,6年おいてから飲むと、ピーチやネクタリンの味が生まれて来るんだ」とズィーク。2013年は春先が暖かく、発芽が早かったので、収穫までの生育期間が長くて良い年だった。
リースリング独特の香りのひとつに石油(灯油?)を想わせる香りがある。この香りが嫌いな人も少なくない。私はそのワインの個性だと思うので、嫌いということはないのだけれど。ズィークの話によるとドイツの若いリースリングにこの香りが出ると、否定的な評価なのだそうだ。これは太陽が十分に房に当たらなかったせいだろうという。要するに未熟なブドウだとこういう香りがするということのようだ。でも熟成したリースリングにこの香りが出るのはいいことみたいだよ。
9月に発酵して、12月には瓶詰めした。フレッシュさをそのままボトルにキープするためだという。
2012年 Chardonnay
粘土質の畑で栽培されている。きれいなシャルドネ香。クリーミーな口当たり。アルコール度は14%以下。新樽は15-20%ほどしか使っていない。20%はステンレスのタンクで発酵。上品でエレガント。
2012 年Harmony Chardonnay
ケィティの土地(オークだったか胡桃の木だったか忘れたけれど、この木を絶対に切ってはだめというので、木の周りが保護されている一画)と名づけた箇所のブドウから造られたシャルドネで4つのクローンをブレンドしている。上のよりもう少し熟していて、ほんのちょっとオークの香も上より強い。
2012 年Pinot Noir
ラズベリー、イチゴの華やかなきれいな香。ラズベリーの味わいと酸の長いフィニッシュ。いろんなエレメントが独立している感じ。溶け合っていない。まだ若いのだと思う。
2011年 Merlot
涼しい年を感じさせるフェミニンで軽やかなメルロー。少しだけのピーマン香とカシスの香が混じりあっている。長いフィニッシュ。カリフォルニアのメルローのイメージで飲むと、軽いと感じると思う。でもたまにはこういうメルローもいいかな。
2011年 Cabernet Sauvignon
きれいなカシスのアロマ。しなやか、程よいタンニン。美味しい酸。飲んでいて疲れないワイン。癒し系のワイン。
2011年 Dragon Tooth
ボルドーブレンド。マルベックやプティ・ヴェルドなどがブレンドされている。スモーキーでココアパウダーの香。
2009年 Cabernet Sauvignon Magnum
月桂樹の葉の香。涼しい年のワイン。タンニンがまだしっかり。
2007年 Cabernet Sauvignon Reserve
オープンした直後はオークの香りがしたのだけれど、空気に触れていくと、消えて、ナパの暖かい年のカベルネらしい熟した黒系フルーツの香りが立ち上ってきた。
2011年 Cab Cabernet Sauvignon Reserve
2007年と同様に100%新樽で熟成している。でもオークがそれほど強くない。涼しい年のせいだという。ズィークは熟したブドウだとオークの味と香りがより強くワインに反映されてるように思うと言ってた。なるほど、そうかもね。
全体的にボルドー系の品種はナパの典型的な濃厚タイプから少し離れて、涼しい年、例えば11年などは、黒系フルーツがどっさりというよりはしなやかでエレガント、ほんの少しだけハーブの香りがアクセントになっている。
ナパのワインを飲むのなら、濃厚でジューシーなワインが飲みたいという方には、物足りないかも。このワイナリーは自社畑の特徴をよく知っていて、そのブドウにマッチしたスタイルの品質の良いワインを生産し続けている。
飲み手にチャレンジしてくるワインがわくわくして美味しいと感じるときもあるし、ここのワインのようにさらりとエレガントに寄り添ってくれるワインがいいと思うときもある。
トレフェセンのワインは癒し系のワイン。スズカケの並木道通過でまず癒されて、静寂さを漂わせているワイナリーでエレガントでしなやかなワインを飲んで癒されてみるのもいい。