ナチュラル ワインって美味しいの?

今年の4月にドイツのワイン商、マーティンが開催する恒例の ワイン試飲会に参加しました。招待された95のワイナリーのうち(取り扱っているワイナリーはもっとあります)今年は15社のナチュラ ワイン 生産者(1つがオレンジワイン)が参加していました。 15社のナチュラル ワインを試飲して ナチュラル ワインについて考えさせられました。

ナチュラル ワインは新しいトレンド かもしれませんが、 実際はどのようなものなのでしょうか。 そして飲めるものなのでしょうか。ドイツでも聞きましたが、今回訪問したソノマとナパのナチュラルワイン生産者は日本はナチュラルワインの良いマーケットだといってました。特に40代以下、30代、20代の人たちに人気があるということです。

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ナチュラルワインって?
ナチュラル ワインには法的な定義はないんですね。一般的にはセラーで何も加えたり、取り除くことなく造られたワインを指しています。加えられるものとしては、例 えば添加物 として化学物質、 硫黄、 樽の風味、培養酵母 、取り除くものとしてはろ過( 清澄剤―卵白、ベントナイト、アイシングラス)、 といったものがあります。

ナチュラルワインの生産者は、自然に任せることを信条としているので、ブドウやその結果できるワインに何も加えたり取り除いたりしません。

特に亜硫酸塩(SO2)を一切加えないで造られたワインは「nothing in-nothing out(何も入れず、何も出さない?)」、またはファンシーに「zero-zero(ゼロゼロ)」と呼ばれています。


ナチュラルワインは、いかなる種類の殺虫剤や除草剤も使用せずに栽培されたブドウを使います。一般的?なブドウ畑では、両方を組み合わせて使用するか、除草剤だけを使うか、あるいはそのどちらも使わないブドウ畑(オーガニック栽培)もあります。大型のブドウ畑ではブドウ収穫機を使用しますが、手摘みのブドウ畑も少なくありません。ナチュラルワイン用のブドウは、100% 手摘みで収穫されて、除梗をするとしたら、手作業で梗と粒を分離します。

近代的醸造
主流のワイン醸造では添加物が認められています。オーク樽やオークチップを加えて風味を高めることは添加物と見なされます。あるいは砂糖、酵母、亜硫酸塩(SO2)を加えることも添加物と見なされます 。清澄剤は、ワインから不要な物質を取り除くために使用されます。これは悪いことのように聞こえますが、必ずしもそうではありません。主流のワイン醸造家は、ワインを安定させて保存し、消費者のために管理された一貫した製品を造るためにこれらのことを行います。

ナチュラルワイン醸造
自然主義者はブドウが収穫され梗が取り除かれると、あるいは全房のまま、発酵タンクに入れて野生酵母によって発酵させます。ワインに余分なものを加えることになるのでオーク樽で熟成しません。オーク樽を使う場合は中性になった樽を使います。代わりに、アンフォラ(ギリシャやローマの象徴的な、首が細く、取っ手が高い土瓶)の現代版を使う生産者もいます。発酵を助けるために追加の酵母は加えません。ナチュラルワインは、ブドウの皮に生息する野生酵母と、環境に存在するその他の酵母を使用します。

亜硫酸塩(SO2)
ナチュラルワインの醸造者の中には、瓶詰め直前にワインを安定させるために少量の亜硫酸塩を加える人もいます。10~35 ppmであれば、ナチュラルワインの醸造では一般的に許容範囲とされていますが、一切使用しない派と双方で白熱した議論が交わされています。

亜硫酸塩(SO2)はワイン醸造に何世紀にもわたって使用されてきました。亜硫酸塩 (SO2) はワイン醸造の発酵過程で副産物として少量の SO2 が自然に生成されます。通常、その量は 10~20 mg/L です。つまり、亜硫酸塩を添加しなくても、発酵中に酵母が自然に生成するため、すべてのワインに少量の SO2 が存在することになります。(合成することもできます)。

亜硫酸塩 (SO?) がワイン造りに使われる理由がいくつかあります。

抗酸化作用(ワインを腐らせ、風味や色を変える酸化を防ぐのに役立ちます)と抗菌作用(不要なバクテリアや野生酵母の増殖を抑制し、望ましい発酵プロセスがスムーズに進むようにします)、また防腐剤( 熟成プロセスを遅らせ、ワインの鮮度を維持することで、SO? は保存期間を延ばします)として、更に安定化(ワインを安定させ、保管中や輸送中の腐敗のリスクを軽減します)といった役割を果たすからです。

マーティンが試飲会に選んでいた15社のナチュラルワインに、異臭がするワインはありませんでした。

彼は制限された亜硫酸塩を添加することに賛成しています。

「亜硫酸塩添加の放棄は、純粋主義者によってプログラム的に、そしてイデオロギー的に宣言されていますが、不快なネズミの臭い、酢の臭い、ブレタノマイセスの蔓延、生体アミンによる頭痛、さらには過剰なアセトアルデヒドのレベルによる健康リスクなど、悲しい『自然の犠牲者』によって示されているように、意味がありません」と痛烈です。「最少値の最小値、20 mg/lの遊離SO2に制限することは理にかなっています」としています。


イザベル・ レジェロンさんが「ナチュラルワインは純粋に発酵させたブドウジュースです」と述べ、ナチュラルワインメーカーの目標は「ブドウやセラーに存在する自然発生的な微生物がたっぷりと含まれた、生き生きとした飲み物を瓶詰めすること」だと表現しています。なんか、ロマンチックですよね。

イザベル・ レジェロンさんはフランス初の女性マスター ・オブ・ ワインのタイトルを持っています。2012 年に RAW WINE を設立しました。ニューヨーク、ロサンゼルス、モントリオール、トロント、ベルリンで毎年フェアを開催し、パリ、コペンハーゲン、東京でも新たにフェアを開催しています。

ナチュラルワインは「主流のワインと味が似ていますが、より生き生きとしていて、より自然な味がする」と表現されています。「ファンキー、酸味、土っぽい」といった言葉はナチュラルワインに対する賛辞ととらえているようです。

マーティンの試飲会で試飲したナチュラルワインは多少の臭みがあるのもありましたが、全体的に悪くなかったです。飲んでも疲れないのが良かったです。でもワインは一面的でニュアンスがなく、「わあ!こういうんワインなんだ!」って感じさせてくれる個性がなくて、パッションが感じられませんでした。

「エミコは情熱的なワインが好きなんだね。SO2を使ってないワインは多少の臭みがあっても仕方ないかもね。でも僕が選んだナチュラルワインは悪臭がするワインはなかったでしょう。いろんな国のナチュラルワインを飲んで歩いたけど、赤ワインは難しい!飲めないのが結構あったよ」とマーティン。

カリフォルニアの二つのナチュラルワイン生産ワイナリー、Matthiasonと Old Worldを訪ねてみました。

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Matthiason (マサイアソン)
ナパヴァレーのオークヴィル地区にあります。いくつかの「ゼロゼロ」ワインと少量のSO2を添加したワインに加えて樽で熟成したワインを生産しています。オーガニック栽培(自社畑も含めて)のブドウを使って、全て野生酵母で発酵させています。アルコール度が低いワインが生産されています。ワインは爽やかで、食事によく合い、アルコール度数も控えめです。

◆2021Tendu Red Blend (タンデュ・レッド・ブレンド)
「ゼロゼロ」のナチュラルワイン。
バルベーラ、アングリアニコ、モンテプルチャーノ、カリニャン、サンソーのブレンド。ステンレスタンクで全房を野生酵母で発酵させ、仕上げに使用済みの樽で 5 か月間熟成。
淡いルビー色。ラズベリー、くっきりとした鮮やかな酸、旨味。口の中のクールなフィーリングが印象的。エレガントでフレッシュ。少し冷やして楽しむのがいいかも。アルコール度11%

◆2023 Ribolla Gialla (リボッラ・ ジャッラ)Napa Valley Matthiasson Vineyard
北イタリアの古代のスタイルで造られたオレンジワイン。「ゼロゼロ」です。文字通り、薄いオレンジ色。ヘーゼルナッツ、ベーキング スパイスの味わい。テキスチャー。旨味。酸っぱい夏ミカンのフィニッシュ。アルコール度12%

以下のワインは原則的にはナチュラルワインではありません。でも限りなくそれに近いワインたちです。

◆2022 Chardonnay Linda Vista Vineyard Napa Valley
自社 畑のオーガニック栽培したブドウを 自然酵母で発酵。ろ過はしていますが、樽での熟成はしていません。少量の SO2を添加。アルコール度は12.5%。
マイヤーレモン、ゴールデンデリシャスリンゴ、メロンのきれいな香り。すっきりしたフィニッシュ。

◆2023 Rose California
グルナッシュ、ムールヴェードル、クーノワーズ(フランスのローヌのあまり知られていないブドウ)、バルベーラのブレンド。ロゼを造るために栽培し収穫されています。セニエ法(アルコール発酵の途中で、果汁だけを少し抜き取ってロゼを造る)は使っていません。ブドウを房ごと圧搾し、冷たいタンクで24時間静置した後、ステンレスの樽で発酵させて熟成させます。マロラックティック発酵を防ぐためにろ過をして酸味を保っています。ワインを澱引きしたり清澄したり冷蔵安定化したりしていません。アルコール度11.5%
爽やかな酸味。きちんと造られたロゼ。フレッシュで美味しい。食物に良くマッチしそう。

◆2021 Cabernet Sauvignon Napa Valley
ナパヴァレーのオーガニックの畑9の畑のカベルネをブレンド(カベルネ・ソーヴィニヨン 95%、プティ・ヴェルド 3%、メルロー 1%、カベルネ・フラン 1%)。使用済み樽とフレンチオークの新樽( 20% 未満)を組み合わせて 20 カ月熟成。
ダークフルーツ、チェリー、ブラックベリー、クランベリーの香りに加えて、ミネラルやハーブの香り。ピュア―なカベルネの味わい。テキスチャー。ソフトなタンニン。美しい酸味がたっぷり。
アルコール度数が12.5%で、本格的なカベルネ・ソーヴィニヨンを造っているのに驚きました。

◆2021 Cabernet Sauvignon Napa Valley Phoenix Vineyard
フェニックス ・ヴィンヤードは、ワイナリーの上の急斜面にある家族によって 1982 年に植えられました。同家族は愛情を込めてブドウの樹を自分たちで世話してきました。スティーヴ・マサイアソンが引き継いで、有機栽培に転換し、古いブドウ樹の一部が枯れた場所に新しいブドウ樹を植え、堆肥と剪定で古いブドウ樹たちを若返らせることに重点を置きました。
収穫時には、ブドウの樹ごとに選別をして、理想的な熟度のブドウ樹だけを収穫するという細心の注意を払い、数回にわたって摘みました。

2021年はカベルネ・ソーヴィニヨン(81%)をベースに、少量のメルロー(10%)とカベルネ・フラン(9%)を加えました。約20%の新しいフレンチオーク樽、数本の古いフレンチオーク樽、デミミュイ(ローヌ・ヴァレーでよく使われる、容量600リットルのオーク樽を指すフランス語)、熟成と同時に香りを保つために大きなフードル(バローロ・スタイルのワインを保管、熟成、輸送するために使用される大きな木製の樽。ワインのオークの風味の量を制御するために使用。フードルは非常に大きいため、ワインは木とあまり接触せず、本来のフルーティーな香りを保つ)を使用しています。

豊かなレッドチェリーとブラックカラントに、ベイリーフ。口の中で豊かなフルーツが広がる。酸味のバランスがよくソフトなタンニン。すばらしい余韻。深みがあって、エレガント。このカベルネもアルコール度 12.0%で、ほぼ完ぺきなカベルネに仕上げている。丁寧に栽培され収穫されたブドウと醸造の賜物でしょう。素晴らしいワイン。

ナチュラルワインの試飲だけさせていただけたら嬉しいなと思って訪問しました。たまたまオーナー兼醸造家&栽培家(栽培家として良く知られている)の Steve Matthiason(スティーヴ・マサイアソン)がいらして、一緒にテイスティングをして、いろんなお話を聞かせて下さいました。気さくで率直で素敵な方です。

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彼は ナチュラル ワインか、 ナチュラル ワインに 近い造り方をしています。

「なぜナチュラル ワイン生産者と名乗らないのでdすか?」と尋ねたら
「ナチュラルワインに パッションを 持った人たちの中に 神秘的でイデオロギーに凝り固まっている人たちもいるので、 そういう人たちの渦に巻き込まれるのを避けたいから、敢えて、 ナチュラル ワインと呼びません」とのことです。 自分が信じる ワインをヘルシーな 醸造法で造ってるということですね。

「ドイツの マーティンの試飲会で13のナチュラ ワインを飲んだんですが、 あまり パッションを感じませんでした。でカリフォルニアのナチュラルワインを飲んだら パッションを感じるかしらと思って飲んでみました。スティーヴのワインはすごい パッションと言わないけれども、 あー こういう ワインなんだ 、美味しいという風に感激できる要素を持ったワインですね」と話したら、
「ヨーロッパで飲んだワインで、そう感じるのは、多分、お金がない人たちがあまりよくないブドウ畑のあんまり使われてない 安いぶどうから造ってるのが 原因 じゃないかと思う。もともと ナチュラル ワインは、主流のワイン業界に反対するという意識から生まれたものなので、安くて買いやすいワインから造り始めています。 昔のカリフォルニアと同じで、どの畑にどの品種が適しているか、まだ見極めていない。それにどんな品種がナチュラルワイン造りに向いているかという結論がまだ出てないのも関係してるんじゃないか」と話してくれました。

確かに高いワインではありませんでした。30ユーロが一つ、後は12ユーロから20ユーロでした。

「どうして ナチュラルワインを造るようになったんですか ?」

「オーガニックの畑からワインを造るという 哲学 はワインには全然関係ないアレス・ ウォーターズから学びました。彼女は 野菜の素材そのものの大切さを料理に再生しています」

ご存知のように、アリス・ウォーターズは、カリフォルニア州バークレーにあるレストラン「シェ・パニース」の創設者で、多くの人から「カリフォルニア料理」の創始者と考えられています。新鮮な地元産の有機食材のみを使用するという彼女の哲学と持続可能な農業の提唱をして、アメリカで最も影響力のあるシェフの一人となりました。

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Old World Natural Winery (オールド・ワールド・ナチュラル・ワイナリー)
ソノマ・カウンティのロシアン・リヴァー・ヴァレーにあります。1998年からナチュラルワインを造っています。ナチュラルワインの老舗ワイナリーかな?オーナー兼醸造家のDarek Trowbridge (ダレク・トロウブリッジ)はマーティネリ家の一員です。
ハーヴェスト真っ最中にワイナリーを訪れました。数人の女性たちが大型の樽(桶?)に仕込まれたブドウを足でつぶす作業をしていました。

◆2022 Ecstatic Cinsciousness 12.7%
ジンファンデル(40%)、シラー(20%)、メルロー(10%)、アボリウ(10%)120年の歴史を持つフィールドブレンド。アボリウは、主にフランス南西部で栽培され、カリフォルニアでも少量生産される赤ワイン用ブドウ品種。
まさにピュア―な発酵させたブドウジュース。ラズベリーの香り。梅干しの酸味。旨味。

◆2015 Abundance 12%
1890年に醸造家の曽祖父が植えた6品種のフィールドブレンドから生産。ヴィンテージ2015年ということもあるのでしょうが、ポルトガルのマデイラ島で生産される酒精強化ワイン「マデイラ」のような味と香り。酸化。

以下のワインは2015年と古いヴィンテージです。アルコール度は15%と高いので、アルコールの甘さが幾分あるのかなと思ったのですが、甘さは一切なくて、大部分の味はVolatile acid (VA-揮発性酸) の一つである酢酸(ワインに含まれる主な揮発酸で、酢の香りと味の原因)から感じる酸味(酢酸―ワインに含まれる主な揮発酸で、酢の香りと味の原因)でした。

少量のVolatile acid (VA-揮発性酸)がワインに複雑さと新鮮さを加えることができると言う人もいるし、 VA はワインにとって重大な欠陥であり、最小限の介入で造られたワインによく見られると言う人もいます。
2015 Flow Syrrah 15%
2010 Old Vine Zinfandel 15.1%
2015 ERA Abouriou Late Harvest 15.5%
2020 Hummingbird Apple Cider 7%
新しいヴィンテージのワインが私はいいかな。

では本当に飲みたいものでしょうか?
ナチュラルワインの考え方は素晴らしいと思います。シンプルで楽しいワインがあるのは素敵なことです。でもナチュラルにワインを造るという理想のもとに出来上がったワンが、酸化から生まれるマディラ香と味がするワイン、酢酸たっぷりのワイン、異臭がするワインだったとしたら、私は飲むのを避けたいです。ナチュラルワインの理想を飲むのではなくて、私が美味しいと思うワインを楽しみたいからです。味覚は人それぞれです。そのようなナチュラルワインが好きという人がいらっしゃるとしたら、それはそれで素敵なことです。

ナチュラルワインの中に、美味しいワインがたくさんあると思います。ワイン愛好家にとってワインの選択の幅が広くなりました。

今夜のデナーはナチュラルワインにしようかしら。その前に制酸薬(胃が弱い)を飲まなくちゃ(笑)