No.49 ローレル・グレンの30年



ローレル・グレンの30年

もうご存知の方も多いと思うけれど、ローレル・グレンは売却になった。新しいオーナーはベティナ・シシェルという女性。ベティナはドイツの有名ワイン社ブルー・ナンのピーター・シシェルの娘で、ナパのワイン業界で仕事をしてきた。

ローレル・グレンの新しいチームに、デイヴィッド・レミーがコンサルタントとして参加。

ローレル・グレンはワインを生産して30年になる。オーナーが変わったのを機会に、ベティナがサンフランシスコの「ブルバード」というレストランで、市内のソムリエ、ライターを招いて30年のヴァーティカル・テイスティングを開催。

以下が私の感想:

第一番目のグループ(1981年―1989年)

1981年からローレル・グレンとしてパトリックがワインを造り始めた。前年までブドウを栽培して他のワイナリーに売っていた。ほどよい熟成香と張りのあるデイヴィス校の指導で、81年と82年は酸を加えたとパトリック。

1982年はまだフルーティ味が残っているので驚いた。でも酸味が少し突き出ている。

1983年はブショネでスキップ。

1984年ワインの状態がよくないようで、正確な評価が出来ないと思った。

1985年口に含むと若さが感じられた。タンニンがまだ若さを持っていた。

1986年は若さを感じさせる酸味。美味しさが残るフィニッシュ。

1987年はまだ若さが残っていて、フィニッシュがとても良かった。

1988年は旱魃の年だったせいかタンニンが明確。

1989年は収穫時期に雨が降ったため、マッシュルームの味わいが特徴。

私は1981年、1987年、1986年をベスト3に選んだ。グループの評価では1985年、1986年、1981年がベスト3だった。 

第2番目のグループ(1990年―1997年)

1990年はキャラメル、深い黒系フルーツの深い香り、ルバーブ、フィニッシュが長く、バランスの良いワイン。

1990年リザーブ(マグナム)は少しだけ赤砂糖を想わせる深い香り、しなやかで上品。

1991年はブレットいうイーストの含有量がボトルによって違っていて、少量含まれているボトルから注がれたワインはなかなかいいニュアンスと、好む人がいた。隣に座ったラリー・ストーンと私のグラスにはブレットがたくさん含まれたボトルから注がれていたので、ラリーが「同じワインを飲んでるのかい?」と高い評価をするコメントを聞いたときに驚いたと告白。ブレットの含有量がボトルによって違うと聞いて納得。出席者の一人はブレットが含まれたワインが好みで、「ブレットを愛する会を組織しようかな」といって笑わせていた。

*ブレットというのはBrettanomyces、略して  Brettというイースト。ワインにこのイーストがたくさん含まれると、マッシュルームとか馬の汗とかと表現される。少量含まれていると熟成香と味わいが出て美味しいという人も多い。

1992年はフルーティさが残っていて、ふくよかで長いフィニッシュ。

1993年はボトルが見つからなかったとベティナ。

1993年リザーブ(マグナム)味わいに凝縮感があり、力強くタンニンも十分。まだ若々しい。

1994年は口当たりがシルキーでふくよか。タンニンがまだ少し若い。

1995年はスパイシーで若々しい酸味が感じられた。

1996年はフルーティでやさしい。

1997年は悪くないけれど、他のヴィンテージがあまりにも素晴らしいのでかすんでしまった。

私は1990年リザーブ、1990年レギュラー、1996年をベスト3に選んだ。グループでは1990年リザーブ、1991年、1993年リザーブがベスト3、ベスト4が1996年だった。

全員、どのヴィンテージも素晴らしくて、順番をつけるのが難しいというコメントだった。このフライトは全体的に味わいと香りに深みがあり、口当たりがしなやか。程よいパワーとエレガントさを持って、バランスの良いワインだった。ある出席者は理想的に熟成したカリフォルニアのカベルネでクラシックと呼んでもいいとコメント。

醸造家のレイは1990年代から自然酵母で発酵させ、デルサージュを行い、酸は加えず自然な造りに変えたと説明。デラサージュは発酵中に発酵タンクの下にあるバルブから液体を取り出す。そのときにタネと皮が一緒に出てくるので、それを戻さず、液体だけをタンクに戻す。15-20%のタネと皮が取り除かれることになる。またこの作業中に液体が空気に触れることも後にワインが安定して熟成する理由のひとつかもしれないとあるライターが話す。2000年代はワインがまだ若いのにタンニンがまろやかなのはこの作業のせいだろうとレイ。

第3番目のグループ(1998年―2007年)

1998年は軽やかでフルーティ。

1999年は黒系フルーツ、深い香り。こくがあってフルーティ。程よいパワー。

2000年は少しの熟成香。スパイシー。軽やか。フィニッシュは中位。

2001年はまだ香りが閉じている。フルーティで美味しいフィニッシュ。

2002年は黒系フルーツ、墨汁香、程よいパワー。スパイスとこなれたタンニンのフィニッシュ。

2003年、2004年、2005年は香りがまだ閉じていて、まだまだ若く、フルーツと酸味が溶け合っていない。

2006年は墨汁香、滑らかな口当たり、酸味とフルーツの長いフィニッシュ。

2007年はフルーツ、ルバーブ、スパイス。フィニッシュは中位。

私は2002年、1999年、2006年をベスト3に選んだ。グループでは1999年、2001年、2005年がベスト3。この日の出席者は涼しい年のカベルネが好みらしい。ローレル・グレンの2000年代のカベルネは熟しすぎでは?という人もいて、ロバート・パーカーやワイン・スペクテーター誌とは、全く別の世界に生きているらしいと驚いたと同時に感動した。 

このグループのワインは若いのに、前もってオープンしていなかった。その場でオープンしてすぐに注いでいた。力のあるワインなのでもう少し前にボトルをオープンして空気に触れさせてから注いだら、香りがもっと開いていたと思う。残念。

第4番目のグループ(2008年―2010年)

2008年はカシスとスパイスの香り。コクと力強さがあり、フルーツの甘さが感じられた。酸味を伴う長いフィニッシュ。10年、15年後が楽しみ。

2009年は香りがまだ閉じていた。コクがありフルーツとこなれたタンニンの長いフィニッシュ。

2010年も、香りがまだ閉じていた。2008年よりは軽め。難しいヴィンテージだったけれど、なかなかいい線を行っている。

ベルネの1980年代、1990年代、2000年代と、その時代のスタイルがとてもよく理解できた。 

ローレル・グレンのワインは90年代が飲み頃で、出席者は感動していた。

2000年代は90年代とスタイルが違うので、混乱したとコメントされた方もいた。私はローレル・グレンの畑のユニークさを知っているので、逆に2000年代のワインがどのように熟成するのか、10年、15年後に飲んでみたいと楽しみのほうが強い。

新しいオーナーと栽培家と醸造家が、このユニークな畑の可能性を最大限に引き出して、より素晴らしいワインを造ってくれることを祈っている。

パトリック、レイ、ご苦労様でした!

隣に座ったラリー・ストーンも感激していた。