No.33 バハカリフォルニア、グアダルペ・ヴァレーのワイン

No. 33 Date:2008-2-27

バハ、カリフォルニア、グアダルペ・バレーのワイン
Baja California Guadalupe Valley
「メキシコのアートと料理とワイン」というテーマのイベントが、ナパのワインセンター、コピアで開催された。「メキシコのグアダルペ・バレーは1970年代のナパか」というテーマに惹かれて行ってみた。バハ・カリフォルニアというのはカリフォルニア下部という意味だ。もちろんメキシコに属する。
このイベントにやってきたワイナリーは主にグアダルペ・バレーにある。このバレーに大半のワイナリーが存在しており、メキシコのワイン生産量の90%を占める。現在、チリ、フランス、イタリア、アルゼンチン、アメリカが資本を投入しているという。
グアダルペ・バレーは南カリフォルニアのサン・ディエゴから約70マイルほど南東にある。正確にいうと、アメリカとメキシコの境界にある町、ティワナから車で2時間。
70年代のナパかということからも想像ができるように、気候条件は似ている。海岸沿いにある地区は海の影響を受けているのも、同じ。 1697年にスペイン人の牧師が儀式用ブドウの栽培を始めている。その当時に栽培されていたブドウ品種はミッション種。このバレーは気温が高いのだけれど、午後に海からの涼しい風が吹いてくる。日中と夜の気温の差は大きい。この辺りもナパと似ている。
畑のある場所によって差があるのだろうけれど、カサ・デ・ピエドラというワイナリーが所有する畑のある辺りは生育期間中の気温は35℃から37℃。降水量は少なくて71cm。水不足が深刻になる恐れが常にあるようだ。ゲストスピーカーの一人、モンテ・ハニック・ワイナリーのブドウ畑のマネージャーであるイスラエル・センテノ氏は「年々、地下の水位が低くなって行くので、深く掘るうちに海岸に近いのため、塩分が含まれた水が出てくる。これが栽培の一番のチャレンジ」と話していた。海まで4.8km。霧が夜に3時間ほどかかる。
栽培しているブドウ品種は実に多様。80品種というから驚いた。主に赤ワイン用品種を栽培しているということは理解できるけれど、多くの白ワイン用品種も植えている。ゲストスピーカとしてやってきた3人の栽培家と醸造家は「まだどの品種がこの土地に適しているか、実験、模索中で答えが出るまでに10年か20年はかかると思う」と述べた。その答えが出るまで多くのブドウ品種を植え続けるのだろう。メキシコというとテキーラ、ビール、マリアッチで知られているけれど、英語で「anything is possible」という表現があるように、30年後に世界に注目されるワイン産地になっているのかもしれない。
27のワイナリーが存在する。最大のワイナリーは年間生産量が60万ケース。小さいのだと2000ケースほどだ。
現在、メキシコ内でのワインの消費量は少ない。まず良い品質のものを生産して、メキシコの国民に飲んでもらいたいという。世界へ出てくるのはまだ先のことのようだ。じゃあ、なぜこのイベントを開いたのかな。目的のひとつはカリフォルニアのワイン好きにツーリストとして、このワイン産地を訪れてほしいというのがあるようだ。8月にワイン祭りが開催されるので、ぜひ来てほしいと力を入れて話していた。
この日のイベントに14社ほどのワイナリーが参加していた。カリフォルニアでも数に限定があるけれど手に入るようだ。全体的にワインの品質は良かった。価格はそれほど高くない。すごく安いということはないけれど、例えばいいかなと思ったメルローが23ドルほどだった。安かろう、悪かろうというワインはなかった。この価格帯だとアメリカでは例えばアルゼンチンとかチリ、オーストラリアのワインと競合するから、厳しいだろうな。
全体にワインのスケールは小さく、ややシンプルではあるけれど、酸味(時にはシャープすぎる)が利いた赤系フルーツのワインが多かった。サブタイトルは70年代のナパかとあったけれど、ナパ・バレーに近代醸造設備をもつ新しいワイナリーが設立され、その中のいくつかのワイナリーがリーダーシップを取り、世界のワインワールドにチャレンジしていく、一方、他のワイナリーは家族経営の素朴なワイナリーとして営みを続けているという状況は、正確には60年代から70年代というところだろう。
カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、プティ・ヴェルド等のボルドー系品種、カリニャン等のローヌ系品種、ネビオッロ等のイタリアの品種、テンプラニーリョ等のスペインの品種と、いろんな品種が植えられている。それを自由にブレンドしているところが面白い。白はシャルドネのほかにシェナン・ブラン、ソーヴィニヨン・ブランが植えられている。まだ他の品種も植えられているのかもしれないけれど、この日のイベントではこの3品種だけだった。
アメリカナイズされたマリアッチの生演奏がホールに響く。日曜日の午後、コピアのホールは訪問者で一杯だった。隣の国ということもあって親しみを感じるのだろうか、「メキシコのワイン?」という感じで関心を持つ人は少ないのかなと思っていたけれど、結構、関心があるようだった。
高級リゾートホテルLa Puerta Spa & Resortの高級メキシコ料理で知られるレストランのシェフ、ヘスース・ゴンザレス氏が作ったメキシコ料理のテーブルには長い列が出来ていた。ワインだけではなくて、カリフォルニアで一般的な安くてボリュームのあるメキシコ料理ではなくて、高級メキシコ料理にも関心を持つ人たちなのだろう。
ワイン生産とブドウ栽培のノウハウは、インターネットを通して、世界中でだれでも学ぶことが出来る時代だ。ブドウ栽培に適した気候と土壌の土地が存在する国でのワイン造りが、これからも増えるのだろう。もう、ワインはフランスのもの、旧大陸のものという観念は古くなっている。南アフリカのワインも注目されているし、アルゼンチンのワインも注目されている。ワイン飲みにとっては楽しみが尽きないワイン時代が到来した。

お勧め:
・カサ・デ・ピエドラ(Casa de Piedra)
エステートワイン生産に情熱を注いでいるワイナリー。少量生産用のモダンな醸造用設備を備えていることでも知られている。スイス人であるトーマス・エジル氏が醸造を担当、品質の高いワイン造りにパッションを注いでいるのが、パネルのデスカッションからも感じられた。
2005年エンサンブレ(Ensamble)
芳しい香りが印象的。しなやかなワイン。酸味とフルーツの甘味にスパイスが加味された心地よいフィニッシュ。モダンなスタイルのワイン。メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・シラー、バルベーラのブレンドとユニーク。
2005年ティント(Tinto)
テンペラニーニョとカベルネ・ソーヴィニヨンのブレンド。香りは控えめ。軽やかでフルーティ。酸味がしっかりしている。

・モンテ・ハニック(Monte Xanic)
近代的な設備を備えたワイナリーで重力でワイン製造過程は進められる。年間生産量は4万5000ケース。温度調節ジャケット付きの発酵タンク、回転式の発酵タンク、自動パンチダウン機、低気温の樽醗酵室でシャルドネを発酵、他の白ワインはステンレスの発酵タンクでと、近代的醸造法を取り入れている。コンピューターで管理できる装置もある。
2005年シャルドネ
バニラ、ややシンプルなシャルドネ。
2004年グラン・リカルド(Gran Ricardo)
カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルド、メルローのブレンド。かすかなアニスの香りとしっかりしたタンニン。構成の良いワイン。説得力のある?個性的なワイン。