オーク代替品

ワイン造りというと、オーク樽がずらりと並んだ静謐なカーヴとか、醸造家が樽からワインを取り出してグラスに注ぎ、顔を近づけてアロマを真剣な眼差しでチェックしていると言ったイメージをまず思い浮かべるよね。要するにワインへのロマン。

ワインはアートだというのが、まずあって、科学は後ろに潜んでいる。

ボルドーのグラン・クリュやナパの超高価なカベルネとか、カリフォルニアの高額なシャルドネなどは高い新樽(60ガロンだと約$1000)を使っている。

でも毎日、このクラスのワインを楽しむことができるワイン好きは少ないと思う。美味しい質の良いワインを手に入りやすい価格で飲みたいと願うワイン好きがたくさんいるはず。

そこでこのところ市民権を得ているのが、高いオーク樽の代理をしてくれるオーク代替品(オークチップ、オーク樽側板,オークファン、オークパウダー)だ。オーク樽購入に大金を使わずにオーク代替品を使ってオークの香りと味わいを加えるというワイン造りは、今や珍しいことではない。

ステンレスのタンクに入れたり、使い込んで樽の影響がほとんどなくなっている中性の樽の中に入れたりして使う。

ソノマ・カウンティにスタヴィン(Stavin)という会社がある。長年の友人スティーヴ・サリバンが設立した会社だ。

ソノマで醸造家だったスティーヴはオーク樽のコストが年々高くなる中で、オーク樽を使わずにオーク樽を使ったのと同じ質のワインを生産する方法が必要だと実感。1992年に弟のアランとスタヴィンを設立。

フランスの様々な樽生産会社を訪れて達した結論は、品質の高いオークの風味を得るには質の高いオークを手に入れること、3年間の自然乾燥が重要、伝統的な焼き方には経験豊かな職人が必要ということだった。

この会社を訪れる機会があった。科学的調査に基づいて、細部まで注意を払って商品を作り出している。とても興味深い。

材料のほとんどがフレンチオークで、アメリカンオークとハンガリアンオークが少し。フレンチオークはフランスの中心部の森のものを使っている。オーク材をヨーロッパで約2年半ほど自然乾燥させて、一定のサイズに切った樽の側板がこの会社に送られてくる。それを6ヶ月さらに自然乾燥させる。

自然乾燥が終了したオーク材を樽と同じ香りと風味を出すためにトーストするのに、二つの方法を使っている。

ひとつはオーヴンでトーストする方法(Conviction Oven Toast)

もうひとつは樽造りと同じように直焼きする方法(Fire Toasting)

オーヴンでトーストする方法

大型オーブンにオーク材を入れて、最初は低温で湿り気を取り除き、乾いたところで温度を上げてトーストする。平均約5時間かかるとのこと。「焼き加減はどうやって調べるの?」と聞いたら、焼けた破片をワインに入れて試飲するそうだ。

オーブンの辺りは、まるでベークをしているような甘い香りが漂っていた。

直火で焼く方法

この会社の設立者、スティーヴ・サリバンが開発したもの。この方法のスペシャリストとして知られている。スティーヴが考案した樽状のテンプレートの中にオーク樽側板を並べて、樽と同じようにオークの切れっぱしを燃やして直火で中を焼く。これは一つ一つ職人が焼くので、手間がかかる。焼く時間は10分前後で、職人が焼き具合を決める。

焼き加減はミディアム、ミディアムプラス、ヘビーの3つ。

二つの焼き方がはっきり見分けられる。オーブンで焼いたものは均一の茶色、直焼きしたものは場所によって焼け方に違いがあって、色も濃い。案内してくださったジェフ(科学者)によると、直火焼きはワインにニュアンスが出るとのと。

焼きあがったオーク側板は色んな形で使われている。

 

この会社のカテゴリーごとのネーミングに沿って紹介します。

バレル・レプリカ

側板(長さ45cm、幅2.5cm、厚さ10mm)を数枚ずつまとめたもの。中性の樽に入れる。高品質のオークが持つ繊細で複雑味をワインに加えてくれる。そして経費節約。

 

ステイヴ・ファン

側板(長さ91cm、幅3.8-6.4cm、厚さ10mm)を扇状にまとめてある。大きい扇型は180ガロン(樽3個分)のステンレスのタンクに入れると液体の上に浮かんでゆっくりと広がって扇のようになる。オーク香りと風味がゆっくりと抽出される。

小型の樽には短い側板が使われていて、ワインへの抽出度が高く、短期間で効果が出るので、コストが安くなる。

 

オーク・ビーンズ

四角(10mm3)に切ってある。抽出が早くコストパーフォーマンスが高い。

発酵中に入れて、色を安定させタンニンをマイルドにする効果がある。早い時期に使用するとワインの構成を良くし、口当たりが良くなる上に、赤ワインの色を濃くする。熟成や果汁に入れることもあるとジェフ。

 

パウダー(おがくず?)

パウダーも集めて袋に入れて使う。一般的に発酵中に使われる。ガロやブロンコなどの大型ワイン社が使ってるとのこと。粉末はアグレッシブだとジェフ。

他にステイヴ・セグメント(トーストした側板を約5cmに切ったもの)とかオークチップ(パウダーより大きめの木片)を、例えばナパの1本が100ドルするワインの発酵中に使っているところもあるとか。手抜きのためではなくて、ボディ、風味、色を安定させるためだという。

オーク代替品を入れる袋は外気を遮断する特別の袋を使ってアロマを保護している。

 

こういうものを使うのはカリフォル二アでしょうという声が聞こえてきそうだけれど、実はこの会社は4年前からフランスの樽生産社フランソワ・フレール(Francios Feres)が所有している。オーク樽に代わるオーク代替品がワイン造りの大きな部分を占めるようになってきたことを踏まえて、ビジネスとしての成算ありと読んだのだろう。

フランスはまだワイン法がこの方法を抑制しているけれど、カリフォルニア、スペイン、オーストラリア、南アフリカ、ニュージランド、チリ、アルゼンチンと世界的に使われている。

アメリカではオークチップの使用は1993年から、ヨーロッパはオーク代替品を使ったワイン生産は2005年から認可されている。

オーク代替品使用によって、手ごろな価格のワインの生産コストが大きく下がる。

その理由は:

$1·       オーク風味がワインに浸透する速度が早い(寝かせておく時間が少ない)

$1·       補填の必要がない

$1·       樽に比べると価格が安い

またオーク樽だとワインが空気に触れながらゆっくりと熟成(酸化)していく。この工程がオーク代替品ではできなかったのだけれど、1990年代にマイクロ・オキシジェネーションと呼ばれる技術が開発されて解消された。少量の空気をステンレス発酵タンクに注入することによって、樽発酵と似た効果が生じ、オーク樽熟成から出る風味をより正確に表せるようになった。この技術の登場がオーク代替品が多く使われるようになった理由のひとつ。

個性のある質の良いブドウを手作りに近い方法で醸造発酵して、上等の樽で熟成されたワインは素晴らしい。でもそういうワインは生産数も少ないし、高価だ。

毎日とまで言わなくても、気軽に「美味しいね!」って楽しく飲めるワインが手頃な価格で手に入るということは、もっとたくさんの人にワインを飲んでもらうという点からも、とっても重要。

ワインは特別な飲み物と思われている枠を超えて、ワイン文化をより浸透させていくことにつながる。

超高級ワインを飲む機会があると、もちろん嬉しい。でも質の良い美味しいワインを気軽に飲めるのも嬉しい。

ある記事によると、スペイン北部でワインを飲みなれている150人にオークチップが使われたワインと、この地区で最もポピュラーなワインの一つ、Tinta del Pais(ティンタ・デル・パイス=スペインやポルトガルで使われている赤ワイン用の数品種)をブラインドで飲んでもらったそうだ。試飲する前まで、55%の人がオークチップを使ったワインは味を確認してからでないと飲まないと言っていた。オーク樽を使ったワインとオークチップを使ったワインは互角あるいはオークチップを使ったほうが好きだという結果が出たという。

手頃な価格のワインは、オーク代替品を使って造っているはずで、結構日常的に意識せずに飲んでいると思う。

いつか機会があったら、ブラインドで比較試飲をしてみたい。