幻を追いかけて

 

 

まだ新芽が顔をだしたばかりの風の強い日でした。(原稿を書くのが遅くなってしまいました)

ほぼ10年ぶりにトム・キサイチ(私市)さんに再会。友人と彼のワイナリーを初めて訪れました。カリフォルニアへやってきて、苦労しながら、ピノ・ノワール生産ワイナリーの設立にこぎつけて、今、安定したワイナリー経営を続けています。

彼がソノマ・カウンティに越してきて、学校に通いながら仕事を探している頃に友人の紹介で初めてお会いしました。

その後、エノロジストとしてワイナリーで働きながら、メルローを造り始めました。

その頃(2002年)に彼について書いた記事があります。彼がフランスからカリフォルニアでへやってきた頃のことを書いています。ワイナリーを持ってみたいという夢を持っている方の参考になるかもしれません。関心のある方はこちらから。http://www.winetalkcalifornia.com/winery-vinyard/612

エノロジストとして働いていた頃に、今のブドウ畑(12エーカー)と出会って、ピノ・ノワールを造り始めました。メルローを造っていた頃、「カリフォルニアではピノは造らない。自分が思っているピノはできないから」と言っていたのですが、彼が造ろうとしていたピノができる土地と出会えたのでしょう。

1999年に1万1000本のピノ・ノワール(ディジョンセレクション)を植えました。全て奥さんと二人での作業。文字通りの二人三脚です。

バイオダイナミック栽培を初めて10年経った今も、ブドウの栽培作業は全て二人でしているとのこと。

「ハーベストの時に数人雇うけど、あとは全部二人でしてる」と何の気負いもなく話します。

畑の一番高い場所に案内してくれました。標高1000m、海が見えます。涼しい海風が頬を撫でます。

彼のワイン、Maboroshi のラベルの由来は、もうご存知の方が多いと思います。

スクリーミング・イーグルの鷹(鷲?)とムートンの羊を自ら描いてラベルにしてます。メルローを造っている頃からのラベルです。初めて見たときにまじでこのラベルにしたのか、ジョークなのか確信がありませんでした。今も同じラベルを使っているので、マジだったんだなあと、今更ながら感じてます。アメリカでは何年か経つと消費者が飽きるからと、ラベルを少しだけ、あるいは大きく変えるワイナリーがほとんどです。そんな中でラベルを変えないのも彼らしいです。

「ワイン雑誌に私市さんのワインの評価は載ってないけど、サンプルを送るタイミンが合わなかったの?」と聞いたら、「メールは来てるけど、そういうのには一切関わらないことにしてる」と淡々と答えました。世論に影響されずに自分らしいワインと造り続けているという信念。このあたりも彼らしいなと感心しました。ユニークです。

年間生産量は800ケース。これでしっかりと生計を支えています。

写真を撮り忘れてしまいましたが、奥様無しでは、今、このワイナリーはありえないなあと(彼に叱られるかな?)思います。

さりげなくジョークなのか、本気なのか、その真ん中辺りなのかと思って迷ってしまう言葉をさらっと言うところも変わっていません。

彼らしいやり方でワインを造り続けているトム・私市さんに再会して、日本人としてとっても嬉しかったです。

幻を追いかけているようなものだと、お父さんに言われたことからネーミングしたワイナリー。

でも、もう幻は追いかけていないとお父さんにきっぱりと言えますね。

帰り際に「また今度ゆっくりね」と声をかけてくれました。若い頃と変わらない気さくな彼でした。

試飲したワイン(友人と一緒だったので、造り方とか詳しいいことを聞けませんでした)

2013年 シャルドネ

シャルドネのブドウは他の畑から買っているとのこと。ミネラルが感じられてエレガント。$50

2012年ピノ・ノワール

赤いベリーの味わいがきれい。軽やかでエレガント、クローンは115と667。$45

2007年ピノ・ノワール

ソフトな口当たり。長いフィニッシュ。10年前は今よりもう少し糖度が上がってから摘んでいたのかな?今飲んだほうがいいかも。$70