スポッツウッドの若き醸造責任者アロン・ワインカフ

 スポッツウッドの若き醸造責任者アロン・ワインカフ(Aron Weinkauf)

 

2016年の収穫が終わって、圧搾作業の真っ最中のワイナリーを訪れて、スポッツウッドの若き醸造責任者、アロン・ワインカフ(40歳)をインタビューしてきました。

 

バックグラウンド

文科系の大学を卒業後、フレスノ大学で醸造学とブドウ栽培学を学んだ。在学中は1940年代から本格的なポートを生産するワイナリーFicklinで働いた。卒業後、ポールホブでインターンを8ヶ月。2006年にアシスタントワインメーカー(醸造責任者の助手)としてにスポッツウッドに就職。2009年にブドウ栽培責任者も兼任。

「なぜぶどう栽培を?」

「ネヴァダ州、リノで育った。農業が多い土地で育って、栽培に馴染んでいたし農作業が好きだった。それにワインはブドウ畑で造られると信じていたから、ブドウ栽培の管理者が良かった」

そして2011年に醸造責任者に就任。ぶどう栽培と醸造の両方を管理している。

ブドウ畑

スポッツウッドの40エーカーのブドウ畑はマヤカマス山の麓、ベンチランドにある。2つの小川が交差していることから土壌は基本的に粘土が混じった沖積土。でもいろんな土が混ざっていると言って、白いの、黒いの、中が黒くて外が白いの、花崗岩、石灰岩など拾ってきた石を見せてくれた。火山が爆発したときに落ちてきた石、流れてきた溶岩、海底隆起で上がってきた石、そして川からの沖積土といろいろ。だから水はけがいい。

下草から得る窒素の含有量を分析して適切な窒素をキープ。必要なら腐植土も加えて、健康な土を維持している。

下草は半分しか耕さない。カーボンファーミング(Carbon Farming)という運動に賛同しているからだ。下草を耕すと堆肥や土壌中に含まれている炭素放出されて、二酸化炭素となって大気汚染の要因となる。農業(トラクターによる作業や耕作)が二酸化炭素を発生させて、地球温暖化の要因のひとつとなっていることから二酸化炭素の発生を少しでも抑えようというのが運動の目的。

太陽光線の当たり具合を調節

1985年にトニー・ソターが醸造責任者となったときに、オーガニック栽培、そして畑の基本となるトレリス(ブドウ樹の仕立て)を作り上げた。コルドンだけれど、密植度が高くトップとサイドが四角になるように刈り込まずに、VSP(ヴァーティカル・シュート・ポジション)と呼ばれる仕立てで、スペーシングはゆったりと、枝は比較的高めで程よく広がるように仕立ててある。このあたりは温暖な気候なので、ブドウの房に太陽が当たりすぎないように葉が間接的に房を守るようにコントールして、アロマと色をキープする。 

アロンは畝とブドウ樹の間隔が6X8だったのを5X7にかえた。ブドウ樹の葉同士が近くなって、房に差し掛かる直射日光を避けるためだ。

またブドウ果実を強すぎる太陽光線から守って、糖度が高くなり過ぎるのを抑えるために自社畑の3分の1にShade clothメッシュ状の黒い布?網?)を使う。

「クリップを使って枝の向きを変えて房に当たる日光を調節しているブドウ畑もありますが」

「コストがすごくかかることと、試してみましたが、スポッツウッドの場合は、それほど結果が違わないので、しないことに決めました」

「温暖な土地だからブドウはよく熟してくれます。太陽光線をどれだけ浴びさせるのかをコントロールすることによって素晴らしいワインになるブドウが育ってくれます」

超過熟ブドウからアルコール度の高いワイン生産が全盛期にも、超過熟ブドウ栽培は一貫して避けている。

 

バランスのとれたブドウ樹を育てる。

ワインのバランスということはよく聞くけれど、アロンは「ブドウ樹のバランス」という言葉を使いました。

灌漑がバランスのとれたブドウ樹栽培のキーポイント。

水を効率的に使うために、以前は毎週4−6時間灌漑していたけれど、今は2−3週間に一度、12−16時間灌漑する。水を与えた際に、表面の5ー7cmは蒸発してしまうので、水分が深く浸透しない。長時間灌漑すると水分が深く浸透するし、水の無駄使いをしないで済むからだという。

ハイテクによる水の節約とブドウの質の向上

質の良いブドウを育てることと、水の節約のためにワイヤレスのシステム、Sap Flow Censor System Surface Renewalという2つのハイテクを利用している。ブドウ樹がどのくらい水分を使っているかを測定して、水分を効率的に灌漑する、そして質の良いブドウを育てるのが目的だ。

Sap Flow Censor System

センサーをブドウ樹の枝に巻きつけて、15分ごとに樹液の流れをセンサーが測定してサービス会社Fruition scienceへ送信。同社は蒸散率を割り出してワイナリーへ送付する。樹液の流れのレートがゆっくりだと水分がブウドウ樹の中をゆっくり移動しているということで、水分が足りないから、ブドウ樹の脱水状態を避けるために十分な水を与えるというように、この情報を利用する。

Surface Renewal

蒸発散量(地球から大気に還元され雨水分の総量)を測定する。UCデイヴィス校が開発し、Tule Technologiesがパートナー。天候ステーションに似たアンテナ?をブドウ畑に設置。毎朝、このステーションからデーターがインターネットでスマートフォンやコンピューターに送られる。この測定量によって灌漑する量を決めることができる。蒸発散量はブドウ樹、下草、土など畑の表面から蒸発した量を測定する。ブドウ樹に適量の水分を与えると同時にこのシステムを使うことによって余分な灌漑を避けることができるため水節約に役立っている。

「適切なサイズのブドウ粒を育てるためにはブドウ樹のバランスが取れていなければならない。灌漑がワインのアロマ、収斂性、バランス、ボディ、色、味、口当たりに大きく影響するとアロン。

現代の栽培家はスマートフォーンやコンピューターで様々なブドウ樹の状態に関する情報を受け取って、そのデーターを元に灌漑の水量、時期、ブドウ樹の健康状態を把握している。

地球温暖化防止、効率的に感慨して水を節約、そして最高級のワインが生まれるブドウを育てる。21世紀のブドウ栽培の理念を学びました。

 

醸造

ワインは畑で造られるということから、バランスが取れたブドウ樹から最高の質のブドウを収穫するのが最大のポイント。オプティカル・ソーターを使って厳しく選別する。あとは最高の風味を得るためにどの程度の抽出をするか決めるのがキー。SO2は最小限しか使っていない。

ブドウが育ったスポッツウッドという畑ならではの個性と特色を持つワインを造るのがゴール。

なぜナパのマルゴー?

「口当たりがソフトで決めの細かい滑らかなタンニンを持つワインというスタイルが似ているから、マルゴーと言われるのだと思う。マルゴーのようなワインを造ろうとしているわけではない。スポッツウッドの畑が与えてくれる可能性を最大限に生かしたワイン造りを続けているだけです。

ボルドーとナパのワインがよく比較されるけれど、この二つの土地は同じではない。

ナパは気候も土質もボルドーよりずうっと多様だ。

土質の数はナパの方が多い。ボルドーは300年も同じ土地でブドウを栽培し続けている。そして科学物質を使い続けてきたのだから、もうボルドーの土は自然じゃない。人間が作った土で、痩せている。

ナパは土質が様々だし土壌が持つ可能性がある。

ナパの気候の多様性は48kmという長さと8kmという幅の中で北と南、そして西と東では気候が(土も)違う。とても多様だ。

ナパにはその多様性が生み出す可能性が大きい」と淡々と話してくれました。