No.34 モレ・ファミリー・ヴィンヤーズ(Morlet Family Vineyards)

No. 34 Date:2008-05-09

モレ・ファミリー・ヴィンヤーズ(Morlet Family Vineyards)


2月半ばにナパ・ヴァレーの北端の山の麓にある小さなワイナリー、モレー・ファミリー・ヴィンヤーズを訪れた。2006年ヴィンテージが初リリースという 新しいワイナリーは、その将来性が期待されている。ワイナリーの名前から想像されるように、オーナー兼醸造家のモレー氏はフランス人だ。
スペルをさっと見ると、メルローと間違ってしまいそうだ。「メルローでもいいです。印象が残るのはいいこと」と鷹揚。

ルック・モレ氏は15年前にカリフォルニアへやってきた。エパルネで生まれた生粋のシャンパン地方の人。家族は5世代にわたって シャンパンを造ってきた。「靴の紐の結び方も知らないうちからブドウ樹の結び方を教えられて、兄と二人、ブドウ畑で働きました。そのころは乾燥させた草で 結んでいたのですよ」
カリフォルニアでは5年間、ニュートンで、それから5年間、ピーター・マイケルでワインを生産。ニュートンではコングスガード、ピーター・マイケルではヘレン・ターリーからカリフォルニアのトレンディなスタイルのワイン造りを学んだ。
まもなく兄のニック・モレーもカリフォルニアへやってきて、現在、ピーター・マイケルの醸造家を務めている。現在、ルックはピーター・マイケルのコンサルタントだ。
レイム大学で醸造学のマスター、エコール・ヴィティコール・デ・シャンパーニュで醸造と栽培を学び、ディジョン・ビジネス・スクールでMBAを取得。ヴァ ル・ドル・シャンパーニュ・セラー、シャトー・ドザック、シャンソンで修業。そのときフランス語の勉強に来ていた女性に会い、カリフォルニア出身だったこ とからカリフォルニアにやってきた。その彼女が奥様のジョディだ。
カリフォルニアのブドウの個性と特色を学んで、その個性を生かした自分のワインを2006年からモレーのラベルで造り始めた。モットーは「徹底したブドウ畑の手入れ、クラシックな醸造法、クリエイティヴな職人」 
ブドウの質の話になると「ボルドーでは良い年というのは珍しい。ほとんどの年は平均の質、それでベストを造ろうと努力する。カリフォルニアは悪い年というのが例外で、それは98年くらいかな」と笑う。
彼のワイン造りのキーポイントはハーモニーだ。それをラベルにデザインしてある。二人の女性がハープを弾いている絵がハーモニーを象徴しているのだとい う。「トレンディなワインを造って人気を得ようとは思っていない。畑の感触を知っていいと思うワインにする。畑のユニークさを尊重して手作りのワインを造 る。ナイツ・ヴァレーに10エーカーの畑を持っている。他のワインは家族が所有するブドウ畑を吟味して選んで契約している。栽培、摘み時、全て自分で決め る。各品種、情熱を感じる畑を選んでいる」と誠実な口調。
シャルドネはソノマ・コーストから。カベルネはオークヴィルのトカロンの畑のブドウを使って、それにナイツヴァレーの自社畑ブドウをブレンド。でもこれはまだリリースになっていない。
ブドウ畑は収穫量ではなくてエーカーで払っている。例えばシラーの場合、極端な例は一つのシュートに1房しか付けない。房の肩の粒は取り除くという徹底振 りだ。「ピノ・ノワールでも同じように試してみたら、結果はあまりよくなかった。テロワールが表現されない。品種によって栽培に対する反応が違うというこ とを学んだ」と話す。
ルックはブレンドを信じている。畑の名前入りの場合は、そのテロワールを表現する。「ヨーロッパではたとえ品質が高くないワインになったとしても、これが テロワールだといって、そのまま造るケースがあります。消費者はそれを認めなければならないっていうことになるのかしら?」とたずねたら、笑って「いい質 問ですね。僕はそのときにはブレンドして美味しいワインを造ります。ブレンド、クヴェですね。テロワールを生かしながらブレンドをするということがコンセ プトです。個性の違う畑のものをブレンドします。そのためにブドウ畑を選びます。クリエイティブでありたいと思っています。シャンパーニュ、ボルドーはブ レンドの世界ですよね。僕はカリフォルニアのフルーツ(ブドウ)の個性を表現したいと思っています。好きだと思うテロワールを持っている畑を選べますか ら」静かな情熱が感じられる。

ワインはコングスガードとヘレン・ターリーから学んだクラシックな方法で造っている。まず買ったのが30ポンドの小型の箱。摘み 取ったブドウをひと並びだけ入れる。房が重なってブドウの粒がつぶれるのを避けるためだ。それから収穫したブドウの温度が一定に保たれるように冷蔵システ ムが付いたトラックを使ってワイナリーまで運ぶ。
選別作業は徹底している。摘み取ったブドウは3回にわたって選別する。まず房の選別、次は除梗後、彼が設計した選別機で緑色(未熟)ブドウを取り除く。その後、10人が選別機の両側に立って、きれいに熟したブドウ粒だけにするための選別をする。
2003年に彼が自ら設計した選別機は、緑色で小粒なものは四角の格子状になったステンレスの部分に来ると下へ落ちるようになっている。他のワイナリーが 気に入って買いたいというので、150機が売れた。ロイヤリティが結構収益につながっていると微笑んだ。

ラベルは細部まで熟考したうえでデザインしてある。小さな金色の印が入っているけれど、それも意味があってのことで、単に見た目 がいいからという(粗忽な私が考えるような)デザインではないのだ。π、φ、ハートに矢が刺さっているもの、ハートが輝いているもの、シェフのハット、フ リュー・デ・リスという花、ボータイとワインによって、違う印が入っている。有名なラベルをたくさんデザインしているチャック・ハウスがデザイン。

☆2006年ラ・プロポーション・ドリー(La Propotion Doree)
ソノマ・コースト
セミヨン(66%)、ソーヴィニヨン・ブラン(32%)、ムスカデル(2%)のプロポーションを考えてブレンドしたもの。印はπ(π=3.14160)こ の割合に基づいているそうだ。ムスカデルを少し加えることによって、フルーツ、スパイス、複雑味を出している。
「ふくよかで優しくて、深みがありますね。ルックのようなワイン。酸味がとても上品」とコメントしたら、最初の言葉、ふくよかが頭にこびりついてしまった らしく、「太ってるってこと?」と念を押す。「ノー、太っているのじゃなくて、ちょっと丸みが、、、」というと「昔は違ったんだよ」と、まだふくよかにこ だわって、「それから、あとはなんて言ったっけ?」と聞く。まじめなのかジョークなのかと一瞬、迷ったけれど、ジョークなのだった。
100%の樽発酵、セミヨンは80-90%が新樽。ソーヴィニヨン・ブランは10%が新樽。平均すると3分の2が新樽。熟成の樽のあるところへ連れて行っ て、樽の頭がガラスになっているのを指差して「これで澱の状態がわかります」と言うので「これって、ツーリストに澱の状況を見せるのに使ってますよね」と 言ったら、「僕のワイナリーはツーリストは来ません。僕が澱の状態を観察するためのものです。2週間に1回澱をかき混ぜるという基本ですが、澱の状況を観 察して変えます」という。「このワインは10年熟成してみてほしいですね。1982年のオブリヨンを飲みました。とてもよく熟していました」
$60、500ケース生産

☆2006年ピノ・ノワール、コトー・ノーブレ(Coteaux Nobles)
ソノマ・コースト
確かによく熟したブドウから生まれたカリフォルニアのピノ・ノワールでラズベリーなどの赤いフルーツが豊かなのだけれど、アロマがフルーツのみというので はなくて、ミネラルやスパイスが感じられるのが個性的。口当たりはしなやか。ちょっとシャイな感じなのだけれど、十分に中身がある。上品なワイン。料理と もよく合う。
$75 300ケース

☆2006年ピノ・ノワール、アン・ファミール(En Famille)
7歳と9歳の息子と娘が小箱に入っているブドウを足で踏んでつぶして、それからショベルで発酵タンクに移すのだという。上のと同じ畑。スパイシーで酸味が もう少し明確かなという印象。パンチョンで発酵。3つのピノ・ノワールは同じ畑のブドウから造られていて、基本の味は共通点があるけれど、ワインの特色の 違いが明確に表現されている。造り手が違いを把握して造っている意図が伝わってくる。
$85、100ケース

☆2006年ピノ・ノワール、ジョリ・カール(Joli Coeur)
ビューティフル・ハートという意味だとのこと。芳しいアロマ。ラズベリー、味の凝縮感、パワー、なめらか、長く置いておきたい。ブルゴーニュとカリフォル ニアの真ん中辺り。「私はフランス人だけど、今はアメリカ人の妻と結婚してアメリカ市民です。ハーモニーを感じている、その私を表現。新しいタイプの醸造 家と思っています」
$95、 100ケース

☆2006年シラー、ブーケ・グラニ(Bouquet Grani)
ソノマ・カウンティ、ベネット・ヴァレー
スパイス、ベーコン、赤肉、スモーク、いろんなアロマがあるワインなのでブーケースパイスを料理に使うときに束ねたもののネーミング。単一畑のブドウを使 用。2つのクローンとひとつのフィールドセレクション。スパイシーなのとフルーティなクローンを選んだ。ガッツのある、中途半端じゃないシラーなので、驚 いた。ピノ・ノワールとは印象ががらりと変わっている。ピノ・ノワールを造る醸造家はピノ・ノワールにやや近いスタイルのシラーを造るのかなと思っていた といったら「ワイナリーの方針がそうなら、それに従わなければなりません。でもこれは私のワインなので自由です。造りたいスタイルのシラーを造りました」 口当たりが滑らかでシームレス(縫い目がない)しっかり熟して、黒系フルーツが豊かなカリフォルニアのシラーなのだけれど、過度の甘さがなくて、酸も十 分。
$85、50ケース

現在は5つのワインをリリースしている。近い将来、シャルドネとカベルネ・ソーヴィニヨンがリリースになる。「少量ずつ、それも フランス語の名前をつけたワインを出しているので、買う人は名前を覚えるのが大変ですね」といったら、「これ以上増やすつもりはありません。でもどうして も造りたいという情熱を感じるブドウ畑に出会ったら、どうしても造りたいと思うかもしれません。1品種について500ケース以上は造りません。一人で作業 をしていますから」
とても才能のある醸造家であることはピーター・マイケル時代に証明しているけれど、モレーのワインでさらにそれを感じた。「まだリリースしたばかりだけれ ど、4,5年後に、すごく有名になって『エミコってだれ?』って言うのかしら?」とからかったら、「そのくらい有名になるのは嬉しいけれど、僕はそういう 人間じゃない。シャンパンで5世代に渡ってワインを造ってきた家の人間です。父親が造ったシャンパンは一度だって雑誌に掲載されたことがありません。でも 毎年、良いものをと一生懸命造っていました。私もベストのワインを造るというパッションを忘れることはないです」
また次にルックのワインを飲める日を楽しみにワイナリーを後にした。