No.46 ベンジガー・ファミリー・ワイナリー

No. 46 Date:2010-7-18

ベンジガー・ファミリー・ワイナリー

初夏らしい快晴の5月中旬、グリーンワイナリーのリーダー的存在として知られるベンジガー・ファミリー・ワイナリー(Benziger Family Winery)を訪れた。

電動のトラムに乗せてもらって、バイオダイナミック栽培をしている敷地全体が見渡せる丘の頂上まで行く。敷地の端のほうに羊と牛を飼っている小屋と放牧場が見える。羊はブドウ畑に放すとせっせと下草を食んでくれる(除草剤の代わり)。牛の糞はバイオダイナミック栽培のひとつの特色である角に糞を入れて土中に埋めて一種の堆肥?を造るのに使われる。

グリーンワイナリーというとき、ワイナリーが緑色にペンキで塗られているのではなくて(ジョーク)、地球に優しいワイナリー経営をしているということだ。このワイナリーでは、ざっとあげてみても炭酸ガス排出減少、エコ・フレンドリーパッキング、重さが通常のものより30%軽いボトルの使用、ラベルはリサイクルの紙(30%)とエコフレンドリーの大豆ベースのインクを使用、廃水再利用、バイオダイナミックによるブドウ栽培及びワイン生産という具合だ。今は熱源の節約をチェックしていて、将来はソーラーの使用も視野に入れている。

心地良い風を頬に受けながらカベルネ・ソーヴィニヨンの畑を通過。みるからに健康そうなブドウ樹に小さな豆粒のような花の蕾が見えていた。あと、2週間ほどで開花するという。野菜畑(ソノマの有名レストランに卸している)を通り過ぎて、左手に益虫が好む植物が植えられている一角を見ながら丘の中腹へ着いた。耕したばかりの黒々とした土のところで醸造責任者のロドリゴが「この健康な土を見てください。土の上を歩くとふわふわしています。除草剤などの化学物質を使っている畑の土はコンクリートみたいに硬いんですよ」といって土の上でジャンプして見せる。私も土の上を歩いてみた。本当にふわふわしている。土を手にとって香りをかいでみる。近所の苗木屋から買う袋に入ったオーガニックの土と同じ良質の土の香りがした。

「質の高いブドウは痩せた土壌で栽培することによって生まれると聞いてます。こんなに肥沃だと葉がどんどん大きくなって、ブドウの質に影響するということはないのですか?」

「とてもいい質問ですね。いいブドウを栽培するのは痩せた土地がいいです。でも粘土はだめです。この土は微生物がたくさん混じっていて表土がふかふです。土が軟らいので根が2m下まで張ります。そこは石ころばかりで痩せています。ミネラル分があるほうがいいわけです。今年の冬は雨がよく降ったので土は多くの水分を含んでいます。よい天気が続くとブドウ樹はぐんぐん生長して、房の結実も多くなると思います。そうなるともちろん房を切り落としたり、摘葉作業など勤勉に作業をすることになります」

ベンジガー・ファミリー・ワイナリーは排気ガスを減らす運動にも熱心に参加しており、Carbonfund.org の強力なサポーターでもある。この組織は炭酸ガス(排気ガス?)を縮小し天候への悪影響を減らすことをモットーとした非営利団体。そのためのさまざまなプロジェクトを組んでいる。個人会員は45万人、その他ベンジガー・ファミリー・ワイナリーを含む、アムトラック、モトロラ、フォックスワゲン、デル、ジェットブルー等の企業が会員となっている。

トラムで敷地の端にある池のほとりに連れて行ってくれた。2つの池がある。人工貯水湖かと思っていたら、そうではなくて、排水処理をしてその水を再利用する池なのだった。ひとつの池はワイナリーで使われた水が集められ、ポンプ(もちろんん効率の高いポンプを使用)で酸素を水中に注入する。もうひとつの池とは地下でつながっている。このトンネルには(湿地帯と呼んでいた)水中の微生物等を処理する根を持つ植物が植えられている。2つ目の池の水はきれいに澄んでいて、ワイナリーで再利用する。この池の水面に一見コケのように見える丈の短いシダ類が一面に生えていて太陽の光線が水中に入るのを防いでいる。そこを小さめのかも一家が泳いでいた。トラムに乗った私たちを見ると赤ちゃんかもとその両親はいっせいに死んだふりをした。するとシダに混じってよほど注意を払わないとかもが見えない。とってものどか。

ほのぼのとした気持ちでテイスティングルームへ行く。

オーガニック栽培のブドウから造ったワインと、バイオダイナミック栽培と生産をしたワインの試飲をさせていただいた。

Signaterra(シグナテラ)

このラベルで出しているワインはバイオダイナミック、オーガニック、認定を受けたサステイナブルで栽培されたブドウを使っている。ブドウ品種の個性、ヴィンテージとブドウ畑の個性を反映したワイン造りが哲学。

2009年ソーヴィニヨン・ブラン、Shone Farm 、Russian River Valley $26

隣町にあるジュニア・カレッジが所有する農園でオーガニックブドウ栽培を教えている。ワイナリーと提携して、ジュニア・カレッジの畑名(Shone Farm)入りのソーヴィニヨン・ブランをリリースしているというのがユニーク。

優しいグラシーなアロマ。味わいはメロン、ほんの少しのイチジクの葉、ほろりとした甘味と優しい酸。ふくよかな口当たり。上品で優しくクリーンでフレッシュ。長いフィニッシュ。バランスのいい素敵なソーヴィニヨン・ブラン。

2007年 ピノ・ノワール、 Bella Luna Vineyard、 Russian River Valley $49

2007年はバイオダイナミック栽培に転換中だった。2009年からこの畑のブドウはバイオダイナミック栽培の畑として認定された。

黒系フルーツ。ライプ。口に含むとふわっと口内に広がる。優しくてクリーンなワイン。20%の全房発酵。

2007 ピノ・ノワール、 De Coelo、 Sonoma Coast $69

海岸に近い涼しい土地のバイオダイナミック栽培の畑のブドウを使用。赤いベリー系のフルーツ。スパイス。しなやかなワイン。

2006年スリー・ブロックス・ボルドー・ブレンド Three Blocks Bordeaux blend Sonoma Valley $49

ナパの華やかなフルーツがたっぷりのカベルネとは個性が違う。涼しい地区らしいハーブがアクセントの抑制の利いたカベルネ。2008年からは使う全ブドウがバイオダイナミックス栽培のものになる。

2006年トリビュート Tribute Bordeaux blend Sonoma Mountain $80

バイオダイナミックで栽培された自社畑のブドウを使ってバイオダイナミックの醸造法で造られている。カシス、タバコ、マッシュルーム、深いアロマ。口当たりは優しい。上品なフルーツ。程よい酸味とこなれたタンニンの長いフィニッシュ。

オーガニック栽培、オーガニックワイン、バイオダイナミック栽培、バイオダイナミックワインのコンセプトをサポートしたい。でもワインそのものが美味しくなければ長くは続かない。

ここのワインは質がいい。どのワインも口に含むとふわっと口中に広がり、口当たりがとても優しい。醸造責任者のロドリゴは「醸造テクニックではなくて、畑が与えてくれる特質です。酸を加えることもなく、自然酵母で発酵させているし、マロラクティック発酵も自然という醸造法なので、ワインの味わいはピュアーです。もし良質のブドウが手に入らなければ造らないほうがまし」と話す。

「グリーンなワイナリーとして経営を続けるのは費用がかかりますよね。ビジネスとしてペイするのですか?」

「長期的に投資していくと大丈夫です。良質なワインを高すぎない価格で売っていきたいと思っています」

パーカーが100ポイントをつけるワインではないけれど、そして必ずしもパーカーの高いポイントを得るワインでなければならないという必然性はない。地球に優しい栽培経営をしているワイナリーのワインを飲んでいるというサポート感?に加えて、満足して楽しめるワインだ。

ワイン栽培と生産に対するコンセプトと醸造家の情熱に共鳴してワイナリーを後にした。