No.49 ペイ(Peay)



ペイ (Peay)

2011年のワイナリー初訪問は1月11日(月)だった。ソノマ・コーストにある小さなワイナリーPeayペイを訪問。1月と2月はほとんど毎日、霧がかかるか、雨降りだったので、その日も霧で何も見えない道を車で走る覚悟をしていた。ところが、この日は裏庭に真っ白の霜が下りて、10時ころには青空が見えた。幸運。

ソノマ・カウンティを北へ向かってドライヴ。ドライ・クリーク・ヴァレーを通過。私が住むソノマ・ヴァレーのブドウ畑は寒々として、まだ剪定作業に入っていないのだけれど、ドライ・クリーク・ヴァレーの株つくりのジンファンデルの畑はきれいに剪定されていた。そしてマスタードグラスの黄色の花の蕾が膨らんでいる。ソノマ・ヴァレーよりドライ・クリーク・ヴァレーのほうが暖かいのだ。一緒に行った友人はナパ・ヴァレーのヨントヴィル辺りは、もう、マスタードグラスがまっ黄色に咲いてるよといってた。このことからもナパ・ヴァレーとドライ・クリーク・ヴァレーはソノマ・ヴァレーより暖かいことがわかる。ナパ・ヴァレーはソノマ・ヴァレーより内陸になるので、太平洋の影響を受けない。

ソノマ・カウンティの最北にあるロックパイル栽培地区(2002年にAVAの認定を受けている)を過ぎて、西(太平洋)に向かうSkaggs Spring Road(スカグス・スプリング・ロード)には入り,北に向かうAnnapolis Road(アナポリス・ロード)という山道に入る。曲がりくねった典型的な山道だけれど、きちんと舗装されているので運転にはありがたい。途中アメリカ杉の森を通過。ペイのブドウ畑の近くにハートフォード・コート(ケンダル・ジャクソン所有)の広大なブドウ畑が続く。ケンダル・ジャクソンは243haの土地を購入し122haの畑にピノ・ノワールを植えている。我が家からほぼ片道3時間かかって目的地のペイに到着。

山頂(標高238m)という感じで遠くに松林が見える。日が照っているけれど風はひんやり。

ここはブドウ畑だけで、ワイナリーはソノマ・カウンティの北部、クロヴァデイルにある。1983年に州のゾーニング(都市計画による地区制)の規則が変わって、森を畑に開墾するのはオーケーだけれど、ワイナリーの建設はだめということで、ワイナリーをこの敷地に建てることが出来なかった。

ヴェネッサ・ウオング(醸造担当)と夫のニック・ペイ(栽培担当)、兄のアンディ・ペイと妻のエイミー(セールス担当)の4人で経営する小さなワイナリー。

醸造家である妻は名前からもおわかりのように中国系アメリカ人だ。UCデイヴィス校で栽培醸造を専攻、ボルドー・インスティチュート・*エノロジーで学び、シャトー・ラフィート・ロスチャサイルド、ブルゴーニューの小さなドメイン、Jean Grosとで就業。このときにワイン造りの職人としての感性を学んだという。その後、ハーッシュ・ワイナリーで働き、ピーター・マイケル・ワイナリーで秀逸なワインを造り、注目を浴びた。2001年にペイ・ワイナリーを設立。ヴェネッサは小柄なので、力仕事は夫のニックが手伝うというおしどり夫婦。

畑:

ソノマ・コーストに所有する21haのブドウ畑はピノ・ノワール(14ha)、シラー(3ha)、シャルドネ(2.8ha)、ヴィオニエ(0.7ha)、ルーサンヌ(0.2ha)マルサンヌ(0.1ha)が栽培されている。ブドウはオーガニックで栽培、トラクター等はバイオー・ディーゼル、電力はソーラーパワーーとグリーンワイナリーでもある。降雨量は思ったより多くて152.4cm。今年はすでに101.6cmの降雨量で人造貯水湖は一杯になっていた。畑を歩いて回っているときに、ニックに聞いた。

「なぜ、僻地のソノマ・コーストに土地を買ったのですか?」

「サンタ・リタ・ヒルズの土地を買いたかったんだけど、高くて買えなかった。オレゴンのレッド・ヒル*にも行ってみました。でも表土が深くて、樹勢が強すぎると思ったのです。買わなくて良かったと思っています。タイミング良くこの土地が売りに出ていると聞いて、だれもブドウを植えていないところでチャレンジするのもいいかなと思って、ここに決めました。涼しい地区のシラーに近いピノになるかもしれないと予想したのですが、とても洗練された構成のいいピノが出来ます。サンタ・リタ・ヒルズのようにエレガントなピノが出来そうです。」

畑の一番高い位置からパッチワークのように数箇所に開墾された畑を眺める。松林に囲まれていることからも、涼しい土地だということがわかる。霧がかかる日もあるし、霜が降りる日もある。海風が吹く日もある。

土質:

この辺りは海底が隆起したもので、砂、シルト(沈泥)が主で、水はけがいい。有機物はあまり含まれていない。畑を開墾していたときに見つかったといって、砂岩でできた貝の化石を見せてくれた。触ると崩れて、砂になる。これがワインの個性の要素のひとつになっているかもしれない。

ソノマコーストってどこ?

ほとんどノース・ソノマといったほうがぴったり。北はメンドシーノ・カウンティとの境界線。南はマリン・カウンティとの境界線と縦に長く伸びている。詳細は同号のブドウ栽培地をご覧ください。

ワイン:

2009年シャルドネ ソノマ・コースト

ソノマ・コーストのブドウを購入して生産した新しいワイン。自社畑のブドウと近くのブドウ畑から購入したブドウをブレンドしたもの。

香りの焦点が定まっている。ミネラルが感じられ、口当たりはオイリー。味わいがびっしり詰まっていて辛口。フルーティなカリフォルニアのシャルドネとは一味違って、個性的。

2009年ピノ・ノワール ソノマ・コースト

スパイシーで完熟少し前のチェリーの味わい。まだとても若く閉じているけれど、楽しみ。エレガントさが伴う心地良いフィニッシュ。

1991年に植えた畑の初ピノで、どんなピノになっていくのか、期待と不安が一杯とニック。

2009年ピノ・ノワール Pomarium

色が濃く、香りの焦点が定まっている。よく熟した果実風味なのだけれど、口に含むとクールな感触。実力派のピノ。

2008年シラー Les Titans

スパイシーでブルーベリーの味わいと香りがあるエレガントなシラー。よく出来た涼しい地区のシラーで気品が漂う。

余談:私は昔からペイーのシラーが好きだった。

「5年ほど前の予想では、次のスターワインはシラーだといわれていたのに、今のワイン市場では、いもうひとつ人気が高まらない。ペイーのシラーの売れ行きは?」と聞いたら、「ピノはすぐに売れるけれど、シラーは売切れるまで1年かかる」という。

4人でゼロからワイナリーを立ち上げ、畑の個性を尊重した栽培、醸造をモットーに少量の秀逸なワインを造る、カリフォルニアの小さなワイナリー。見守っていきたい。