No.20 ロシアン・リヴァー・ヴァレー探訪(1)

No. 20 Date:2005-11-01


カリ フォルニアでピノ・ノワールの産地というと、カーネロス、ロシアン・リヴァー・ヴァレー、アンダーソン・ヴァレー、南へ下がってモントレー、サンタバー バラ・カウンティという産地名が浮かぶ。映画「サイドウエイ」でサンタ・バーバラ地区のピノ・ノワールが注目されて、ピノ・ノワールの売上も好調だ。
北カリフォルニアでは、カーネロスが良質で本格的なピノ・ノワールとシャルドネ栽培、生産地区の先駆者として、知名度が定着している。ロシアン・リヴァー・ヴァレーが、ピノ・ノワールとシャルドネの栽培にもっと適しているのではないかという声が聞こえ始めて久しい。
ロ シアン・リヴァー・ヴァレーは涼しい栽培地区だから、ピノ・ノワール、次いでシャルドネ、涼しい地区ならではのジンファンデル、最近はシラー、こちらも涼 しい地区の酸がきりっとしたシラーが造られている。 ロバート・パーカーはこの地区ではどのワインが好きなのかなと、チェックしてみたら、毎ヴィンテージ、ほぼ同じワイナリーが高ポイントを得ている。その ワイナリーもせいぜい5つほど。数ワイナリーの繰り返しで退屈。パーカーが高ポイントをだしたワインだけを飲むとか、パーカーワインが好き(懐次第だけ ど)というので、それだけを飲んでいると、似通ったタイプのワインを多く飲むことになって、ワインの世界が狭くなってしまう。私は狭い世界で生きるより、 広い世界で生きるほうが楽しいと思っている。大袈裟?

もちろん、パーカーワインは卒業、あるいは最初から冷ややかな人たちもいるはずで、 だからワインは面白いということなのだけれど。 そんなわけでパーカーが高い評価をしなくても、絶対に美味しいワインがあるはず。それを見つけようとロシアン・リヴァー・ヴァレーに出かけた。 まず驚いたのは、ロシアン・リヴァー・ヴァレー栽培地区はかなり広いということだ。この地区のウエブサイトで5つのセクションに分けて訪ねることを勧めて いるのも、納得。

Eastside Road/Old Redwood Highway Winery Tour
まずこのセクションから始めることにして、Rodney StrongJ Vineyardsの2つのワイナリーを選んだ。ロドニー・ストロングはお値打ちワインがあるかもしれない思ったから。Jヴィンヤーズのスパークリングワインとピノ・ノワールは飲んだことがあるけれど、行ったことがなかったので、ソノマのシャンパンハウスはどうかなという興味があった。
平 日にいそいそとJヴィンやーズのテイスティングルームに行く。サンフランシスコの新聞でテイスティングルームはフレンドリーで、とても楽しいと書いてあっ た。大きなカウンターにカップルと女性二人という試飲客が2,3人が立っている。ワインとマッチする食べ物をつけた試飲コースが(20ドルだったと思う) あって楽しそうだ。「うーん、これにしよう」と決めて待ってたのだけれど、アジア人のおばさんが(私のこと)一人で行って、カウンターからちょこっと顔を 出しているのを(背が低いから)、ちらっと横目で見るだけで、カウンターの中にいる3人の女性は待てど暮らせど、私のところには来ない。さすがの私も「待 てよ、これは差別されているのだ。意識的に無視されているのだ」ということに気がついた。
最初に訪問したワイナリーがこれで、ロシアン・リ ヴァー・ヴァレーへの期待がちょっとしぼんでしまった。文句を言おうかなと思ったけど、まだ行きたいワイナリーがたくさんあって時間を無駄にしたくないの で、やめた。アペリティフとして飲みたかったスパークリングワインはスキップして、隣にあるロドニーストロングへ行った。ソノマからどこへも出ずに、この ワイナリーだけに勤めている女性たちは、Jヴィンヤーズは高級です!というので、つんとしていて当然と思っているのだろう。ジョーダンワイナリーによく 行っていたころ、マーケティングを担当していたお嬢さんのジュディと話す機会がよくあった。気さくで賢い 彼女が建てたJヴィンヤーズだから、品が良くて優しいワイナリーだろうと勝手に想像していた。テイスティングルームに働く人たちの態度はマネージメントの 姿勢の強い影響を受けているはず。残念。
ロドニーストロングは大手のワイナリーで手ごろな価格のワインはお値打ち、でもちょっと高めのワインは 今、一つだった。テイスティングルームの男性と話していて、Jヴィンヤーズで無視された話をしたら、「あそこはつんとしているというのは、ここへやってき たお客さんから良く聞くよ」ということだった。

Healdsburg-area WineryTour
ヒー ルズバーグの町は、10年ほど前まではソノマの町をちょっと田舎っぽくした感じだったのだけれど、最近は話題になるレストラン、ドライクリーク・キッチ ン、サイラスCYRUS(フレンチランドリー風という話だったけれど、やっぱりフレンチランドリーには達していなかった)マンザニータなどのレストランや ワインバーがオープンして活気がある。周辺にレストランを使うワイナリーの数が多いからだろう。この町でランチかディナーをするのを目的の一つに入れてワ イナリーを訪ねてみるのも、1日コースとして楽しいかもしれない。ヒールズバーグの中心地からちょっと離れたところに5つの小さなワイナリーがテイスティ ングルームを開いている。Sapphire Hillと Camellia Cellarsがよかった。それから7つほどのワイナリーがヒールズバーグの町でテイスティングルームを開いているので、それも試飲してみたらいい。

Westside Road Winery Tour
Gary Farrellまで足を延ばした。遠かった。この地区の広さを実感。でも行ってみる価値はあった。ここのソーヴィニヨンブランは大好きなワインの一つ。こ のセクションにロキオリがある。ロキオリがある周辺が私にとってのロシアン・リヴァー・ヴァレーのイメージだった。美しいブドウ畑がロシアン川に沿って続 く。ロキオリは、地図にも載っていない。パーカーのおかげで、売れに売れて訪問客は来ても来なくてもいいということなのだろう。でもテイスティングルーム の人たちはゆったりしてフレンドリーだった。眺めが良くてピクニックテーブルもきれいだしパラソルもあって気に入ったから、ここでピクニックをしてもいい かと聞いたら、「もちろん!好きなワインを飲んで楽しんでください」といって、グラスにワインを注いでくれた。さすが!ロキオリだからの余裕だわね。ワイ ンが売切れたら、テイスティングルームを閉めるのだ。ワインがリリースされる月が書いてある紙をくれた。美しい畑を眺めながら2003年のピノ・ノワー ル・キュヴェを楽しみ、チーズ、クラッカー、裏庭で採れたりんごを食べる。美味しい!風が涼しい。

River Road West Winery Tour
101 号線をRiver Roadで降りて西に向かって走るとすぐ近くにレストラン「ジョンアシュ」がある。それを越してずうっと走ると赤いペンキ塗りの納屋のような家が特徴の マーティネリが左手に見える。右手はロシア川に沿ってブドウ畑が続く。ここも美しい。春になるとこの地区の人たちが植えた水仙が道路沿いにきれいに咲く。 River Roadをずうっと走ると、アメリカ杉の森があったり、ヒッピー風の小さな村があったり、ブドウ畑が続いたりと、変化に富む景色が目を楽しませてくれる。 走り続けると、松の木々で埋まった小高い山などが見え始め、かなり北へ来たなと感じさせる。スパークリングワインの会社コーベルが北端にある。

Rural Highway 116 Winery Tour
セ バストプールは昔りんごの産地として知られていた。今はブドウがりんごにとってかわっているけれど、それでもまだりんご園があちこちにある。円錐形の先が 細くなったさまざまな高さのクリスマスツリーを栽培している畑が広がりのどかだ。クリスマスが近づくと、子供連れの家族がやってきて、興奮した子供たちが 「これがいい、いやあっちのほうがいいと」迷った末に、生木を目の前で切ってもらい、車に積んで帰る風景が目に浮かぶ。子供たちにとっては、幸せなで楽し い思い出として心に残るはず。
Graton 近くになるとネーミングどおり、ルーラルで同じソノマなのかと思うくらい感じが違う。松の木が目立ち、風も涼しい。立ち寄ったスーパーに時々入ってくる男 性はカーボーイ風、みんなトラックを運転している。Gratonにリンマーのテイスティングルームがあったけれど、週に数日しかオープンしていないらし く、この日は閉店で試飲できなかった。
116号線を北上して、Hartford Family まで足を延ばした。かなり外れたところにある。建物は瀟洒で庭もあって、見慣れた高級ワイナリーのたたずまい。フレンドリーで話し好きのテイスティング ルームの男性が「ナパやソノマへはほとんど行かない。遠いから。ワインを飲んで食事をしたら帰るのが大変さ」と言う。なるほどソノマ・ヴァレーやナパから は遠い。この地区のワイナリーを巡っていて、インターナショナルなビジネスセンスを持っている人が少ないなと感じたけれど、その理由がわかった。この地区 の人たちは地方主義なんだ。ワイン業界はインターナショナルなのが当たり前と今まで、話した人たちから感じていたのに、なぜこの地区はそうではない人が多 いのかなと思っていた。その理由が理解できた。この地区で生まれて育った人たちが大人になったということなのだ。人里はなれた美しい土地で、この地区の人 々とツーリストに喜ばれるワインを造って幸せに暮らしていることで満足。そうだよね。別に全部のワイナリーが世界に認められるワインを造らなきゃならない ということはないし、そういう野望や大志をみんなが持たなければならないわけでもないのだから。
マーティネリーのオーナーの一人、ジュリーが祖 父の家に住んでいて、その家の後ろに急勾配のジャッカス・ヴィンヤード畑がある。「こんな急斜面でブドウを栽培 するのはジャッカス(雄のロバ、とんま)だけだよ」とおじさんが言ったことから、名づけたジャッカス・ヴィンヤードがすぐそこに見える道路を通って帰途に 着いた。小山に近い急勾配の丘にその畑はあった。
この地区で良く知られている大規模の栽培農家Dutton Goldfield の畑があちこちで目に付く。ナパのきれいに手入れされた畑を見慣れた目には大雑把な畑に見える。資本金と栽培感覚の違いなのだろう。グレートンのあたりを 走っていてもヴァーティカルに整枝されたブドウ樹が整然と並んでいる手入れの行き届いた畑は少なくて、枝が覆いかぶさったままという畑も少なくなかった。 グ レートンを通ってスペインのトレスの長女、マリマーさんが経営するマリマー・トレスへ行った。オーナーは主にサウスリート(ベイエリアの海沿いにあるきれ いな町)に住んでいて、必要なときにワイナリーの敷地の小高い丘の上にある(テラスからの眺望は素晴らしい)家兼オフィスにやってくる。その彼女のオフィ スでビデオを見せられて、私の車にワイナリーの案内役の女性が同乗して畑内を回りながら説明してくれた。
ロシアンリヴァー・ヴァレーは65のワイ ナリー,200の 栽培農家が存在する。栽培地区として認定されたのは、1983年。栽培地区は最近境界線の拡張が認められて、12万6600エーカーの栽培面積と大きい。 この地区は標識がきちんとしているし、年間行事イベントも地区全体として取り組んでいる。まとまった地区の資料やきれいな地図もあちこちにおいてあるし、 ツーリストにとっては楽しいところだ。でも地区の面積がかなりの広いので、週末だと1‐2セクションのワイナリーを訪れるだけで、時間切れになるだろう。 それからナパの華やかなワイナリーツアーを思い浮かべていた人は、その素朴さに失望するか、喜ぶか、どちらかだ。ヒールズバーグを離れるとレストランはな いので、ワイナリーでピクニックをするのも楽しいだろう。
パーカーが高い点をつけていないワインで、これはいいというのに出会ったかって?悔しい けれど、答えはノーだった。美味しくて良質なワインはあったけれど、飛びぬけて、「いい!個性がある」と思ったワインには出会えなかった。良質なワインで あっても、価格は決して安くはなくて「このワインなら、これくらいなら 払っても買いたい」と思わせるワインは本当にマレだっていうことを実感した。