No.34 アルゼンチン

No. 34 Date:2008-05-09

アルゼンチン・ワイン
アルゼンチンのワインはここ5,6年で、その質が急激に向上している。その前までは、質より量のワイン造りが一般的だった。もっとも、今でも安いワインは5リットルビンで売られていて、ワイナリーにビンを抱えて買いに来るというビジネスも行われている。
1990年代になって、ヨーロッパ、イタリア、カリフォルニアのワイナリーがその可能性と安さにひかれて、資本を投入し始めた。ポール・ホブ、ヘス、ドメイン・シャンドン、ローレル・グレン、ミシェル・ローランなどが進出し、栽培技術、醸造技術に対する意識改良に影響を与えている。

畑は山頂が雪に覆われているアンデス山が見える平らな土地に広がっている。平地に見えるけれど、なだらかに傾斜しているのだそうだ。 アルゼンチンではドリップ・イリゲーションはまだ導入されていなくて、私が目にしたブドウ畑は全て、畝に水路が掘られていて、アンデス山脈から流れてくる水を流して潅水をしている。あらかじめ供水のスケジュールが地区ごとに決められていて、その日に自分の畑の水路に流し込まないと、いらないということに解釈されて、次のスケジュールまで水はもらえないのだという。
地元の雑情報のひとつ。ケンダル・ジャクソンはアルゼンチンに進出して大きなワイナリーを建てた。でもブドウ畑の水を手に入れる権利を怠ったばかりに、ワイナリーとして機能することが出来ずに撤退したというもの。地元とのコネが強いワイナリーが買い取ったといっていた。現地を知らないで動くと、大損失につながるという教え。 2008年(南半球なので収穫は終了)は、収穫期に霰(あられ)が降ったという。霰が降る前に摘み取ったブドウは、なかなか出来がいいようだ。霰が降った後に摘んだブドウについては口を閉ざす。農産物を栽培するというのは、自然との闘いでどの世界でも苦労は同じ。

アルゼンチンを代表するワインはマルベックだということなので、主にマルベックを飲んでみた。8年前にブエノスアイレスへ行ったときに飲んだマルベックの印象は、信じられないほど安いけれど、どこか泥臭いワインが多かったことを覚えている。そのころに比べると、醸造技術が進んだのだろう、きれいに造られたワインが多かった。でもマルベックというブドウの野性味が削り取られて、個性に欠けた似たようなワインが多くなっていた。よく熟してフルーティ、アルコール度がちょっと高めのインターナショナルワインを造ろうとする意識が強く働いているようだ。近代的感覚でワインを造り始めて、それほど時間がたっていないのだから、ワイナリーはまだ試行錯誤をしているのだろう。近い将来、各畑の個性を生かしたマルベックを造るワイナリーが増えてくると思う。
アルゼンチンの多くの人々はワインは安いものだと信じているから、例えば60ペソ($20)以上のワインは、国内消費ではなく、輸出を目指しているようだ。 例えばProdigo Reserve( 60 ペソ)の裏ラベルは英語で記載されていた。 オーキーで果肉っぽい、スパイシーでライプ、口当たりはソフトとインターナショナルなスタイルに仕上げてあった。

短期間に急激に品質が向上しているけれど、マルベックという品種自体はカベルネ・ソーヴィニヨンのように長い熟成によって、うまみが増すブドウなのかどうか、ちょっと疑問だと思うけれど、まだわからない。テロワールを生かした単一畑のワイン造りの追求が、次の課題。これからが楽しみな産地だ。 フルーツ味が豊かで、タンニンが少なく、ちょっと野性味のあるアルゼンチンのマルベックが手ごろな価格で手に入るようになる可能性が高い。ミシェル・ロラン、ヘス・コレクション、ドメーン・シャンドン、フランスのシャトー等が進出していることからも可能性を見越しての進出だろうから、その可能性を追うのは面白いかもしれない。

ローレル・グレンは8年前から、メンドサの古いワイナリーと提携して、マルベックの生産を続けている。フルーツゾーンの位置、トレリスの改良といった栽培技術、ブドウは理想的に熟するまで待ってから摘む、自然酵母の使用、酸は加えないといったことを、ワイナリーが納得するまで時間をかけて話し合い、少しずつ意図しているワイン造りに近づいているようだ。相棒もローレル・グレンのオーナーのパトリックもメンドサ地区のマルベックの可能性を信じて、テラ・ロッサ(Terra Rosa、赤い土という意味)、ヴァレ・ペナ(Valle Pena、努力の価値ありという意味)を造り続けている。でもそれ以上に二人ともなぜかしらブエノスアイレスにぞっこんなのだ。

なんといっても悠長なペース、ヨーロッパ風でありながらラテンの朗らかさといい意味でのいい加減さがミックスされたペースを受け入れると、とても心地のよい土地だ。私もはまりそう。

印象に残ったワイン
☆2004 Malbec、Siesta en el Tahuantinsuyu
とてもポリッシュされたワイン。美味しいけれど、友人は命がないワインといった。120ペソ($40)

☆2005 Malbec 、Alta Vista Single Vineyard Alizarine, Mendosa,
よく出来たワインだけれど、印象が残らない。よく熟していてボディは中くらい。120 pese($40)

☆2006 Clos de la Liete
ミシェル・ロランのワイン。美味しい。マルベックにブレンドされているカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローの味のほうが強い。 彼のセカンドラベルは, Petite Fleur, とても軽くて飲みやすい。いつも買って飲みたいとは思わないけれど。

☆2007 Malbec 、Ique、 Enrique Foster, 35 peso($11),
キメの細かいフルーツ味がたっぷりで、コンパクト。ビーツの香り。酸味がしっかりしていてシンプルだけれど、ブドウの特色がよく出ていて美味しい。

☆2005 Malbec, Domingo Molina, 120 peso($40)
構成がしっかりしている。空気に触れて、カシス、黒系フルーツのアロマが立ち上がる良いワイン。

☆2006 Malbec, Mendel 75 peso($18)
果肉香。スパイス。程よい酸。まだ若くて少し硬いけれど、美味しいワインになりそう。

☆2006 Malbec, Reserve Chakana
黒系のよく熟したフルーツにつやがある。空気に触れるともっと美味しくなった。好みのタイプのマルベック。酸味も程よく、バランスが取れたワイン。

Achaval-Ferrer Winery (アチャヴァル・フェレル・ワイナリー)
最も成功しているワイナリーのひとつ。オーナーの一人、サンチアゴ・アチャヴァル氏はスタンフォード大学で学んだというエリート。パートナーはマヌエル・フェレル(アルゼンチン)、ロベルト・シプレッソ(イタリアの醸造家)、チザノ・シヴェロ(イタリア)の4人が1998年にこのワイナリーを設立。近代的なワイナリー。醸造法、栽培法も非常によく研究している。醸造はイタリア人のロベルトが担当。現在はコンサルタントに近い存在のようだ。実働はディエゴ・ロッソ(アルゼンチン)が行っている。
このワイナリーとは縁がある。サンチアゴ、ディエゴ、マヌエル、マルセロ(セールス担当)が我が家を訪れたことがあるのだ。初リリースのワインを持参でやってきた。もう覚えていないのだけれど、マルセロが言うには、私は手巻き寿司を振舞ったそうだ。それから入り口で靴を脱ぐように言われて、脱いだのはいいけれども靴下に穴があいていたのを隠すのに必死で、今でも、その話をして大笑いをするという。楽しい思い出だと話してくれた。ワイナリーでサンチアゴとディエゴとマルセロに再会。ようやくワイナリーを訪れることが出来て感激。「レイは毎年来ているのに、エミコはここへやってくるのに、何でそんなに長い時間が必要だったの?」とマルセロ。ロベルトは1日前にイタリアへ帰ったという。家族でイタリアで行われたロベルトの結婚式に出席させていただいて、イタリア式ウエディングを堪能させてもらったのも、懐かしい。
ワイナリーはナパにあっても、驚かないモダンな建物だ。セラーでは発酵が終わったワインの圧搾やら、一種のポンピングオーヴァーの作業をしていた。発酵タンクはコンクリートにエポキシをコーティングしてある。コンクリートの発酵タンクは壁が厚いので発酵温度が急に上昇しないのが利点だという。発酵中は頻繁にポンピングオーヴァーをして発酵温度を調節している。カリフォルニアのセラーではジーンズの男性、時には女性が作業をしているのが一般的なのだけれど、ここでは小柄な女性がエプロンをかけて作業をしていた。

スペイン語と英語で言葉が飛び交い、樽からのテイスティングで、メモを取っている暇がない。私が理解したのはキメラ(Quimera)、フィンカ・アルタミラ(Finca Altamira)、メンドサ(Mendoza)の3つのワインを造っているらしいということだ。キメラ(Quimera)はカベルネ・ソーヴィニヨンとマルベック、メルローのブレンド。フィンカ・アルタミラ(Finca Altamira)は10エーカーほどの単一畑のマルベックから造られている。 まだ樽で熟成中のブレンド前のいろんな畑のワインを試飲させてもらった。どのワインも口当たりが柔らかなのが共通していた。