No. 24 Date:2006-08-28

ブラックストーン・ワイナリー

ようやく雨降りの日々から開放されて、夏のような高気温の日々が続いて、ブドウ樹の生育が追いつき始めたと思ったら、またもや雨天続きで、ちょっと気落ちし 始めていた5月中旬にケンウッド村にあるブラックストーン・ワイナリーを訪ねた。醸造責任者のデニス・ヒル氏が超多忙の中、時間をとってくれた。これまでは主にプレミアムワイナリーを訪れてきたけれど、大型ワイナリーとしてフレンドリー価格で飲みやすいワインを造るワイナリーといわれるブラックストーンにいってみるのもいいかなと思った次第。
この時点では例年より成長が約2週間ほど遅れていた。シャルドネの花がちょっとだけ顔を出し始めた時期の雨だけれども、まだそれほどの大きな影響はないだろうという。早くからっと雨が上がってほしいものだと心から思った。

ワイナリーの帰り道、デニスが「1998年を思い出させるような天候で、、、」といって、彼の顔が下を向いた。まだまだわからによねと自分に言い聞かす。8 月27日現在、7月の猛暑にも耐え、ブドウが刻々と色づいて、スパークリングワイン用のピノとシャルドネ、レイク・カウンティではソーヴィニヨン・ブランの収穫が始まっている。ハーベストシーズンに突入。ハーベストが終わるまで、快適な天候が続きますようにと祈る。

ブラックストーンは1990年にネゴシアンのワイナリーとしてスタート。生産量約3000ケース、スタッフは全員で14人という小さなワイナリーだった。バ ルクワインを買って、当時人気があったメルローをブレンドして成功。その可能性を見通したのだと思うが、コンスティレーションが買収。中価格帯生産ワイナリーとして生産量を増やし、今では大型ワイナリーとなっている。このワイナリーの強みは世界規模を誇るワイン社コンステレーションが親方であることだ。モントレー、ソノマ・ヴァレーをはじめ数箇所にセラーを持ち、自社畑、栽培農家との契約ブドウ畑からブドウを買って、近いセラーでワインを生産している。コンスティレーションがモンダヴィワイナリーを買収したことからも、大きなメリットを受けている。モンダヴィが所有していたモントレー、セントラル・コースト、パソロブレスにある広大なブドウ畑のブドウを使うことができるからだ。と同時にモンダヴィのプライヴェート・セレクションと価格帯で競合する部分もあ るので、多少のライバル同士でもある。でもモンダヴィのプライヴェート・セレクションのラベルはカリフォルニア州で、原料ブドウはカリフォルニア全体のも のを使うが、ブラックストーンはCAラベルに加えてモントレー、ソノマ・カウンティ等、カウンティのワイン、それに単一畑のワインも生産しているところが 違うとデニス。

このワイナリーでは3つのレベルのワインを生産している。ワインメーカーズ・セレクトシリーズ(Winemakers Select Series)、プレスティジ・アペラシオン・シリーズ(Prestige Appellation Series)、リザーブ・シリーズ(Reserve Series)だ。

★ワインメーカーズ・セレクトシリーズ(Winemakers Select Series)

このカテゴリーでは消費者が求めているスタイルのワインを造るのがゴール。90年代のネゴシアン時代にスーパーやレストランのプライベートラベルのワインも 生産していた。スーパーやレストランは消費者が求めているスタイルをよく把握していて、注文をしてくることから、デニスは消費者の欲しているタイプのワインを熟知することができたという。
そこで口当たりが滑らかでフルーティ、ボトルをオープンしてすぐ楽しめる、飲みやすいワインを目指した。調査によると 35%の女性が収斂製性(苦味と感じてしまう)のあるワインは苦手としているという。その基本アイデアを元に折からのメルロー人気時代、メルローを生産して好評を博した。その基本アイデアをこのレベルのワインに適用してる。
バルクワインは使わず、様々なカウンテイのブドウを買ったり、自社畑のワインを使って生産。毎年、特質と品質が安定したものになるようにブレンドしている。
例えば今年は涼しい年になりそうな予測なので、温暖な地区のメルローを多く買い、涼しい地区のものは減らすというプランを立てている。白はモントレーの (自社畑もあることから)ブドウを使って生産。このクラスのワインは最新技術を駆使して、過熟すぎず、ダイエットコークのような甘苦いフィニッシュは避けて、きちんと酸味がフィニッシュに残るワインに仕上げてある。コマーシャルワインとしての造り手の技術を感じた。
このクラスのワインに求めるものはあくま でも美味しく飲みやすいこと。複雑味や飲み手にチャレンジしてくるしっかりしたタンニンなどの風味は意図的に避けている。だからシンプルだけれど18ドル。
(ワインショップだともう少し安いはず)出して楽しく飲むのにはお勧めだ。

2005 Pinot Grigio Monterey County $11

シトラス、メロンの香り。酸のきいたフルーツの甘味。ほどよくライプ。酒かす。少しの苦味がフィニッシュに残る。シンプルでフルーティ。グラスワインにぴったり。
2003 Merlot California $12
カシス、紅茶、スパイス、少しの生ハーブ香がアクセント。口に含むと軽やかなのだけれど軽すぎるということはない。今風のカリフォルニアの赤、爆弾?みたいな熟したフルーツ味はないけれど、美味しい。この価格なのだから、深みには欠けるけれど(当然)よくできている。
2003 Syrah California $12
黒系フルーツ、炭、華やかな香り。ボディは中位。一般的なワイン消費者に応えるタイプのワインで飲みやすい。

★プレスティジ・アペラシオン・シリーズ(Prestige Appellation Series)
ワインメーカーズシリーズで成功したのだから、それを生産し続けるというのではなくて、「なぜ次のレベルのワインを造ることにしたのかしら?、やっぱり醸造 家の自我を出したかった?」という意地悪な質問にもデニスは朗らかに笑って「ノーノー!」と言った。ワイナリーとしてのイメージを上げたかったという。こ れはどのワイナリーも思うことだから納得。 さらにデニスによると、アメリカの消費者が望むワインの質のレベルが変わってきているのだと言う。
数年前までは 8‐12ドル価格帯がよく売れていたのだが、今は12‐15ドルになり、その分、べターな質のワインを望むようになっている。それに答えるためにこのシ リーズのワインの生産を始めている。このレベルのワインはそういう消費者の要望に応える質に造っているが、食べ物とマッチすることも念頭の置いている。
2003 Riesling Cole Ranch Mendocino County $16
カリフォルニアにしては珍しくドイツのリースリングの香りの一つ、石油、ミネラルの香りと桃の香りがする。ドイツのリースリングが持つエレガントさはないけれど、その線を狙っているのが感じられる。カリフォルニアのリースリングとしては成功している。程よい甘味と酸、桃とリーチの味わい。
2003 Dolcetto North Coast $18
ロシアン・リヴァー・ヴァレーとナパ・ヴァレーのブドウをブレンド。シンプルで軽やか、スパイス、フルーツの甘味の長いフィニッシュ。グラスワイン、ピクニック、パーティにぴったり。
2002 Syrah Sonoma county $18
スパイス、香りは控えめ。口当たりは濃い。今までのものよりややライプ。アルコールを抜く作業とサニエをしたとのこと。
* サニエ(Saignee):赤ワインの果汁と果皮の比率を高くするために、果汁を取り除く技術。

★リザーブ・シリーズ(Reserve Series)
2002 Merlot Napa Valley $28
黒系フルーツ、少しの生ハーブの香りがアクセント。ナパ・ヴァレーのブドウらしいフルーティさにそこはかとない品格が備わっている。めずらしくタンニンも感じる。この価格帯になると本格派のメルローとの競争がはげしいかも。
2002 Syrah Dry Creek Valley $28
濃い色。スパイス、ライプ、黒系フルーツ。口に含むとライプなフルーツの甘味に酸が加わる。凝縮した味わい。 このクラスのワインはワイナリー(醸造家)のステートメントだという。テロワールを反映させてユニークなワインを造るのがゴール。$42というのが一つだけ あったが、全て26、28で30ドルを超えるのを抑えているところにマーケティングの賢さが伺える。30ドル以下のベストメルローとあったが、そうかもしれない。 大きなワイナリーではあるけれども、良い栽培家やブドウ畑を探してその個性に感動してそれを生かしたワインにしようとしている醸造家の共通の姿があった。
30ドル以下のワインの価格帯で、他社の個性豊かなワインと十分に太刀打ちできるだけの個性があるかどうかは、確信がないけれど、グッドヴァリューのワイン生産ワイナリーというカテゴリーから少しだけ抜け出ているワイナリーだと思う。