Date:2007-05-07

シャルドネ&フード
白ワインというとシャルドネを意味するほどシャルドネはワイン消費者の間に定着している。しかし「料理と合わせるときには難しいワインだ。ソーヴィニヨン・ブランのほうがマッチする」とワイン通の間でささやかれていた。それが今はささやきではなくて、かなり大きな声で言われるようになっている。特にオークの香りと味がたっぷりでバタリー、バニラの味わいが豊かなタイプは、料理になかなか合ってくれない。

3月中旬にカーネロス地区にあるワイナリー、ブシェインがシャルドネ・フォーラムというと大袈裟さだが、シャルドネと鶏肉を使った料理を基にしたペアリングというより、コンポーネント(成分)のマッチ具合を体験するイベントを開いた。 カーネロス独特のそよ風が吹く晴れた日の午後、カーネロス・インにある「ファーム」というレストランで、シェフのキンボール・ジョンズが作った6つの鶏肉料理とブレンド前のシャルドネも含めて10のシャルドネと合わせてみるという試みだ。 ジェネラルマネージャー&醸造責任者のマイケル・リッチモンド氏がシャルドネはデザイナーワインだと表現していた。要するに醸造家が造るワインなのだ。 ワインは醸造家が造るのは当たり前じゃないかというかもしれないけれど、例えばピノ・ノワールなどはシャルドネほど造り手の意図を直接に反映してくれない。シャルドネは同じ地区のブドウを使っていても、醸造家によって、異なるスタイルに造り上げることが出来る。だから消費者がシャルドネを選ぶ場合、いろんなワイナリーのシャルドネを飲んでみて、好みのワイナリーのハウススタイルを見つけるということになる。ある程度は他のブドウ品種についても同じことが言えるけれども、シャルドネは造り手の影響をより強く受ける。

  • 目の前に10のシャルドネが並ぶ。
  • ステンレスのタンクで発酵したノンオークのシャルドネ
  • D254という酵母で発酵したもの
  • CY3709という酵母で発酵したもの
  • ロバートヤング・クローンでD254の酵母
  • アメリカンオークで発酵したもの (ミディアム・トーストなのだが焦がしている時間が違うもの2つ)
  • BV4クローンのもの
  • 100%マロラクティック発酵、新オーク発酵のもの
  • 2005年のステンレスタンクで発酵したもの
  • 2005年ブシェイン・シャルドネとしてリリースしているもの (18%が新オーク樽)

当たり前のことなのだけれど、各ワインの香りと味わい、特色が驚くほどに異なっている。これらのシャルドネをブレンドしてブシェインスタイル(ハウススタイル)のシャルドネを造り上げるのが、醸造家の腕のみせどころ。アメリカンオークはシャルドネには合わないと思っていたし、実際、アメリカンオークのシャルドネをそれだけで飲むと砂糖が入っていないココアの粉末みたいな香りがした。でもそれを2005年のシャルドネとしてブレンドするとココアの粉末香は消えて、ほどよいニュアンスとなっている。ブレンドの技ということなのだろう。 現在、少し陰りが出てきたものの、大いにもてはやされているオークの香りと味がたっぷり、新オーク100%、マロラクティック発酵100%のシャルドネを醸造家のマイケルが意図的に100ケースだけ造ったそうだが、予測していたようにそのシャルドネはどの料理にもマッチしていなかった。 料理のほうは鶏肉なんて退屈と思うかもしれないが、あえてこの食材(高級な鶏肉ではある)でチャレンジしてみたとシェフ。

  • タラゴンとガーリックを使ったガランティーヌ
  • ローズマリーを使ってグリルしたもも肉
  • シャルドネ、オリーブ、たまねぎ、トマトを加えて密閉した鍋で、弱火で蒸し 煮にしたもの
  • パイの皮にバニラクリームとココアを使ったチキンポットパイ
  • ムラトチリをまぶしてオーブンでローストし、蒸したリークとオレンジを添えた もの
  • バターミルクとコーンミールをまぶして揚げた鳥の脚、ブルーチーズのドレッシ ング添え

料理にマッチするワインというのは、しっかりした酸味がある。2005年のシャルドネは上品で軽やか、程よい酸味があって、当然ながら多くの料理にマッチしていた。タラゴンとシャルドネはとても相性がいい。ムラトチリをまぶしたものは、好みが分かれた。トマトが使われていた料理はサンジョヴェーゼなんかのほうが、よくマッチするようだ。バニラクリームとココアの味がする鶏肉料理は初めて食べた。瞬間、デザートを思い出してしまった。バニラとココアの味が100%のマロラクティック発酵、100%新樽で熟成したシャルドネにマッチするはずとマイケル。でもやっぱり難しいなと私は思った。
マイケルが興味深い話をしていた。シャルドネはノンオークでも例えばシャブリのように偉大なワインが造られることがあるけれど、ピノ・ノワールはオークを使わないと偉大なワインにならないときっぱり言っていた。 もうひとつ、貴腐菌が付着したシャルドネから造ったものを予定外だったのに出してくださった。初めは少しかび臭かったのが、その香りが消えたら、酸味が程よくとても瑞々しい白ワインになったので驚いた。マイケルは長くは持たないといっていた。
またワイン造りの経験と科学的知識に加えて、冒険をしてみることも必要だという話をしてくださった。当たることもあれば外れることもあると自然体で話す彼の様子を見ていたら、長い間ワインを造ってきた醸造家の悟りを感じた。実際に造っていない人間は(私も含めて)ワイン情報を読み漁って頭の中でワインを造ることができるほどに暗記していて、ともするとなんでも知っていると勘違いしてしまいがちだ。
試飲会でそういう会話をしているグループに会ったことがある。あるワインを前にこのワインのオークがどうで、こうすれば云々と自信たっぷりに批判をしていた。事実は小説より奇なりではないけれど、どうしてこうなったのと聞いても「I don't know」というのが正解だということもある。だからワインは(他にもそういう分野がたくさんあるだろうが)面白い。これでいいということがない。

栽培管理が行き届く自社畑のシャルドネから、この地区のシャルドネがもつ特色をきれいに表現したシャルドネを生産しているこのワイナリーを注目したい。日本料理にも合わせやすいと思う。

2005年ピノ・ノワール、エステート
ラズベリー、スパイス、紅茶の香り。軽やかで上品。酸味はまだ若いので生。空気に触れてどんどん開いて華やかになってきた。シラーとレースタイプのピノ・ノワールがあるが、レースタイプを目指しているのですかと聞いたら、その真ん中を狙っているというのが返事だった。そしてこのワインはまだ実力を発揮していないといっていた。ピノ・ノワールは、気まぐれで最高の状態というのを見せてくれるタイミングがかなり難しい。パーカーがフルーツ爆弾とかすごい凝縮度だとかと感激するタイプのワインじゃないけれど、料理と楽しみながら気持ちよく飲めるとてもよく出来たピノ・ノワールだ。