ソノマのプラザから少し離れたところにザ・ロッジというリゾートホテルがあって、ホテルのレストランとして「カーネロス・イン」がある。カーネロス地区にあるインかと勘違いされても仕方がない名前だ。このレストランのソムリエ(自称ワインスチュワート)であるクリス・ソーヤーとは、ずいぶん昔からの知り合いだ。クリスはこのレストランのワインリストはほぼソノマ・カウンティのワインで作っている。それも、もう長いこと続けている。時々、他の地区のワインがこそっとリストアップされているのが微笑ましい。尊敬するのは毎月、テーマを決めて、それに当てはまるワインを載せた特別リストも作っているところだ。時々、今月はどんなテーマでリストを作ってどんなワインを集めているのかなあと興味しんしんでレストランのバーに寄ってみる。彼が勤務しているときは、ユニークなワインをちょこっと出してくれるのも楽しみのひとつ。

この日は、1日中、忙しくあちこち駆け回って、落ち着いて書いてる暇もなく、不完全燃焼的に疲れてしまった。このまま家に帰るにはまだ日が燦燦と照っている。美味しいワインを一杯飲んでから帰ろうかなという気持ち。そうだ、久しぶりにカーネロス・インに寄ってみよう。

厚いガラスのドアを押して中へ入る。外はまだ明るいのに、レストランのバーは薄暗い。カウンターに直行。うーん、今日はクリスはいないようだ。若いバーテンダーがカウンターに座った私をチラッと見て戸惑った表情。いつものごとく、そうか、さあ、どのくらい待つのかなあ、、。しばらくして、覚悟を決めたらしく寄ってきた。「一人でやってきて何を飲むの？」と顔に書いてある。

｢ワインリスト見せて｣ほっとした表情でうなづいた。

ワインリストを見ていると｢質問ある？｣と聞く。

｢ない｣あ、そうなのという顔。

キーナン（ Keenan）の2007年のメルローが載っていたので、｢このワインはタンニンがたっぷり？｣と聞いたら、｢そうでもないよ。サンプルを注ぐから飲んでみてから決めたらいいよ｣いい感じじゃんと内心微笑む。

フルーティでコクがある飲みやすいメルローだ。ワインだけでも楽しめるところがカリフォルニアワインのいいところ。でも、何かおつまみがあるといいなと思って、ワイン用のスモールプレートを頼むつもりで｢何かおつまみみたいのがない？｣と聞いた。バーのメニューを持ってくるのかと思ったら、「ああ、あるよ」と言ってピーナッツを持ってきてくれた。しばらくしたらポテトチップスも持ってきてくれた。何度もここへ来てるけれど、これは初めて。ビールのおつまみをワインに持ってきてくれたのだ。それに量も多めに。ピーナッツとポテトチップスとキーナンのメルローが結構いけるので、すっかり嬉しくなってしまった。

気分が良くなって、彼の名前を聞いた。「ブランドン,Brandon」とスペルまで教えてくれて、「サインをしようか？」とジョーク。

1グラスだけ飲んで帰ることができないのが私の弱点。2007年のロンダー（Londer）のアンダーソン・ヴァレーのピノをグラスでオーダー。チェリー、ラズベリー、紅茶。ルバーブの香りと味、熟したフルーツの甘味が、これまたワインだけで楽しめる。グレートなワインではないけれど品質はいい。このピノもポテトチップスとピーナッツで十分美味しい。

この日はブランドンのおかげで、ワインだからって、必ずワイン用のアピタイザーをオーダーしなくても、美味しく楽しく飲めるということを体験。ポテトチップスは厚みが合って、油っぽくさがなくてぱりっとしていて、塩味も抑え気味の質のいいものだったこともあるのだろう。

ソノマの街の中心を避けて遠回りして運転。近所のブドウ畑の夕日に照らされた若いブドウ樹は、小さな房の先端をつんと空に向かって伸ばしていた。開花がすぐそこまで来ている。