5月10日から13日にかけてナパ・ヴァレーのセント・ヘレーナにある、秀逸なカベルネ生産ワイナリーとして知られるスポッツウッドが「スポッツウッド・エクスポート・ギャザリング(
Spottswoode Export Gathering)」と題したイベントを開催。スポッツウッドのワインを輸入する世界のインポーター10社(ノルウエイ、フィリピン、ベルギー、カナダ、デンマーク、オランダ、日本、韓国、ドイツ、イギリス)がスポッツウッドへやってきました。2021年にこのイベントを二度企画したのですがコロナ惨禍でやむなく中止。今年、2022年に遂に企画が実行できたものです。
コロナの感染を避けるために招待された数インポーターが辞退しました。

SPW dinner

ワイナリー側も参加者もカジュアルな服装でリラックスしたムードの集まりでしたが、とても内容の濃いイベントでした。

5月10日のウエルカムディナーでスタート。BQとブルーグラスの生バンド、ワインではなくて、地元St. Helena の本格的な(水の入手先、ホップの栽培地によって造りを変えてる)ブティックブリューワリーのビールが振舞われました。もちろんワインを好む人にはワインも振舞われました。この日の午後は雹が降って芝生が真っ白になるという寒くて冬のような天候。ワイナリーのスタッフは革ジャン、ブーツという服装です。スニーカーとタイトパンツにセーターの私は、そのセンスに「なるほどなあ、ブルーグラスだもんね」と感心。

SPW cluster edited

5月11日はワイナリーと自社ブドウ畑のツアーから。醸造、栽培の両方を担当する醸造責任者アーロン・ワインカフの飄々とした自然体の説明がいい感じです。1982年にトーニー・ソーターがワインを造り始めた時からずうっとオーガニック栽培をしてきた畑を引き継いで、今はバイオダイナミックでの栽培に切り替えています。ニワトリ、山羊たちも労働力?の一部です。参加者がオリーブの枝を差し出すと喜んで食べる羊を見て、彼たちも喜んでるというほほえましい光景です。
オーストラリアの大学を卒業して家に帰ってきているスポッツウッドの長男ショーンは、毎朝、新鮮な卵を鶏小屋から持ってきて、自分で料理して美味しそうに食べてました(羨ましい!)
気温の上昇、不規則な雨のパターン、そして絶えず存在する火災の脅威の中、畑を守るために、いろんな対策を練っています。これはスポッツウッドだけではなくて、世界中のワイナリーの所有者は、ワイナリーを守るために積極的な対策を採用しています。スポッツウッドも 新しい品種の栽培実験、水の使用を抑えて最大効果を出すための新しい方法等を探っています。

ツアーの後は、オーナーのベスが育った文化財に指定されている美しい邸宅(スポッツウッドのラベルになっています)のプールサイドでランチ。チキンとサーモンのグリル、色とりどりの新鮮な野菜を並べたテーブルから、各自がお皿に盛って自分流のサラダを作って楽しみます。霰が降ってすごく寒かった昨夕とは全く逆で、ナパらしい程よい気温でなんという気持ちの良さ。
「こんなに野菜がたくさん出されて、ウサギか」と、日本であまり野菜を食べていない某さん。嘆きなのか、感心してるのかはわかりません。

午後から2010ー2019年のエステートワインの試飲と、2020年の核になるブレンドの試飲。各自がコメントをしていきます。人によってこんなに味覚が違うのかと驚きました。このテイスティングでは、ワイナリー側はワインアドヴォケイトの評価が100ポイントをとったという事実に一切触れませんでした。純粋にワインとヴィンテージのコメントです。アーロンとベスを含めてワイナリーのスタッフ(チーム)は参加者のコメントを真摯に受け止めています。私はこれがいいと思ったヴィンテージをパーカーは何点をつけたのかしらと内心思ってました。後日、ポイントをざっとチェックしたら、2002、2007、2010、2015、2016、2018、2019年というヴィンテージが100ポイントを取ってるんですね。
ヴィンテージと醸造家の個性が反映されてますが、どのワインもきれいにエレガントに熟成していました。造り手の手腕とワイナリーのオーナーのセンスに加えて、自社畑が生み出す素晴らしいブドウの個性を醸造家たちが反映させたのでしょう。

ちなみにワイン・アドヴォケイトのリサ・ペロッティブラウンは2018年のエステート・カベルネ・ソーヴィニヨンを以下のように評価しています。
86%のカベルネ・ソーヴィニョン、9%のカベルネ・フラン、5%のプチ・ヴェルドーで構成される、スポッツウッドの2018年のカベルネ・ソーヴィニヨンは、砕いたブラックカラント、新鮮なブラックベリー、野生のブルーベリーに添って、カルダモン、ライラック、御香、香の良い土壌といったアロマがグラスから放たれ、鉛筆の削りくずと砕いた岩の香りにつながる。ミディアムボディ、エレガントでありながら緊張感があり、鮮やかなカリカリの果実味とミネラルが豊かさをひらめかせ、素晴らしく熟した、きれいにピクセル化されたタンニンが骨格を作っている。フィニッシュはエネルギッシュで非常に長い。 Wowsers(うならされるようなもの) 100ポイント(2020年11月5日)

夜は近くに出来たホテル&レストラン(Acacia House)でディナー。大きなお皿に盛られた料理をそれぞれが自分のお皿にとっていただくというスタイルで、アット・ホームな雰囲気を盛り上げてました。大きなお皿に山盛りの新鮮なサラダ(ここでもウサギかのセリフが聞こえました)の後は、ラム、グリルした魚、ビーフにマッシュポテト、ポレンタ等のサイドディッシュが手際よく出てきます。綺麗に熟成したエステート・カベルネとよくマッチしてました。エステートカベルネはダブルマグナムで、3ヴィンテージが出されましたが、私は1998年と2005年しか覚えていません(汗)
オランダのインポーターが持参した1910年のコニャック(ご家族が毎年造り続けているそうです)をシェアー。110年という年月に思いを馳せながら感動していただきました。

SPW sonoma mountai

SPW goat

5月12日はソーヴィニヨン・ブランのブドウを買っている畑の訪問です。2021年ソーヴィニヨン・ブランは8つのブドウ畑(ナパ・ヴァレーが43%、ソノマ・マウンテンが57%)のソーヴィニヨン・ブランを使って造っています。元々はスポッツウッドの自社畑で栽培されていたブドウから造っていたのですが、そのほとんどをカベルネ・ソーヴィニヨン種に切り替えました。
醸造責任者のアーロンが意図するソーヴィニヨン・ブランを造るために、彼がブドウ畑を選びました。その畑のうちの、3か所を訪問しました。その畑の一つが高地にあるソノマ・マウンテンのブドウ畑です。前日に歩き回った自社畑のカベルネ・フラン種は開花がまじかでしたが、ソノマ・マウンテンという涼しい地区のブドウ樹は小柄で房も小さめで、まだ硬く、開花はまだ先という状況が一見で理解できました。海から吹いてくる冷たい風、済んだ空気が気分をすっきりさせてくれました。
次はカーネロス地区にあるHyde Vineyardsです。砂地でブドウ樹も葉も房もよく育っています。涼しい地区と言われているカーネロス地区ですが、ソノマ・マウンテンに比べると温暖なのですね。ここでは干ばつによる水不足が深刻だという説明を受けました。次はヨントヴィルにある畑を訪問。

SPW botlles

その後にランチです。セント・ヘレナにある有名なバーガー屋さん、Gott’s Roadside で予めスタッフがオーダーしておいてくれた、バーガーはもちろん、いろんなアイテムをビール、アイスティと一緒に楽しみました。私は大きなピクニックテーブルの向かいに座ったドイツと韓国の女性と歓談。絶対に訪問するねと約束。
ランチ後はワイナリーへ戻って、Lindenhurst (2014-2019) & Sauvignon Blanc (2016-2021) Vertical Tastings です。
Lindenhurst (2014-2019)
自社畑のブドウから造ったエステートのカベルネ・ソーヴィニヨンとはスタイルを明確に分けています。アーロンがイメージするナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンを彼が選んだナパ・ヴァレーのブドウ畑から買って造ったものです。程よいガッツのある?スタイルで、ヴィンテージの違いはあっても、どのヴィンテージも、「これはちょっと、、、」というのがありません。
そのスタイルが一貫していることに、彼の醸造家としての手腕を感じました。

Sauvignon Blanc (2016-2021)
このソーヴィニヨン・ブランはカジュアルに飲むシンプルな白ワインと一言では片づけられないソーヴィニヨン・ブランです。ブドウ畑の選別に加えて、小型の樽型のステンレスタンク、フレンチオーク樽、アンフォラ(粘土)、卵型のセラミックとコンクリート発酵タンクで発酵させたものをブレンドしています。
品の良いグラッシーな香りに、柑橘類の香りが加わっています。スポッツウッドのソーヴィニヨン・ブランはどのヴィンテージも決して重くはない上品で優しいシルキーな口当たりが一貫して感じられたのが印象的です。ヴィンテージによってはフィニッシュに夏みかんの味わいがありました。
「スポッツウッドはソーヴィニヨン・ブランを芸術の形に変えた」
「アメリカのソーヴィニヨンブランの貴族」とワイン評論家はコメントしています。

この日の夜はスポッツウッドのお屋敷のプールサイドでロブスター・ディナーです。ロブスターというと、テーブルクロスをかけたテーブルに一品ずつ料理が運ばれてくるというスタイルを想像するかもしれません。でもこの夜は一列に並べたテーブルにビニールシートを敷いて茹でたロブスター、ジャガイモ、とーもろこし、アーティチョークがドカンと置かれて、各自が手でロブスターを割って?いただくというものです。このカジュアルさに「えっ、とんでもない、なにこれ!」と戸惑う日本の某氏。
参加者全員が一堂に会して、決して安くはないロブスターを手で処理していただくという意外な演出です。食事が終わるとビニールシートをぐるぐると巻いて、牧草地で牧草をロールしたのをよく見るけれど、それと同じ形になりました。それをよいしょとゴミ箱に入れたら、テーブルは綺麗になって、ワインが置かれました。
気温が低くもなく高くもない温暖な夜で、多くの人が食後も残ってあちこちで歓談です。身長192CMという背の高いオランダのインポーターの息子さんが2018年のエステート・カベルネを所望(大胆!)フレンドリーな青年で、すっかり話があって、長いことおしゃべりしました。それにしても2018年のカベルネの美味しかったこと!!

5月13日、いよいよこの集まりの最後の日です。

午前中はスポッツウッドの邸宅の庭の噴水がある一角に集まって、ディスカッションです。それぞれの国のプローモーションの報告に、「いいね、うちでもやってみよう」とか、グレーマーケットが深刻な事態を引き起こしているというロンドンのインポーターの話などが報告されてました。マイクなし、噴水の音、それに早口で普通の会話のボリュームで話すので、少し耳が遠くなってるかもしれない私は、各国の独特のアクセントが入った英語の会話がよく聞こえなくて、半分も理解でませんでした。残念(涙)

次はエステート・カベルネ・ソーヴィニヨン、ライブラリーテイスティング。なんと1986& 1988,1993&1995, 2000,2003 & 2007年のテイスティングです。1986年だけ「もう死んでいる」「半分死んでいる」という意見と「まだまだ大丈夫、私はとってもいいと思う」と意見が分かれましたが(私もなかなかいいなあと思ったグループです)。味覚が違う各自のコメントでしたが、エレガントできれいに熟すしているという点では共通していました。

最後のランチは邸宅の芝生にピクニックテーブルが設置されて、ピッツアを焼く釜を引いてやってきた屋台バスで焼かれたピッツア、そしてウサギに食わせても食べきれないくらいのいろんなフレッシュなサラダとビールかワインでカジュアルランチ。それぞれが彼達のスケジュールに沿ってお別れの挨拶をして消えていきます。

コロナはまだ終わってないけれど、世界が再び近くなった気がして嬉しかったです。

カジュアルに演出した集まりでしたが、オーナーのベスが信条としているメッセージがしっかりと伝わりました。ベスのお父さんは、志半ば、40代で亡くなり、お母さんが守り抜いてきたワイナリーと畑をベスが受け継ぎ、利益追求型の売れるワイン(高い点を取るワイン)生産が大きな目的ではなく、自然保護、未来を見つめて地球を守り、ワインリーと畑を守って次世代へ渡すという覚悟が改めて伝わったイベントでした。